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    田中なむ子

    @namuko643

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    田中なむ子

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    依央利は蜜壺に悪恋をする



    とある日の昼下がりの午後、依央利は昼食の炒飯の付け合せである卵スープを作りながらぽつり…と突拍子もなく奇妙なことを呟いた。

    「はぁ〜あ、大瀬さんのこと抱きたいなぁ……」

    「………は?」

    各々自身の部屋で作業を行う者や、外出している者がいる中で、依央利の作っているスープの匂いに誘われて他の住民よりも早くリビングに着席したテラは、依央利の突然の不可解な発言を聞き逃す訳にはいかなかった。

    「……ちょっと待って、依央利くん。テラくん今、依央利くんの口からとんでもない言葉が聞こえてきた気がするんだけど気の所為だよね???」

    流石にテラは、依央利がそんなおかしなことを言うわけがないと考え、依央利に確認をとった。

    「え?僕なんか言いましたっけ…?」

    どうやら無意識に出た独り言だったらしく、依央利は細い葱を俊敏な手付きで切りながらキョトン、とリビングにいるテラを見つめ返した。

    「はあぁッ!??言ったよ!!!テラくん、依央利くんの口からえげつない言葉が聞こえてきたから心臓止まっちゃうかと思った!!!
    さっき依央利くん、『はぁ〜あ、大瀬さんのこと抱きたいなぁ〜……』…ってものすんごいこと呟いてたんだよ!!!????」

    「えっ!?…………僕口に出ちゃってたんだぁ……やだぁ……恥ずかしいなぁ……♡♡」

    「急にカマトトぶるんじゃないよ本橋依央利ィ!!!!しかも無意識だったんかい!!言ってることえげつなさすぎて引くんだけど!!!!」

    テラがリビングで大きく悲鳴を上げる頃には部屋中は卵スープのまろやかな香りが広がり、やがて先程話題に出ていた張本人である大瀬がゆっくりとした足つきで階段を降りてきた。
    先程の会話を大瀬に聞かれたらまずい、と考えた依央利はタイミングを見計らいテラに「さっきのこと、他の皆さんには言わないで下さいね♡」とテラに可愛らしく微笑んで釘を指した。

    それは、先程までその「他の皆さん」の一人である大瀬を抱きたいと言っていた男とは思えない程に可憐な笑みであっだ。

    テラの気苦労も知らずに大瀬は、『いただきます…』と小さく呟いてから依央利が作った魚介炒飯と卵スープを美味しそうにゆっくり頬張っている。

    その光景を見ていたら、テラは依央利のたった一言に振り回されているこの状況が馬鹿馬鹿しくなっていた。

    (………あーあ!オバケくん、テラくんの気苦労も知らないでさ!
    美味しそうに炒飯頬張ってる!!)

    小さな口で、海老とチャーシューの乗った黄色い米を、もそもそと食べ進める大瀬を見ていたら、自身の美しい腹から『グウ』と小さく音がなった。
    ………ま、実行に移してないなら僕が口出しすることでもないか。

    冷静に考えれば、まさかあの優しい依央利が本気で大瀬と性交渉を行おうとしているなどありえるはずがないのだ。

    そもそも、あの二人は普段犬猿の仲と言えるほど仲が悪く、普段は他人に対して逆らわない大瀬が依央利に対してはかなり強気の口調で文句を言う。

    …あんな扱いを受けている依央利が大瀬のことを抱きたい?正直、テラには全くもって想像がつかないことであった。

    (………もしかして、依央利くん、テラくんのことからかってるのかな。)

    だとしたら合点がいく。

    そうだ。
    なぜ自分は依央利が大瀬のことを本気で抱こうとしているなどと考えたのだろう。
    大体、あの二人は男同士だ。テラ自身に偏見はないものの、あの二人がいわゆる同性愛者に見えるかと問われれば、ほとんどの人が間違いなく『No.』と答えるだろう。

    (きっと…依央利くんの冗談だよね。)



    脳内で無理矢理結論づけたテラは、冷める前に目の前の美味しそうな炒飯にさっさと手を付けてしまおう、と銀色に磨かれたスプーンを手に取ろうとした。
    ……もし、大瀬の方を見なければ何も気にせずにその美味しい昼食を楽しめていたというのに…。

    「ちょ…ちょっと、急になにするの…?触んないでよ…」

    …グリッ♡

    「ぅっっ!??♡あっ♡ふぅっ…!!♡ぶふっ!!」

    クリクリ…♡


    「ふっ…!!♡♡!??」
    「大瀬さん、声抑えて……!!!………もぉ、ご飯口から零して…汚いなぁ」
    「んぐっ…!!だ、♡誰のせいだと思っ…!!!♡」

    おいおい!!!ナニをヤっているんだ本橋依央利ィ!!!!

    テラがふと視線を向けた先には寝癖が付きっぱなしの大瀬と先程まで素っ頓狂な会話を共に行った依央利がいた。

    …いや、別に一緒に居るだけならばなにも問題はない。

    問題なのは、依央利が大瀬に行っている行動である。
    …何故だ。先程までおばけくんはその真ん丸なほっぺたを膨らませながら依央利くんが作った魚介炒飯を頬張っていたはず…………、なんだけど… 

    どういう訳か今、大瀬はその頬袋に溜まっていた米粒を真っ白な衣服にパラパラと零してしまっている。
    そして、その原因は高らかに声をあげて大瀬に小言を言っている自称無我の国民の犬(奴隷)にあった。
    ーーーなんとこの奴隷、大瀬の身体、もっと言えば大瀬の胸元………

