Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    weedspine

    気ままな落書き集積所。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐾 🍷 ⚔ 🌸
    POIPOI 460

    weedspine

    ☆quiet follow

    亜双義が言った「許すことはできない」に触発されての掌編。

    #大逆転裁判

    汝、赦すなかれあなたがたが人を許すのは、許すほどのことが何もないからなのだ

           G・K・チェスタトン マーン城の喪主 より



    倫敦の街に鐘の音が降り注ぐ。
    天を穿つような尖塔に挟まれた鐘楼は傾きかけた日差しをうけてまばゆい。
    重厚で圧倒するような建築は、日本の神社仏閣とは規模が違う。
    亜双義はこの国の教会を目にする度、自分が異教徒であることを痛感するのだった。

    「人々は何を求めて教会に通うのだ?」

    隣を行く師に問う。
    本来、検事は事件の現場を調べる身ではない。
    しかし異国の若人である亜双義が英国の裁判を扱うのに支障がないよう、
    できるかぎりのものごとを実際に見せたいというバンジークスの思惑の元
    2人は担当事件に関係する場所に赴くことが常であった。
    今もその例にもれず、現場を見た帰り道、二人並んで歩いていた。

    「興味があるならば、司祭か神学者を紹介しよう」

    弟子の何の気なしの質問にも、適当にやりすごすことなく至極真面目に対応する。

    「そういうことではなく、市民が何を思っているのかが知りたいのだ」

    必要なのは専門家の”正しい”ご高説などではない。
    被告人や証人たちがよりどころとする考えこそ知るべきである。
    亜双義の返しにバンジークスはしばらく黙し、言葉を探す。

    「あくまで持論だが……救いと赦しを求めているのだと思う」

    「許し?」

    かつて亜双義はバンジークスが父を告発し、死に追いやったことを許すことはできないと告げていた。
    それを受け入れると言っていた彼から”許し”という言葉がでたことが気にかかる。

    「およそ人には許せぬ罪こそ赦すのが神の慈悲だ。だからこそ人は神を敬い、すがる」

    亜双義の気持ちを汲み、慎重に説く。とうに成人し、優秀な検事見習いである彼だが
    私的なこと、こと彼の父の死にまつわることに関しては、思春期の子供さながらの危うさを抱えている。
    それをいたずらに刺激してしまうことをバンジークスは何よりも恐れた。

    「貴公も神に赦しを乞うと?」

    「まだ、自分の中で抱えていたいと思う」

    「そうか」

    数歩先に進んだ亜双義が振り返り、少し意地の悪い笑顔を見せる。

    「人が許せる罪に限度があるというのは納得だ。もし俺が、己の寛容さを示すためだけに
     あの事件のことを軽々しく”許す”などと言えば父とクリムト氏の行いと覚悟……
     そして貴公の改悛を侮辱するも当然だろう」

    「だがそれは俺にとっての話だ。貴公が自分の罪をどう扱うかは俺が手を出せることではない。
     先に言っておくが、貴様の自戒のためにかさぶたを剥がしてやるつもりもないからな」

    責任を安易に他に求めないことは通常称賛される性質であるが、バンジークスはやや行き過ぎるきらいがある。
    行き過ぎた自罰はいっそ快楽にもなりうる。
    彼の”許されざる罪”がそんなものに成り下がることこそ、亜双義は許せない。

    「分かっている」

    亜双義が叩いた憎まれ口の外にある思いも受け止め、バンジークスは頷く。

    傾いた日は二人の影を長く伸ばす。
    その影が混ざることはなく、ただ隣り合ったまま進んでいくのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏💯💯💯💯👏👏❤❤💖💖💖💖😭😭👏👏👏👏💯🙏🙏🙏🙏🙏😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭👏👏👏😭👏😭👏😭👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works