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    madam_summy

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    madam_summy

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    わたしの中で地下足袋ブームが起こっている

    ##五夏

    地下足袋旋風脚!「五条くんだよね?夏油傑です。よろしくね」
    肩から下げた大きなボストンバッグの重みを感じさせない爽やかな笑みには、敵意も威圧感もない。それなのに、俺は少しだけ構えていた。いや、あれは、恥ずかしながら、怯んでいたというのかもしれない。だから自然と、ナメられたくない気持ちが出てしまった。
    人生で初めての「同級生」というやつは、てんでおかしな格好をしていた。裾に向かって広がるボンタンをすらりと履いた下には地下足袋が覗き、長髪を雑に団子にしたうえで大ぶりの拡張ピアスを見せつけている。
    どこからどうみても、“輩”だ。

    夏油傑との初対面は四月一日の朝、ピカピカの制服に身を包んだ傑と、寝巻きで歯を磨いていた俺とが出会ったのだった。堅苦しい家と距離を取りたい一心で「四月の入学まで待ってられるか!」と通常より二週間早く入寮できるように取り計らってもらって、既に寮生活を始めていた。
    人生初めての集団生活に向けて、俺なりに漫画で勉強をしていた。同級生は大抵同じ制服を着ている。高専は術式のスタイルに応じて服装を変えることが可能だが、それでも皆、大抵似たような格好に収まる。黒衣に普通の靴だ。やってもスニーカーがちょっと派手なくらいだろう。集団生活でははみ出さないようにするのが、一般家庭の人間たちの基本らしい。
    俺の同級生は二人いて、ふたりとも一般の家庭から高専にやってくると聞いていた。
    だから『普通』の15歳、16歳が来ると思っていたのだが、やってきたのは想定していなかった装いの大男だった。

    「ガラ悪。土方みてえ」

    俺の何気ない一言が傑の逆鱗に触れたらしい。肩に下げていたバッグをドスンとその場に下ろした。
    「初対面で失礼じゃないか?」
    「そっちこそそのナリで入学するってどういう心境?」
    「何を言っているんだ。よくあるスタイルだろう」
    「いや知らねえし」
    「……それより、私の部屋に案内してもらえないか?君の部屋の隣だって聞いているんだけど」
    「あー?」
    洗面器に顔を埋めて、口をゆすぎながら返事をする。顔を上げると傑はますます険しい表情をしていた。
    「好きに使えば?なんか結構空いてるっぽいよ」
    「そういうわけにはいかないだろう。言われたところを使った方が管理するのに困らない」
    「ふーん。じゃあこっち」
    歩き出すと、俺の草履が擦れる音と、傑の地下足袋のラバーが鳴らすペタペタ音が木造の廊下に響く。少し歩いたらすぐに角を曲がると寮生の部屋が見えるが、人の気配はない。
    「こっからぜんぶ部屋」
    朝だからということと、術師の繁忙期中ということから、先輩は全員出払っていた。
    「いちばん手前が俺の部屋ね」
    「じゃあその隣だね」
    「いやそこは俺が使ってるからもういっこ向こう使って」
    「はぁ?」
    傑が素っ頓狂な声を上げて俺を見た。目線が少しだけ低い。背は俺の方が勝った。
    「君だけふた部屋使っているのか?」
    「空いてたから」
    「荷物をまとめてすぐに部屋を開けてくれ」
    「はあ?いいじゃん別に。たぶんその隣も空いてるよ」
    「そういう問題じゃないよ」
    「土方スタイルでお小言いうなよ。キャラブレてるよ」
    「君ねぇ、」
    「わかったわかった。とりあえず部屋の鍵開けてやるから荷物置けよ。な?」
    「いやだから、ここは私の、」
    「また後でセンセーに言っときゃいいでしょ。万が一部屋空いてないんならしばらく俺の物置部屋で過ごせばいいじゃん。決まり決まり〜。ちょっと待っててね〜」
    隣の鍵をとりに背を向ける。3歩前に進んだタイミングで、強烈な音が響いた。慌てて振り返る。傑が相変わらず汗ひとつかかずにそこにいた。
    真横にあった扉は消えていた。
    「鍵は結構」短く伝えてボストンバッグを俺の物置へ放った。軽々と下げていたくせに、ドスンと凶悪な音を立てて部屋の中に消えていく。
    「君も今日から学校だろ。遅れないように支度してこいよ。じゃ。案内ありがとう」
    俺を通り過ぎて元来た道を戻る傑から目が離せない。俺は気がつくと踵を返して追っていた。
    「え?え?なに?今の術式?」
    顔を覗き込むと、不機嫌を顕にしていた。愛想笑いよりもよっぽど面白い。
    「御三家ってすごい家だって聞いたけど、呪力の察知も教えないのか?」
    だって、こんなにはっきり俺に反抗してくるタメは、周りにいなかった。
    「何も感じなかったから聞いてんだろ」
    「そこは素直なんだな」
    「皮肉は受け流せって教わった」
    「上に立つものの教育?」
    傑の一歩一歩はとにかくデカくて早い。ポッケに手を突っ込んで、猫背でトロトロ歩いてるように見えたけど、足に力がしっかり入っている。
    「そんなんじゃねー、よ、」
    俺の大股でも引き離されそうになって、咄嗟に傑の腕を掴んだ。
    刹那、傑の影が動いて。
    俺は自覚する前に無下限を発動していた。
    目の前にはラバーを張った足袋の裏。無下限で防いでも尚、親指の部分がみちみち震えている。
    「これ、君の術式?」回し蹴りの姿勢のまま静止する傑が尋ねる。俺が頷くと、「天然のバリアってところか」分が悪いな。独りごちた傑が地下足袋を纏った脚を引いて、踵を返して歩き出した。
    「あっ、おい!術式の説明聞いてないぞ!」
    「使ってないよ。扉も蹴っただけ」
    「蹴り壊したの!?」
    「壊しちゃったね。どうしよ」
    不機嫌顔のままで綺麗な舌をだして、また地面を蹴って大股で歩く。
    ぐんぐん、ぐんぐん、俺を引き離していく。
    一陣のつむじ風が俺を嘲るように吹いた気が、した。
    面白い。
    同級生って、ヤバい。
    俺は自分の部屋に駆け出した。四月一日に着下ろすつもりでハンガーにかけてあった制服の形を思い出していた。襟の形も、裾の形も、靴も、何もかもが違っている。何か取り入れたい気持ちでいっぱいだった。
    だって、なんか。かっこいいかはわからないけど。なんかよかったのだ。
    夏油傑という旋風が俺の中で吹き荒れていたのは間違いない。


    地下足袋旋風脚!
    2022.09.18
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