    …………いや、乳首の部分を服の上から確かめるような手付きでさわさわ、と優しく触れていた手付きから、明らかに乳首をこねくり回す手付きへと変えた。

    何で、というか何のためにそんなことをしているのか。
    傍から見ているテラにはおろか大瀬ですら依央利からテラの前でこんな辱めを受けている理由が分からない。


    「ちょ、ちょっと依央利くん!!!」
    「あ、テラさんっ!どうしたんですか?炒飯、冷めないうちに食べちゃってくださいね〜」
    「ありがと!………じゃなくて!!
    何で依央利くんおばけくんの乳首をそんな入念に触ってるワケ!!??
    セクハラ!!!?」
    「そ、そうです!いおくん…テラさんの前でクソ吉にこんな辱めを受けさせてどうしたいの…?」
    「え〜〜〜?!僕が大瀬さんの胸元を弄っているのにはちゃんと理由があるんだけど!!!」

    依央利、テラ、大瀬の三人がギャーギャーと騒いでいると、珍しく昼食時に遅れてやってきたふみやは、キョトンとした顔で三人の顔を見渡した。

    「…おはよ、そんな騒いでどうしたの?
    はは…大瀬がでかい声出してるの久々に聞いた…」
    「あっ♡ふみやさんおはようございまぁす!ふみやさんの炒飯も今から盛り付けるのでお待ち下さいね〜!!」
    「うん。……で、さっきまでなんの話ししてたの?すごい楽しそうだった。」
    「あ!!!!!!聞いてよふみやくん!!さっき依央利くんがーーー」
    「採寸です!」
    「………は?」
    「大瀬さんの採寸のために胸元を触っていたんですよぉ!!」

    テラがふみやに告げ口をしようとしたのを悟ったのか、依央利は言葉を遮るようにしていつもより数段大きな声でふみやに告げた。
    確かによく見れば、依央利の手には採寸用のメジャーが握られていたが、それにしたってあの胸辺りの触り方はどう考えても異常である。


    「ちょ、ちょっと待ってよ依央利くん!あんなにオバケくんの乳首こねくり回しといてその言い訳はないんじゃない!??」
    「…ふ〜ん……依央利、大瀬の乳首触ってたんだ……採寸のため、だっけ?」
    「はい!!!!いっっつも大瀬さん、服を絵の具だらけにしているので大瀬さんの服を繕ってあげようかと思いまして!!!」

    依央利はふみやの言葉にまるで小動物のような可愛らしい笑みを浮かべて返事をした。

    「…へぇ。でも、なんで昼飯時にしたの?別に食い終わってからでも良かっただろ?」
    「だって大瀬さん、ご飯食べ終わっちゃったらそそくさと自室に戻っちゃいますから!
    創作の邪魔しちゃ可哀想ですしね!」
    「ふーん…………そうなんだ。
    あ、ねえ大瀬、乳首って他人から触られるとどんな感じするの?くすぐったい?気持ち良い?不愉快?すげえ気になる。」
    「っ………………こ、こんなクソ吉にそんなこと聞かれても…き、気持ち良いとか、悪いとか、わ、分かりません……」


    …余程恥ずかしかったのか、大瀬の金色の瞳から数滴、ポロポロと涙の粒が流れた。
    可哀想に、大瀬の頬は紅く染まり、涙に濡れるその綺麗な眼光は依央利の方を睨んでいる。
    …きっと理解辺りがこの光景を見たら、依央利とふみやは説教を受けていたことだろう。
    結局、その日の昼は外出から帰ってきた猿川、理解、天彦がリビングへと集まってきたため、依央利が大瀬の乳首をこねくり回していた件は深くは追求されず、その話はなあなあで流れることとなった。


    ーーーーーーーーーーーーーー








    その日の夜……



    ギシッ…ギシッ…

    …ゆっくりと階段を登る音と共に、その細身の身体はある一室へと足を運んだ。もう時計の短い針は2時を指しており、理解はおろか世界セクシーアンバサダーでさえも深い睡眠へと落ちていた。

    カリスマハウスの住民たちが夢の中にいるなか、二人の男は睡眠をとらないでいた。
    そして、そのうちの一人はもう一人の自室へと向かった。

    コンコン…
    「大瀬さん」
    「……………」

    コンコン…
    「…大瀬さん、もう寝ちゃった?」
    「……………」


    …ガチャッ
    「…………いお、くん。」
    「あ、やっぱり起きてた!ごめんね、夜遅くに。」
    「………な、何か用…?」

    夜の2時を過ぎた頃、大瀬の自室に向かっているのは依央利であった。

    「うん。今日のことで話があって…」
    「………っ!!!!!!!!!」

    依央利が昼間の話を持ちかけようとした途端、大瀬は頬を紅く染めて大きな瞳を更に広げて息を大袈裟に飲み込んだ。
    …正直、大瀬は昼間の話をもうしたくはなかった。

    「な、何…?その…さ…採寸なら、もう遠慮したいんだけど…。そもそもこんなゴミにいおくんが服を繕うなんて勿体ないから…」
    「もぉ〜!僕は奴隷だから気にしなくていいっていつも言ってるのに!本当僕の話聞かないんだから!
    あはは、大瀬さんって本当僕に対しては生意気だよねぇ」

    依央利の乾いた笑い声に、大瀬は肩をビクリと震わせる。
    口調はいつも通り優しいのに、何かが違う。強いて言うなら……いつもより、声が低い様な気がする。
    秋といってももう時期冷える頃だ。もしかしたら依央利は風邪を引いているのではないのだろうかと大瀬は考えた。

