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    kira2starlb1

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    ヴァイ墓

    横で眠る彼の小さな寝息に耳を澄ます。
    自分と比較してみれば大きな身体、とは言い難いが一人前の大人が胎児のように丸まり、眉間にしわを寄せて眠っているというのはなんとも寂しく見える。
    可愛い恋人と共に眠れるようになるまで随分と時間がかかった。

    私が彼に愛を告げた時、彼は拒絶の一択だった。
    嘘だなんだと躱す姿も可愛くないといえば嘘だが、些かせっかちなこの性分では我慢できず、逃げようとする身体を腕の中に閉じ込めたのがいつの事だったか。
    ようやく私の想いを理解してくれたようだったが、どうも気を許してくれていなかったようで一緒の時間を過ごしてもどこか距離があった。
    しかしこういった人間を落とすのは私の得意分野でもある、ただ愛を囁けばいい。
    変化のない毎日の中に織り交ぜる小さな毒薬は少しずつ彼の体の中、心の中に染み込んでいき気づいた時には…私に気を許していた。

    「…おい、どうしてそんなにお前は…僕に、その。…そういうことを言うんだ」

    「何度も言っているじゃあないか、私はアンドルー…君を愛しているからだ」

    「…ふん」

    ここまできてしまえば後はもう押すだけ。
    伸ばした手はいつものように振り払われることなくアンドルーの頬に触れ、両の掌で優しく包んでやる。
    なんの真似だ、と膨れっ面をしてくれてみせたがそれすらも可愛く見える。

    「なんだ、僕にキスでもするつもりか?」

    「その通りだと言ったら?」

    大袈裟に目を開き、ニヤリと笑ってみせれば動揺した瞳が視線を彷徨わせる。
    その姿があんまりにも可愛くて返答を聞く前に口付けてしまったのだが…アンドルーは拒絶することなく、むしろそれがお気に召したようで頬を赤く染めたままトン、と体をこちらに預けてきたのだ。

    「…僕は、こんなのしたことがない」

    経験豊富な方が度肝を抜かれてしまうが、その心配は必要なかったようだ。
    その時は腰に抱きついてくる可愛い恋人を抱きしめ、そのまま部屋へと連れて帰ってしまったのだがやましい事をしようという気は起きなかった。
    折角気を許してくれたというのに事を急がせてはまた彼が離れかねない、それが嫌だと思うくらいには惚れていたのだ。
    一晩限りの関係など幾度となく繰り返してきたがその全てに〝次〟や〝我慢〟などという言葉は存在しなかった、しかし私は目の前にいる彼を大切にしたい、そう思った。

    「もう夜も遅い、一緒に寝ようアンドルー」

    ベッドを1人分空けてやったのだが何かを警戒して近づこうとしない。
    それどころか部屋の隅に小さく丸まってしまっている。

    「どうしたんだ一体、何かあったか?」

    「あ…ぁ、いや、違う。……眠れないんだ。だから迷惑をかけるかなって」

    「眠れない?」

    どうやら夜が怖いらしい。
    墓守という仕事柄、夜に活動することが多いように考えていたが…どうやらそれは関係ないようだ。もしかしたら恐怖を押し殺して仕事をしていたのかもしれない。

    「…そうか、なら怖くないようにしてやろう」

    部屋の隅に鎮座する彼を優しく抱き上げ、抵抗の意思がない肢体にほんのりとした優越感を感じながらゆっくりベッドの上に置いてやる。
    もぞもぞと居心地が悪そうに布団の中へと入っていくのがなんともいじましい。

    「…アントニオ?」

    どこに行くんだ、と目が訴えかけている。
    枕が足りないだろう、と棚を漁ってから戻れば服の裾を引っ張られた。

    「どうした、すぐ戻ってきたじゃないか」

    「…うん」

    まるで迷子のようだ。
    頭を撫でてから空いた隙間に入り込めばいくら大きなベッドといえど多少の狭さはあるが、しかし今は隙間を少しでも埋めたい、2人の距離が離れないように。
    吐息すら感じられるほどぴったりと寄り添った我々は静かな部屋の中、まるで2人きりの世界になったかのようにすら思えた。

