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    真白ゆりこ

    @AA_373

    字書き。書きかけやら何やら色々置いています。

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    真白ゆりこ

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    日中書いたものを書けたところまで。
    全然猫の話まで到達できていない上に急に終わります。

    猫の日の沢深小説 その日はなんだか体育館が騒がしかった。朝練の開始三十分前に到着した入り口で両足を揃え体育館中に響き渡るような声で挨拶しながら体育館に向かって一礼をしてから中に入ると、既に先に来ていた一年生たちが体育館の複数ある扉の内、体育館裏の林に面している扉の一つに集まっていた。皆一様にしゃがみ込み、何かを全員で見ているようだった。
    「どした?」
     沢北はそこへ近付き、彼らの後ろから声を掛けた。すると振り返った一年生たちが一斉に弾かれたように立ち上がり勢いよく頭を下げる。
    「おはようございます!」
    「あ…」
     頭を下げたまま、一人が今しがた見ていた体育館の外へ首を捻って残念そうな声を漏らすと他の一年生も同様に外を再び振り返った。
    「行っちゃった…」
    「何かいたのか?」
    「猫です」
     沢北の目の前にいた一年生が沢北を見上げてそう言った。白と黒のハチワレだったと彼は言っていた。
    「深津さん、ハチワレって何すか?」
     よく晴れた初夏の日差しは中庭に植えられた桜の木のおかげで木陰となって地べたに座った沢北の顔に影を落とした。その沢北を背もたれにして座った深津の顔はすっかり影の中に収まって購買で勝ち取ったという焼きそばパンを齧る。沢北が何の脈略もなく話し始めたくらいで彼は動じることなく、ゆっくりと口の中のものを飲み込んだ後、低く落ち着いた声が返ってくる。
    「動物の話ピョン?」
    「あ、そう。猫なんですけど、よく分かりましたね」
     沢北が深津の顔を後ろから覗き込むと二人の夏服のYシャツが擦れる。深津は当たり前のように特に何も気にした様子はなくいつも通りの落ち着いた表情でパンを咀嚼していく。
    「ハチワレは犬とか猫の模様のことピョン」
    「へぇー」
    「こう、おでこの真ん中から八の字に割れた模様ピョン」
     深津が後ろを振り向く。自身の顔の上で八文字を書いて見せた深津の指が、微かに沢北の顔を掠める。沢北は深津の顔より少し上からそれを見ながら感心したようにその大きな目を開いて頷いた。
     深津は物知りだ。自分が何も知らないだけかもしれないが、知らないと言ったことを深津は何でも答えてくれた。深津は知識を決してひけらかすことはしない。知らないことを馬鹿にもしない。今回のように相手から聞かれたり、話題に上がったときにただそっと、自分の知識を分け与えるように教えてくれるのだ。以前何故そんなに色々なことを知っているのか聞けば、一般常識の範囲だと断った上で、自分が知らない物事と出会ったとき、それが何なのか調べるのが昔から好きなのだと教えてくれた。バスケをしていなかったらきっと彼は学者か何かを目指していたかもしれない。そうしたらきっと自分とは一生顔を合わすことはなかっただろうから、山王に来て同じバスケ部に入ってくれて本当に良かったと沢北は心の中でそっと手を合わせた。
    「朝練のとき体育館に、白と黒のハチワレの野良猫が来たんですって」
     いつの間にか深津の手元にはラップで包まれたおにぎりが握られていて、焼きそばパンの袋は白いビニールの手提げ袋の中にしまわれていた。片手で七号のバスケットボールを持てる大きな掌にちょうどよく収まるサイズのおにぎりはきっと寮母さんの手作りのものだ。前の日に伝えておくと朝練前には名前が書かれた付箋をラップに貼って、玄関先に出した机の上に並べておいてくれるそれは、寮生の中ではお決まりのものだった。沢北も午前中の休み時間にそれを食べたばかりだが、深津のように一口で中の具までは到達できなかった。普段大口を開けて笑うことも、声を張り上げる部活中ですらそんな大きな口を開けることは少なく、こうしてまじまじと深津の食事姿を見るようになってから彼の口がとても大きいことを知った。
     沢北は深津の肩に頭を乗せるようにして、もぐもぐと動く彼の口元を覗き込む。するとすぐにおにぎりを持っていない方の手が伸びてきて沢北の顔を力強く押し返した。
    「ってぇ」
    「近い…食ってる顔をそんな近くで見るなピョン」
    「照れてるんすか?」
     深津の掌に目元を覆われた沢北が白い歯を見せて笑うと、深津は掌でその小さな顔を握るように力を込めた。沢北はまた蛙が潰れたような声を上げ、身体を起こして深津の手から逃れる。
    「照れてるとかじゃなくて…普通にそんな近くで顔見られたくないピョン」
     突き放すような言い方に沢北は深津の後頭部を目を細めて見つめる。Yシャツの襟に半分ほど隠れた頸の剥き出しの部分が、いつもよりも火照った色に染まっていく。二人はしばらく黙ったままだった。突然沢北が深津のウエストで交差させていた腕を素早く動かして、深津の胸に広げた掌を当てた。瞬間深津の身体がびくりと跳ね、すぐに沢北の手を剥がそうと彼の手の甲に自分の手を重ねる。しかし自分の胸と沢北の掌の間に指をねじ込むも、なかなかそれは剥がれない。そうこうしている間に頭上から沢北の楽しげな笑い声が零れ落ちてきた。
    「深津さん、心臓バクバクじゃん!」
    「るっせーな…」
     地を這うようなその声も、接尾語なしの罵倒も、沢北の胸をときめかせる以上の効果はなかった。沢北はぎゅっと深津の身体を後ろから抱き締めながらその肩に顎を乗せてそっと深津の表情を下から覗き込む。
    「俺と付き合おう?」
    「付き合わないピョン」
     ぴしゃりと言い放たれた言葉に沢北はちぇっ、と不満を漏らしながらもその表情は緩んだままだった。
    「最近毎日振られてる。慰めてください」
    「お前が毎日ぺらっぺらの告白するからだピョン」
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