    「あの………い、いおくん…」
    「ん?どうしたの?」
    「…そ、その、声……。声が…」
    「ん?声?僕の声がどうかしたの?」
    「…そ、その………い、いつもより低い気がする………。
    も、もしかして風邪、ひいてるのかも………。
    だ、だから……自分なんかと話してないで早く寝ないと…」
    「…僕のことも心配してくれるんだ?
    …………結構優しいよね、大瀬さんは」
    「………………………そ、そんなんじゃ、ない…けど…」

    「だからムカつくんだけどね。」
    「……え?」

    そう呟いた瞬間、依央利は大瀬の白い手首を乱暴に掴んだ。
    そして、手首を掴んだまま大瀬の自室に依央利の細い上半身を強引に捻り込み、依央利の身体が完全に部屋に入り込むと、急いでドアを締めた。
    その一連の動作に困惑する大瀬の手首は未だ離さずに、そのまま無抵抗の大瀬の身体を押し倒した。
    そして、その上から覆いかぶさる体制でマウントを取り、大瀬の足を開かせたその隙に自身の腰を入り込ませ、両手首を床に押し付けて大瀬の逃げ場を完全に奪った。


    「…うっ、」

    強引に押し倒された大瀬は、突然の出来事に小さく悲鳴のような喘ぎ声をあげた。

    幸い、大瀬が絵の具で床を汚さないようにシーツを敷いていたので怪我はしなかったものの、普段他人から触られることに慣れていない大瀬は恐怖で完全に身体が固まってしまった。
    ましてや、相手はあの優しい依央利である。
    依央利にこんな乱暴なことをされたことに大瀬は理解が追いついていなかった。

    「…い、い、お…くん…?」
    「はぁ〜、ほんとムカつく。いっつも僕に対しては冷たい癖に、理解くんとかには懐いちゃってさ。」
    「なんで理解さんが……」
    「僕がいったいどれだけ大瀬さんに尽くそうとしてきたか考えたことある?無いでしょ?
    もし、僕がどれだけ大瀬さんに優しくしたって、貴方は僕の奉仕を絶対に受け入れてくれないんだよね?」
    「……………………」
    「……ねえ、なんで黙っちゃうの?文句の一つや二つあるんじゃないの?
    昼間は恥ずかしい目に合わされて、夜中にこんなこと言われて、責められて…………。大瀬さんはさ…、『理不尽』だなって思わないの?
    僕と違って大瀬さんは無我じゃ無いでしょ?答えてよ。」
    「……………分からない……」
    「………………………は?…」
    「…僕は、そんなこと考えれる存在じゃないから…。いおくんに対して、理不尽だって訴えるとか、責めるだなんて…そんなことは…」

    依央利の質問に対して、大瀬は矯声のような声でぽつり…と返答した。

    「……なにそれ。」
    「…ごめんなさい、」
    「なんで大瀬さんが謝るのさ。」
    「ごめんね…本当にこのクソが能無しなせいで…ごめんなさい…」

    弱々しく謝罪を繰り返す大瀬を見て、依央利はまるで襲われて抵抗できない少女のようだ、と考えた。 

    勿論、そんなはずはないことくらい頭では理解している。
    依央利と大瀬の身長は同じで年齢だって2歳しか変わらない。体格だって大瀬の方が肉付きがよく、依央利の方が細い。


    そんなことは分かっている。
    ……なのに、どうして。目の前にいる憎たらしいこの子が、……こんなに弱く、誰よりも愛おしく思えてしまうのだろうか?









    大瀬さんはいつも僕らに対して謝って、そして自分を責めて生きている。








    僕の奉仕を唯一、このハウスで拒む人。
    …………貴方は何考えてるのか分からない。正直、変な人。

    そして、僕のたった一つのアイデンティティでさえも奪ってくるムカつく人。…僕はそんな大瀬さんのことが気に食わなかった。




    とある日、趣味がない僕のことを貴方は『変』だと言った。
    だから仕返しとして、僕も貴方の趣味を「変」だって言ってやった。

    貴方とは毎日口喧嘩をした。
    僕が契約書を押し付けても絶対に捺印してくれなくて。僕は貴方に対していっつも腹を立てていた。




    ある日、貴方が僕たちの絵を描いてくれていることを知った。
    でも、それを知ったのは貴方がこのハウスから出ていった後だったけどね。

    あの時皆、貴方のことを必死で探したんだからね?
    理解くんなんて笛をずっと鳴らしまくってたし、猿ちゃんも柄にもなく一生懸命探して…もちろん、僕だっていっぱい探したさ。



    …なんで?


    皆さんが大瀬さんを探してって言ったから?…違う。だって、あの時は誰も僕に命令なんてしていなかった。

    …だったら何故?………きっと、僕がそうしたかった、から………。

    何でかは分からないけれど。
    あの時貴方が出て行って、本当にショックを受けたのだから。

    「もう会えないのかな」って。

    貴方は案外簡単に見つかった。
    いつもの、泥団子を作ったりふみやさんと駄弁ったりしてる河川敷にその青白い身体は鎮座していた。

    ……怪我をしたり風邪を引いたりしてなくて凄く安心した。
    その後貴方を連れ帰ったけれど、その時、大瀬さんが僕らの前で声を荒らげたよね。

    貴方は普段僕たちに自分の気持ちを伝えてはくれなかったのに。
    あの日、初めて貴方を………







    ……………『湊大瀬』さんを少しだけ理解出来た気がしたんだ。















    それからあの日以来、皆さんの説得もあってか、貴方は以前と比べてリビングに顔を出すことが多くなった。
    …何故だか分からないけど嬉しかった。


    僕は、家事をしながら自分の絵を描こうと頑張る大瀬さんをこっそり見るのが日課となった。

    あはは、もしこれが初めて出来た僕の趣味だというのなら笑えるよね。

    そして、気付けば貴方のことを目で追うようなった。
    …『湊大瀬』のことばかり考えるようになった。

    …いつも僕の奉仕を否定してくる、気に食わなくて生意気な貴方のことを、
    僕の役目を奪って、誰かの役に立とうとする優しい貴方のことを………







    あ………







    『…まだ食べてないもん…いぇ〜い…』








    あぁ…!!





