「夜に森へ入ってはいけないよ、鴉に闇へと連れて行かれてしまうからね」
小さい頃、祖母から教えてくれた言い伝え。近所にある小さな森を一緒に通る度にその言い伝えを口にしていた。そして、その度に、祖母は険しい顔で森を見ているのを今でも覚えている。
だけど、年を経ていくうちに言い伝えは子供を躾る為にわざと怖い話をしていたのだろうと思う様になっていた。そうやって、頭の隅にそんな話があったなと忘れていく筈だった。筈だったのだ『あれ』に会うまでは。
藪に身を潜めて息を殺す。両手で口を覆い、出来る限り音が漏らさない様にする。
木々の間から朱金色の光が垣間見える黄昏時、しかし垣間見えるとしても僅かな光、それ以外は既に夜の様に暗い森だ。
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