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    weedspine

    気ままな落書き集積所。

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    POIPOI 549

    weedspine

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    二度寝する師弟のお話。

    かまわぬ朝の陽ざしがレースカーテン越しに柔らかく降り注ぐ窓辺。
    そこに置かれた背もたれのない長椅子にバンジークスは横たわっていた。
    休日だというのに、いつもと変わらぬ時間に起こされ朝食をとったあと
    特に予定もないので優雅に二度寝と決め込んだのだ。

     揺れるカーテンの衣擦れと静かな寝息だけが聞こえていた部屋に
    亜双義がやってきた。
    休日でも起きる時間は変えず、何度も用意するのは手間だからと
    バンジークスも起こして一緒に朝食を食べた後は
    庭の散歩や、卓上に積み上がり始めた本の整理などをしていた。
    やっておきたいことを一通り終え、その後の用事もないので
    バンジークスの様子を見ようと屋敷内を探していたのだ。

    亜双義が部屋の中に入り、長椅子に近づいてもバンジークスは寝たままだ。
    その様子を感慨深く思いながら、足音を立てぬように近づいていく。

     従者の頃、朝の身支度を手伝おうと部屋を訪ねてもすでに着替えられていた。
    弟子となって再び住み込んで以降も、しばらくはそんな調子であった。
    朝に強いわけではなく、人の気配がすると目が覚めてしまうのだと、
    いつだか聞いた。
    自分の屋敷の中ですら熟睡できなかった10年を思うと、
    その原因に自らいくばくかの責任があるとはいえ同情を禁じ得ない。

    亜双義が住み込んで一年程たつ。近頃は朝に部屋を訪ねると、
    まだ眠たげな顔でベッドにいることも増えた。
    寝室に近づく気配だけで目が覚めるほどの緊張状態からは
    解放され始めているらしい。
    長椅子の縁に腰かけ、バンジークスを見下ろす。
    まぶたは閉じられたままだ。

     せっかく一日を始めたというのに、再び寝るなど亜双義には信じられないが
    二度寝こそ最高の贅沢だよ、と言いながら布団に潜り込む親友を
    引きずりだしたことは一度や二度ではない。
    この人もむさぼるほどとは、どれほど甘美なものなのか。

    法廷で見る横顔からは想像もつかない安らかな寝顔をじっくり眺めていたが
    全く起きる気配がなく、さすがに飽きてきた。
    手を伸ばし、指先でその顔に触れてみる。
    眉間の傷、眉、鼻筋、頬骨、唇……
    線で描くようになぞっていると、くすぐったさに眉がしかめられた。
    ようやく開いたまぶたから覗く瞳には、無理やり起こされた抗議が
    宿っているがそれにひるむ亜双義ではない。

    「人がいても寝たままとは。ずいぶん腑抜けたものだな」

    「部屋に入ってきたことくらい気が付いている。
     君なら構わないと思って起きなかっただけだ」

    「俺になら、寝顔を見られても構わない?」

    「君になら、寝首をかかれても構わない」

    ちょっとからかうつもりで聞いたのに、ずいぶん腹のすわった返事がきた。
    この人が、自分をそばに置いている覚悟の強さを突き付けられる。

    黙り込んでしまった亜双義を見て、バンジークスはその腕を引いて
    倒れ込んだ身体を抱きとめた。
    亜双義は言葉にならない声をあげながら起き上がろうとするも
    背に回された両腕の力は強く、全くほどけない。
    ほどなく諦め、大人しくなった亜双義を抱きしめたまま、バンジークスは再びまぶたを閉じた。

    亜双義一真、初めての二度寝はそれはもう甘美なものであったが
    それが二度寝だからこそなのか、敷いていたもののせいなのか、判断はつかない。
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