    『い、いお…くん…』





    駄目…!





    『……だめ、りんご飴、買お…?』







    貴方に、
    そんな優しい声を掛けられたら僕は…









    「お祭り、楽しみだねぇ〜」
    『ふへ、はい…』
    「ふふふ、ねぇ〜」



    駄目だって…





    「もっと奉仕させろ、一緒にいて。」
    『あ…っ』


















    ………僕はずっと、…………『僕』の為にこのクソみたいな歪んだ恋に気づかないふりをしていたというのに!!!!!!!!!!!!

    「………やめて」
    「…は?」
    「…謝るの」
    「……………い、おくん………。」
    「……そういえばさ、昼間のアレ、大瀬さんは本当に採寸目的だって信じてるの?」
    「……??…う、うん。だって、そうでもない限り、こんな穢れた肉体に触る意味ないもん………。」
    「………あっそ。」
    「うん…。」
    「…もし違うって言ったら?」
    「…は?」
    「採寸目的じゃなくって、もっと他の、別の目的があったら?って言ってるの。」
    「………」
    「………………」
    「………別の、目的…………。」


    大瀬は全く分からない、といった顔で依央利のことを見つめた。
    当然だ。だって、採寸目的でもない限り、他人の胸を触る機会などそうそうあるものではない。

    「ごめんなさい…分からない。」
    「…そっか。じゃあ、教えてあげるよ。」
    「………別に、必要ないけど…」
    「………僕ね、最近大瀬さんのことよく見るようになったんだ。」
    「じ、自分を…ですか…?」
    「うん。絵を描いてる姿とか、ご飯を食べる姿とか、沢山観察するようになったんだ。」
    「え、な、なんで?自分なんか見てもつまらないし、気分が悪くなるだけだと思うんだけど…。」
    「…あのね………。
    僕にとってはそうじゃないんだよ。絵を描く大瀬さんも、ご飯を頬張る大瀬さんも、大瀬さんを見つめる度に僕は新しい貴方を知ることができるんだ。」
    「………僕なんかのこと、知ってどうするの…?」
    「さあ?」
    「……………………やっぱりいおくんって、へんなの。それに、その話と昼間の出来事と、何の関係があるの?」
    「まあまあ、慌てないで。最後まで聞いてよね。」
    「む………」
    「話の続きだけど、キミを見つめるようになってからあることに気付いたんだ。

    ………『僕だけが知ってる大瀬さん』が欲しいって思ってる自分がいることにね。」
    「…あなただけが…知ってる僕…?」

    押し倒されて困惑している頭で大瀬は思考を巡らせた。

    ……『依央利だけが知っている大瀬』?

    そんなものをなぜ、依央利は欲しいと望んだのだろうか。

    そもそも、このシェアハウスにおいて、依央利は大瀬にとってタメ口で話せる唯一の存在であり、他の皆さんに見せることのない生意気な態度や強気な様子は依央利に対してだけである。
    むしろ、大瀬にとって一番素を見せている相手は他ならない依央利のみである。
    なのになぜ、それ以上を依央利は望のだ?しかも、相手は生きる価値のない腐った肉体を持つ自分自身。


    ……やはり大瀬はいくら頑張っても理解することはできなかった。

    「なんでそんなものが欲しいのか…
    やっぱり自分みたいな低能には考えが付かないけれど、…いおくんだけが知っている僕なんて、わざわざ探さなくたって沢山あるでしょ?」
    「…………ないよ。」
    「あ、あるよ」
    「ないっ!!!!!!!!!!!」

    依央利は大きい声をあげたかと思うと、大瀬の手首を先程より強く握りしめた。
    細身の依央利の腕からは考え付かないほどの力に、大瀬はびくりと身体を震わせた。

    その大瀬の恐怖心による仕草が、さらに依央利の興奮の口火を切ることとなる。

    そして、目の前にいる大瀬を責めるかのように捲し立てた。

    「ない…ないよ…………………!僕だけが知ってる大瀬さんなんか!!!」
    「っ………!」
    「大瀬さんが僕にタメ口を聞くのだって、大瀬さんが生意気なのだって、大瀬さんが面倒くさい性格をしていることだって………!!!!!
    ………貴方が、凄く綺麗に笑う事だって、みんな、他の皆も知ってる…!!!僕だけじゃない!
    それに、例えそれが僕だけに対しての態度だったとしても!!!!皆が知っていたら………!!それはもう僕だけのものじゃなくなる!!」
    「い、いお、くん…?……どうしたの急に………」
    「だから、だから…ずっと焦っていたんだ。
    早く皆が知らない貴方を皆より早く見つけて、僕だけのものにしないとって…

    他の誰よりも大瀬さんのことを理解しているのは僕だけなんだって貴方が分かってくれれば、きっと大瀬さんは僕のことを意識するようになってくれるって思ったんだ……!!

