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    weedspine

    気ままな落書き集積所。

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    weedspine

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    仮面の行方。

    素顔のままで夕暮れが迫る、ほの暗い検事局の廊下を仮面の男が歩いている。
    黒いマントを頭から被り、目元だけ隠す仮面がチラリと覗く。
    その姿は、かつてバンジークス検事のそばにいた従者そのものだ。
    だが仮面の下は、名前すら失った男ではない。
    何もかも思い出し、ここ倫敦で新たな道を歩もうと決意した亜双義一真だ。

    父と再会し、記憶を取り戻したあの瞬間。剥がした仮面は地面に
    投げ捨てられ、拾うことなく亜双義はその場を去った。
    まさか、成歩堂たちが拾って探偵事務所に持ち帰っていたとは。
    先ほど現場で遭遇したメイ探偵から、持ち主に返すべきだろうと
    押し付けられるまでその存在を忘れていた。あの日がもう随分前に思える。
    なぜまた手元に戻ってきたのか。
    あの日々を忘れるなとでも言うのか。


    窓ガラスに映る姿は、仮面の従者と呼ばれた頃と同じだ。
    こんな、目元だけ覆った程度の仮面で何を隠せたというのだろう。
    いや、あの時は隠すものなど何もなかった。
    仮面を剥がした後こそ、己のために命をかけさせた相棒にすら
    打ち明けられないことを抱えていたではないか。

    「アソーギ検事」

    呼びかけられて、振り返る。少し後ろにバンジークスがいた。
    振り返った亜双義の顔を見て、驚き立ち尽くしている。

    「どうしました、バンジークス検事」

    亜双義はバンジークスに近寄り、向かい合った。
    彼の視線は仮面に注がれている。

    「どうして、それを?」

    「あの探偵事務所で保管されていたそうです。先ほど返されました。
     とっくにどこかに捨てられたと思っていたのに戻ってくるなんて……
     あいつも意外としぶといな」

    再び窓ガラスに映る姿を見る。仮面の従者が、こちらを見つめている。
    その後ろに立つバンジークスは、視線を外し口をつぐんだ。
    あの日々について触れていいものかわからないのだろう。

    貴公が、物静かで従順な従者を失ったのなら
    俺は、感謝と尊敬で満たされた主を失っている。
    お互い様ではないか。
    亜双義は舌打ちしながら、仮面を剥がすと、バンジークスの顔に被せた。
    顔の形も大きさもあっていないのだから、当然うまくはまらない。
    ずり落ちる仮面の端を、バンジークスは慌ててつかんだ。

    「貴様にくれてやる。俺にはもう必要ない」


    足音を響かせて、亜双義はバンジークスから遠ざかっていく。
    無理やり渡された仮面は思いのほか小さい。
    これひとつの隔たりで、何が違っていたのか。
    もう必要ないというのなら、師である自分がしまっておこう。
    今度は、どこにもいかないように。
    バンジークスは仮面をそっと掴み、亜双義の後を追うように歩き始めた。

    -完-
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