    「夜が怖くなくなるようになればいいのだが」

    「…暗いのが苦手なんだ、色々思い出すから」

    「そうか」

    深くは聞かなかった。
    彼の過去を慰めたとて、一人で夜を越えれぬ彼が救われるわけでもない。
    ならば静かに寄り添うのが解だと思ったからだ。

    「なぁ…どうして僕なんだ」

    「どうして、とは?」

    「いっぱいいるだろう、魅力的な人間は…どうしてこんな、僕なんだ。」

    自嘲気味に笑う彼に揶揄いは見られない、何かを諦めたかのような、物を取り上げられそうな子供の泣く寸前、のような。
    そんな顔をしている。
    大の大人がそんな顔をするな、とはいえなかった。
    あまりにも寂しそうだったから。

    「君がいいと思ったからだ」

    「どうして?」

    「どうしてと言われても…君が君だから、としか言いようがないな。」

    人を好きになるのに理由がいるだろうか、少なくとも彼は理由が欲しかったらしい。
    生憎こんな性分なもので彼の望む返答はうまく返せなかったが、それでも今まで感じてきた他人への好意とは違う。それだけはわかる。

    「地面に這いつくばる姿も、音に惑わされている姿も、待機室でうたた寝をしている姿も…全てが可愛いと思えるのは君だけだ」

    「ま、待て!うたた寝なんてしてないぞ!」

    「してたじゃあないか、一昨日の昼…」

    「くそっ、見てたのかよ!」

    うたた寝をしながら額を机に強打していたところまで見ていたと告げればヘソを曲げて壁の方を向いてしまった。
    可愛い。

    「そんな姿すら可愛いと思えるのだ、私が君を愛していることを理解してくれたかね?」

    「うるさい!わかった、わかったから!もう」

    「可愛いアンドルー、機嫌を直してこっちを向いてくれないか?」

    目の前にさらされた頸を触れるか触れないか程度の具合でなぞれば、ぶるりと震えた彼が怒った子犬のような顔でこちらを向いた。
    こんな可愛らしい子犬ならば噛まれても痛くないだろう、躾は飼い主の責任だが。

    「次可愛いって言ったら怒るからな」

    とっくに怒っているように見えるのは…はたして私の勘違いだろうか。
    むくれたまま目を閉じる彼も時間が経てば本当に眠くなっていたようで、小さく呼びかけた声は返ってくることがなかった。

    (…しかし、まるで子供じゃあないか。)

    拗ねた子供が親の腕の中で眠る。そんな光景が脳裏にチラつくがそんなものは見たことも、経験したこともない。
    しかしそれが世間一般の幸福というものだろう、あの女は自分にそうしてくれることはなかったが。
    命ごと引き離された母親の影を追い信仰に縋る目の前の男と、愛されることなく天才としての器に閉じ込められた男。
    なんだ、二人とも寂しい人間じゃないか。

    「アンドルー?」

    物思いに耽っていると小さくしゃくり上げる声が聞こえた。
    確かに眠っているのだ、寝言だろうか。

    「………お…母さ…ん…」

    返事をする事はできなかった、私は彼の母親ではないのだから。
    どんな夢を見ているのだろう、再会の夢だろうか、それとも別れの夢?
    それが彼にとって嬉しいものなのか、苦しいものなのか、それすらもわからない。

    (あぁ…私まで夜を嫌いになりそうだ)

    いつまでも小さく囚われ、この腕の中にいてもなお救われることのない彼を苦しめる夜など嫌いだ。

    「ごめんなさい…ごめ……な…さ……」

    「いい、許す、なんだって許されるのだ、君は。」

    彼がしたことを私は知らない。
    それがたとえ命を冒涜する行為だったにしろ誰かを傷つける行為だったにしろ、この身に悪魔を宿す自分に比べれば幾らだって彼の信じる神に許される。
    しかしその神が許さないというのであれば。
    神が彼を愛さないのであれば。
    この私が彼を許そう。
    私が彼を愛そう。

    「凡庸なる君に、いつか救いが訪れますように。」

    願わくばその救いが私の手によって与えられるものであれば、と小さく願った。
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