    ……………だって…………!!!貴方はこんな空っぽな僕のことなんか直ぐに忘れて、きっと、他の誰かと幸せになってしまうじゃないか!僕と喧嘩したことも、笑いあったことでさえ、どうでも良くなる位の幸せを、他の誰かが貴方に与えるかもしれない……!!!!」

    ……そんなのは、耐えられない。
    …そんな光景を目の当たりにして、僕は次からどんな顔で作品を作る貴方を見ればいいんだ………。

    「………そう考えるようになってから、毎朝毎晩貴方が…例えば理解くんやふみやさん……………他の誰かと結ばれることを想像するようになって、眠れなくなった…
    …………どうしよう、もし、もしも僕以外の人を貴方が好きになったらどうすればいいの?…って。でもね、沢山考えたかいがあって、ある日分かったんだ。

    …僕しか知ることの出来ない大瀬さんの見つけ方。」

    「っ!?」


    そう言い終えるが先に、依央利は大瀬の手首から手を離すと彼のスウェットのズボンとパンツを強引に脱がした。



    「い、いおくん!!!ズボンとパンツ返して!!!!」


    「ダーメ!!
    だって、せっかく脱がしたのに返したら大瀬さん逃げちゃうでしょ〜?」

    いきなり依央利に下半身の衣類を脱がされた大瀬は腰を抜かしたが、幸いスウェットの上着は大瀬の体格より大きいサイズだったため、何とか裾を引っ張り、自身の極部が見えないように、と大瀬は必死に隠した。

    「なんでこんなこと…!!」
    「…………なんで?」

    「………いおくんは変な人…だけれど…、誰にでも優しくて、裏表のない誠実な人じゃん………!!
    なのに、昼間も…っ今も、こんな…………!!」

    「…大瀬さん」
    「じ、自分、に恥ずかしい思いをさせて…、いおくんは何がしたいの………?
    …こんなクズ、あなたがわざわざ手を汚す価値もない………
    僕のことがそんなに嫌いなら…!自分自身で僕を始末するから…!!!!」

    大瀬は、震える声で…しかし、依央利の耳に入るように。
    震えた右手にナイフを握りながらいつもの大瀬からは想像出来ないほど大きな声で依央利に訴えた。


    (嫌い?僕が大瀬さんを……?
    この人はさっきまでの僕の話をちゃんと聞いていなかったのか…?
    ううん、きっと…僕がどれだけ大瀬さんに自分の想いを伝えたところで、脳内には何一つ響かないのだろう…)


    (僕はこんなに、大瀬さんのことしか考えられなくさせられたというのに。
    それでも、貴方にとっての僕は特別な存在でも何でも無い。
    きっとただの、同居人で……ただの同居人の、空っぽな僕なんかが発する言葉など、何一つ貴方にとっては意味を成さないのだろうね。)



    今までも…これからも。


    ………………。




    ……………………………………………。



    意味がない、




    ………そうなら、………もし、言葉にしても意味が無いのなら………




    ………やっぱり。



    「…やっぱり僕は正しかったよ。」
    「は、正しい…?こんな…ことが?」
    「うん。……だって、あれだけの言葉を大瀬さんに伝えたのに、やっぱり貴方は僕の想いなんて何一つ分かってないでしょ?」
    「いおくんの想い…」
    「………」
    「はは、…」
    「…駄目だったんだ。」
    「駄目だったんだよ。やっぱり言葉で気持ちが伝わるなんて、そんなことは無かった。
    だって、僕の感情なんて理解されるわけがない。」
    「いおくんの感情…?」
    「……………僕が…」
    「…大瀬さんに昼間あんなことした理由はね
    …大瀬さんに他人とは違う、特別な目で僕のことを見て欲しかったからだよ。」





    「………は?」
    「この家で貴方に性的な接触をしようとするのはきっと僕しかいない。
    天彦さんはいつもあんなだけど、あの人は距離は近くても、貴方にはあまり性的なことは行わないようにしているって気付いたんだ。」
    「性的なこと…?」
    「うん。だって、貴方に下心を持って触れたりする人はここにはいないでしょ?
    だから、大瀬さんと確実に会えるお昼時に一度試しに貴方の身体を弄ってみよう、って思ったんだ。」


    貴方は部屋まで呼びに行ってもほとんど僕と会ってくれないしね。と依央利は付け足した。

    「一度でも性的接触を行えば、嫌でも僕を意識すると思ったんだよ。   
    現にさっき、僕がドアをノックしたとき昼間のこと、考えたでしょ?」
    「僕のことを意識する大瀬さん…!!!素敵すぎてドキドキしちゃうでしょ?」
    「だって…!!そんな大瀬さんのことは僕以外知らないでしょう!!?
    貴方のことをずっと見守っててあげている僕以外の他の人達は貴方の変化に気付けないでしょ!?」
    「だったら……!! 
    きっと、『僕のことを意識してしょうがない大瀬さん』は僕だけのものになる……!!」
    「誰のものでもない大瀬さんは僕だけのものになってくれる!!!」
    「僕に特別な感情を抱いてくれる!」




    「…でもさ、テラさんの前でやったのは失敗だったね。
    そもそも僕だけが知ってる大瀬さんを手に入れるために性的接触を行おうって決めたのに、誰かがいる前でやったら見られちゃうから本末転倒だよね。
    アハハッ、…僕ってば気持ちが先走っちゃってたかも。」

    大瀬は依央利が言っている言葉が理解出来なかった。
    同じ日本語のはずなのに、脳が依央利の放つ言葉の意味を理解してくれない。

    (本末転倒ってなに?
    なんであなたはそこまでして『誰も見たことがない湊大瀬』に固執するの?)
    (そんなものを手に入れたって、ゴミにしかならないのに。)

    ……それ以前に、他人に非合意の上で性的接触を取ろうとするなんて、いつもの優しい依央利からは想像が出来ない。

    いつもの彼はあんなに他人のことを想っているというのに。



    「もし、…………………
    誰かが見てなかったら…………」


    「え?」










    「…………………………誰かが見ていなかったら、あなたは僕の身体をどうするつもりだったの…?」





    ーーーーーーーー大瀬は聞くのが怖いと感じながらも聞くのを止めることは出来なかった。



    だって、本橋依央利は誰の目から見ても優しくて、他人に対して嫌がることを決してする人物ではない。
    そんな彼が、こんな自分に対して性的な欲求を持つことなどありえないのだ。
    ………決してあってはならないのだから。

    こんな下世話な話を本人に聞くのはきっと彼に失礼なのだろう。


    普通の人間であれば間違いなく、聞くのを留まるのだろう。
    それでも、聞かなければならないのだ。
    依央利が自分に対してどこまでの行為を望んでいるのかを。
    そして、知った上でそんな考えは捨てるべきなのだと説得をしないと。

    (…だって彼の手を汚さなくてもいい方法があるのなら自分は実行するべきなのだ)
    このままでは、一時の気の迷いで依央利の人生がとんでもないことになってしまう。
    だからお願いだ、どうか否定して欲しい。
    どうか、『僕が相手の合意なくセックスなんかする訳ないでしょ〜?』…と、自分のあり得ない悪い妄想を容易く振り払って欲しい。
    いつもの彼ならばきっときっと今回だって。


    (いつもみたいに、『大瀬さん馬鹿?』って、僕の考えを優しく茶化しながら否定してくれるでしょ…?)
    (だって、少なくとも僕が知ってるいおくんは…『皆の前のあなた』はそんな最低な人ではないでしょう?)


    そんな大瀬の淡い期待を打ち破るかのように、依央利は大瀬に向けてニッコリと形の良い唇を歪ませた。
    そして、大瀬の顔に自身の顔を近づけると、男性にしては高めの優しい声で大瀬が聞き逃さぬようにゆっくりと大瀬の耳元で囁いた。

    「ふふふ、大瀬さんは僕が貴方と何がしたいのか気になってるんだ?」
    「気になるっていうか………」
    「いいよ、そんなに気になるなら教えてあげるから。
    ……今から僕が心の底で貴方にどんなことをしたいのかをその身体に優しく、じっくり教えてあげるね…♡」


    依央利は大瀬にそう囁くと大瀬の青白く、柔らかい内腿に細く繊細な指をスルリ、と這わせた。

    「あっ……!!?」

    大瀬は依央利に這わせられた指にびくり、と腿を震わせる。
    依央利の手は、その血色の良い肌とは対象的に、まるで氷かと錯覚してしまうほど冷やかで、熱く火照った大瀬のやわい肌の体温と交り、やがてお互いの体温は同じになった。
    まるで氷も熱湯もお互いに影響されて自分自身の温度を変化させるかのように。

    「………ふふ、あはは!!
    あぁ、大瀬さん!!なんて、なんて貴方は愛おしいんだろう…!!!!
    わかる!?今、この瞬間僕の体温と貴方の体温は混じり合って、大瀬さんと僕は同じ温度で生きているんだよ!!」
    「ははっ……!!あぁ、僕という空虚なキャンバスが大瀬さんに染められていく…!!」

    本来ならば、自身の中に在るはずもない独占欲が。

    こんな意味のない空虚で出来た肉体に存在する糞みたいな性欲が!!!

    依央利の脳髄から足の爪先までを満たしていく。
    「……貴方の前で今まで抑えてきた、最低な感情がマグマのようにドロドロと、腹の底から湧き上がってくるみたい!」






    ねぇ!!もっともっと!!!




    触れて!!

    撫でて!!

    重ねて!!

    濡らして!!

    擦って!!

    塞いで!!

    挿入れて…!!!

    溶かして………!!!!!

    …溢れるような、そんなお互いの体温が完全に同じになるような、身体だけじゃあなくて、心までも絡みつくような甘い甘いセックスがしたい!
    確かな「愛」を貴方と紡ぎたい、
    もっともっと沢山、僕だけの「湊大瀬」さんが欲しい…!!
    他人の手垢が付着していない、貴方の奥の奥まで………僕は他の誰も知らない大瀬さんが欲しいんだよ!!!」

    そう言って依央利は、大瀬の柔く青白い内腿を片手で引っ掴むと、彼の内腿に熱を帯び、唾液を含んだ自身の薄い舌をそっと這わせた。


    「あ、んんっ…!!」

    突然の依央利の奇行に大瀬は怯えながらも、その薄紅色の唇から小さな悲鳴を発した。

    (辞めて、こんなのいつものいおくんじゃないよ…!)


    大瀬は頭の中で彼を非難する声を上げながらも、実際は自分に対して欲情している依央利のことをただ見つめることしか出来なかった。
    …突き飛ばすことは出来なかった。


    もし自分が、彼を本気で突き飛ばしたら彼は怪我をしてしまうかもしれない。

    もし自分が、彼が初めて打ち明けてくれた感情を否定してしまったら彼はもう二度と自分の意見など言ってくれないかもしれない。


    ………もし自分が彼自身を拒否したら、彼は傷ついてしまう…。




    それは駄目だ、湊大瀬。
    お前みたいなゴミクズが他人様を傷つける権利を持ち合わせているとでも思っているのか?


    「ん、ぢゅるっ…れろぉ…♡」
    「ひっ…!!!」


    大瀬は一人脳内で思考を巡らせていると、その間に依央利は大瀬が無抵抗なのを良いことに、大瀬のそのふっくらとした太腿を甘噛み、舐め回した。


    大瀬はいつも依央利に対して当たり前のように吐いている悪態が、何故か今だけは吐けなかった。

    ギチリ…と自身の青白い太腿に、彼の華奢で細い指が強く食い込む。


    「いたっ…!!痛い…!!
    いおくん離してっ…!!!」 
    「大瀬さん♡綺麗、すっごくきれいだよ♡」



    綺麗なんてそんなことありえないのに。
    こんなクソの身体を綺麗だなんて言うのはきっといおくんぐらいだろう。
    こんな状況なのに、大瀬の脳内はいつもの自虐を忘れない。
    天井を見つめながら眼の前の異常な行動をしている男性をじっと見つめる。
    だが、半ば現実逃避をしかけている大瀬のことを引き戻すかのように、依央利は大瀬の白い内腿に接吻を落とした。

    「大瀬さん、大瀬さん、大瀬さん、すき♡だいすき♡」
    ぢゅる…♡ちゅっ♡くちゅ…

    大瀬の繊細な柔肌に、依央利の透明な唾液がぐちゅり…と生々しく音を立てて、大瀬のシーツに零れ落ちた。

    ぬるりとした液体が自身の身体を伝う感覚に、反射的に嫌悪感が生まれる。

    「っっ!!ひぃっ!!!いやだぁっ!!!あっ…あぁっ…!!気持ち悪いっ…!!!やめてぇっ!!!」
    「ねぇ、そんな事言わないでよ、大瀬さん♡
    今こんなに、僕の愛を与えてあげているというのに。
    どうして貴方は哀しそうな顔をしているの…?」

    ちゅっ♡ぢゅっ♡


    リップ音を立てて依央利は大瀬の太腿に大量のキスマークを遺していく。
    大瀬のその病気のような白い肉皮には無数に淡紅色の痣が付けられていく。

    そんな依央利の異常な行動を見て、ついに大瀬は嗚咽を口唇から溢した。



    「んっっ…、ひっく、ふぅっ…!!」
    「なんで…なんで、泣くんですか?

    僕、貴方のことを気持ち良くしようと頑張ってるのに…こんなに…僕があなたのことを愛してるって証明しようとしているのに、なんで?
    なんで大瀬さんは僕のことを拒むんですか?もしかして、僕のこと嫌いになったの?」
    「……。っふ、んぅっ…!」
    「…………大瀬さん、
    『嫌いになってないよ』って言ってくれないんだね。」
    依央利は真っ黒な瞳を大瀬に向けながら言葉を発する。
    そしてその金糸雀色の大きな眼孔から大量に零れ落ちていく大粒の露を、依央利は親指で撫でるように拭った。
    ただ、…それでもこの人の涙は留まることを知らない。
    拭い終わって尚、彼の美しい硝子玉からは音もなく水滴が流れ落ちていく。

    (あぁ…そんなふうに泣いてばかりいたら、貴方の綺麗な瞳が皺くちゃになって萎んでしまうよ。)

    そう内心で考え、せめて泣き止んで貰おうと依央利は優しい顔で大瀬に微笑んで、『泣かないでよ』と声を掛けたが、逆効果だったのだろう。
    大瀬は歯を食いしばりながら首を横に振って今も尚、依央利の身体を弱い力で引き放そうとしている。

    大瀬さんは優しい。
    こんな状況でも僕が怪我をしないように気を使ってくれている。
    本気を出したら僕の骨と皮だけの身体など簡単に突き飛ばすことが出来るだろう。
    でもこの人はそうしない。

    …だって、この人は優しいから。

    僕は、よく他の人から優しいと言われるけれど、この人の優しさと僕の優しさは根本的なものが違う。
    僕は、他人に優しくすることで自分の存在意義を見出している。
    …それはきっと、『他人の為』の建前を被り無理矢理正当化しただけの自分勝手な行為なのだろう。まぁ、間違いなく悪事ではないのだろうけれど。
    でも、本当はそんなの良くないって、何年も前から理解しているさ。

    …だけど、

    だけど、僕はそうでしか生きられないから。

    僕はそういう人だから。
    だったら仕方ないでしょう?
    でもこの人は違う。
    この人は自分のためじゃなくて誰かの為に他人に優しくしようとする。

    他人からは勘違いされやすいけど、誰かの為に傷つくことができる人。

    僕と似ているようで全く僕とは考え方が違う人。

    この人の言葉は、僕の本心を見透かしてまるで、僕が触れたことのない僕を知っているみたいだ。

    僕よりも歳下なのに、この人は僕よりもずっとずっと、大人で。

    …だから、僕はこの人の優しさに甘えてしまう。


    この人なら、もしかしたらこんな僕を受け入れてくれるんじゃないかと、微かな希望を抱いてしまう。


    もしも、貴方のその絵の具とシャンプーの匂いが漂う柔らかい肉体に包まれることができたなら、どれほど気持ちがいいのだろうか
    そうして、自分よりも少し脂肪のついた優しい匂いの胸元に抱き寄せられ、貴方と文字通り、一つに繋がってしまうことができたなら。
    ねぇ、僕にとってそんな幸せなことはないんだよ?


    大瀬さん



    好き。



    大好きなんです。




    貴方に触れたい。




    抱きしめて欲しい。






    貴方………いや、キミと他の人には口が裂けても言えないような猥りがわしいことがしたい
    キミの前では、僕は無我でいられないんです。
    僕には大瀬さんだけなんだ。

    なのに、

    君は僕の方を振り向いてはくれない。
    僕にとっていくら大瀬さんが特別であろうと、君にとってはそうじゃない。
    特別な大瀬さんは特別じゃない僕なんか要らない。

    …それなのに。きっと、理解くんやふみやさんは、僕や皆が知らない『特別な大瀬さん』を知っているんでしょう?

    僕が見たこともないような笑顔や怒った顔を見せるんでしょう?


    …そんなのズルいよ!!!!
    ズルい!!ズルい!!!ズルい!!!!
    皆さんばっかり、ズルいですよね?
    僕は大瀬さんのこと、こんなに、こんなに知りたいって思ってるのに…!
    なのに、僕はキミのことを、未だに何も分かっていない…!!

    …だから、分かりたいんです。
    知らないから…、知りたいんです。
    他の誰でもない、キミのことを。
    大瀬さん、キミが好きなんだ。

    だから、だから…………

    「大瀬さん、ごめんね…、もう我慢できないかも。」
    「………え?」
    そう言い放つと、依央利は大瀬の内腿に食い込ませた指ゆっくりとある場所を目掛けて這わせた。

    そして、彼の口唇と殆ど変わらない色をした淡紅色の蕾の表面に依央利の唾液を塗りつけた。

    「っッ…!??」

    ぬちゅり…と粘着質の唾液が、ヌルヌルと大瀬の鎮まりに付着した。

    「な、何っ…!?」
    「僕の唾液。」
    「っそんなことはわかってる…!!
    僕が聞きたいのはっ…!!」
    「やっぱり処女だからかなぁ…挿入んないなぁ」
    「しょっ…!!そんなの、僕は男だから当たり前でしょ…!
    そんなところに指挿れようとするなんて、いおくんどうかしてるんじゃないの!?」
    「どうかしてないよ。だって慣らさないとお尻裂けちゃうでしょ?」

    言いながら、依央利の指は誰一人として侵入を許すことが無かった大瀬の穴の入口でくにくにと入り込もうと動いていた。
    唾液のおかげか懸命に動かしたかいがあってか、依央利の指の先端が大瀬のナカに少しだけ入り込んだ。

    「いぎっ!?」
    「あ、ちょっと入った!良かったぁ」
    「い……だっ!!いたいっ…!!痛い!!」
    「急に奥になんか突っ込まないから安心して?大丈夫だからね。」
    「ひぐぅっ………いっ………んっ……」
    「泣かないで?ほら深呼吸。
    吸って、吐いて〜」
    「嫌だぁっ!!!!痛い!気持ち悪い!抜いてぇっ!!」
    「ほら、ちゃんと息して?」

    依央利は大瀬に対して優しい笑みを浮かべた…が、その笑顔の下では、依央利の細指は大瀬の小さな蕾を蹂躙しており、浅いところを何度も、何度も出し挿れしていった。

    くちくち、ちゅぽちゅぽと思わず耳を塞ぎたくなるかのような淫猥な擬音が、大瀬の狭い部屋に響き渡った。

    「っ……あぁ……!!」
    「どう?もうそろそろ痛くなくなって来たでしょ?」
    「やめっ、やめて………!もうこれ以上僕のナカ拡げないでっ!!」
    「う〜ん、それは聞けないなぁ…。まだ大瀬さんに気持ち良くなってもらってないし。」
    「んっおっ、こんなのでっ………!
    きもちくなんか…きもちくなんかっ…!!!

    ッ?!!!ぎぃっっ!?!?いおくの、ゆびっ!!!根本ッ!!!く゛って゛っ!!?」
    「…わ…凄…。絶対に無理だろうなって思って駄目元で指全部突っ込んでみたんだけど………
    大瀬さんのナカほんとに僕の指丸々一本挿入っちゃったね♡」

    依央利は綺麗な顔を厭味ったらしく大瀬に向けてニッコリと笑いかけた。
    機からみたら、依央利は最低な男にしか見えないが、しかし彼にとっては全て大瀬を気持ち良くさせるための行為であり、ただ大瀬に尽くしたい一心なのだ。
    そして叶うのなら、彼のナカに自身を受け入れてらいたい。

    「ホントさいあく…!!!」
    「何言ってるの?最悪じゃないでしょ?ほぉら、二本目挿入するよ〜。」
    「…!!ひぐぅ!?っっ!!」

    何の前触れもなく二本目が挿入されたかと思えば、今度は一気に2本指で激しい活塞が行われた。

    「んぉっっ!?!?ィッ、いぎぃっ!!」

    依央利の唾液は大瀬の穴を行き来する潤滑油となり、彼の指は何の遠慮もなく大瀬の後孔を犯した。

    「あっぁっあっぁっ…、〜〜〜っ!!!!」
    「う〜ん、イマイチ気持ちよくは無さそうだなぁ………ネットでは男の人でもお尻で気持ち良くなれる場所があるって書いてたんだけど………
    どこだろ。大瀬さんの気持ちいいところ。」

    依央利は上下左右、指が届く限界まで大瀬の尻の穴をほじくり回した。
    「う゛ぐぅ……!!っ…!!
    えぅ……ひぃっ……!!っ!!!
    ……?、!?!?ひぎぃっ!!!!♡♡♡♡」

    ちゅぽちゅぽ、と大瀬の蕾を弄くり倒していると、彼のナカに胡桃大の突起物が存在していることに気付いた。
    そして、『ソレ』が指を掠めた瞬間、今までただただ悲痛そうだった大瀬から甘さを孕んだ喘ぎ声が発された。

    「?…何コレ。大瀬さん、お尻のナカありえないくらい腫れてるよ?」
    「ひぐう…!!♡」

    依央利がその突起物をほじくるたび、大瀬のふくよかな臀部はヘコヘコ、と無様に揺れた。


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