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    kira2starlb1

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    kira2starlb1

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    サン穹ワンドロ 遅刻組
    多分55分ぐらいドロ

    薄い、一枚隔てた先の胡散臭いとか、信用ならないとか、そういった評判は全くもって俺も同意だった。
    けれど知ってしまった、舞台の上の彼が仮面を外し礼儀正しくカーテンコールに応える姿を。
    だから、信頼してしまったのかもしれない。



    「愛?」

    「愛って、なんなんだ?お前そういう話得意そうだろ」

    「いや、まぁ……じゃなくて急になんです?僕のところにメッセージ送ってきて、要件もまともに言わずにここに来いとだけ…。まあそんな内容で来てしまう僕も僕なんですけどね」

    逢瀬、と言うにはあまりにも雑。
    待ち合わせには適さない、暗く人通りの少ない路地裏。

    「だって…俺の周りにそんな話できそうな人間出てこないし、…いや出てくる…けど、その人今忙しそうだしな…ブローニャとゼーレ…」

    愛とは何か。
    それは人間の永遠の課題だろう。
    何人の文字書きがその題材を選び、打ちのめされ、数少ない人間の言葉ばかりが後世に伝わっていく。
    それは月の光、川の中、空を駆ける列車…
    ともかく、幼い穹は愛を形容する言葉に飢えていた。

    「なんたってそんな事聞こうと思ったんです?誰かに何か言われたんですか」

    「あ、うん。悩みの相談を受けたんだけど、浮気なんてする方が悪いんだからそんな奴とは別れろって言ったんだ。でもその人、相手を愛してるからって俺の助言を聞きやしない。相談に乗ってやったのに俺の回答を無碍にしたから…ってのが顔に出てたみたいで」

    密輸経路を話すわけでもないのだから、別にどこかのお店で待ち合わせたって良かったのだが、何しろ呼び出した相手があのサンポである。
    どこでどんな恨みを買っているかわからない以上、人の少ない場所で話した方が穹へのいらない誤解も生まれずに済むと思ったのだ。

    「あぁ…」

    「貴方には愛がわからないから、私のことなんてわからないんでしょうねって…いや、そっちが俺に話しかけてきた癖に横暴じゃないか?あの人」

    「まぁ確かにそれはなんというか、相手が独りよがりに悲劇のヒロインに浸っていると言いますか…」

    「だから腹が立って、俺も愛を理解しようと思ったんだ。でもわかんないから。お前のこと呼んだ」

    至極筋の通った話ではあった。
    穹がサンポにわざわざ嘘をついてまで呼び出す必要なんてないのだから。
    そしてそれをサンポもよく理解していた。
    きっと彼は子供ゆえの探究心、対抗心、そういった純粋な動機で突き動かされ己を呼び出したのだろうと。
    だからこそ、少しばかりイタズラをしてやりたくなってしまった。
    その方がきっと面白いだろうから。

    「…いいですか?お兄さん。愛とは相手の事を想うことです」

    「うん」

    「例えば…人生で困ったことがあったとき真っ先に頼りたい、助けて欲しいって思う人…あぁ勿論仕事では違いますよ?上司を呼んでください。それと、寂しい時に会いたいって思う人…きっとその人のことを愛していると言えるでしょう。そしてそれに応えること、それが愛です」

    「へぇ」

    「無条件で駆けつけてあげられること、きっとそれが愛です。…なにも、肉欲だけが愛だけではありませんよ?それは燃え上がるような恋って言うんです。それを愛の一部だと呼んでも差し支えはないでしょうが、それだけでは不完全だ」

    「ふーん」

    「だからね、お兄さん。貴方は今日僕をわざわざ仕事中に呼びつけて急に訳の分からない事を聞いて僕の時間を奪ったけれど…お代は結構ですよ?」

    「当たり前だろ金取る気でいたのかよお前」

    じとっ、と悪者を見る瞳は金色に光った。
    つややかにみずみずしいその瞳は未だ穢れを知らない無垢な球体だった。
    大人のことなど知る由もない、裏の裏など知りもしない、純粋な子供のそのまま。
    そんな子供をおびやかす、悪い大人は目を細めにっこりと笑う。
    悪い事を知るのは楽しい事だが、それを教える方が何倍も面白いということを知っているのは子供ではなく、大人なのだから。

    「でも意外だな、お前の事だからなんかこう…イケメンたる所以のそういう口説き方?の話とかそういう話すると思ってた」

    「僕のことなんだと思ってるんですか」

    「え?……人たらしかな」

    「どうしてそう思うんです!僕はこんなにも誠実まっすぐに生きているというのに!」

    「だって、みんなお前の事好きになるだろ。だから最後裏切られて怒ってる」

    おっ、とサンポは思った。
    模範回答に限りなく近い正解をぽろりとこぼしたのだから。

    「期待しなきゃ、裏切られても別になんとも思わないだろ?みんなお前のことを好きになって、だけど大抵お前は酷いことするから怒るんだよ。もういい加減犯罪とかやめた方がいいと思う」

    子供というのは、たまに鋭いところを突く。
    そして大抵その突かれた場所で、痛い思いをするのだ。
    休日の朝、まだ寝ている父親の腹の上でトランポリンをするかの如く無邪気に、そして大胆に。

    「穹さんには僕がそう見えてるんですねぇ」

    そしてそれを怒るか、絆されるかはその人次第だ。

    「嬉しいです、貴方にそんな風に思ってもらえているだなんて」

    「え、俺今褒めた?」

    「えぇ、僕にとっては最大級の褒め言葉です…僕は皆さんに自分を好いて欲しいので」

    とっくにサンポへの興味が薄れかけていた穹だったが、なんだかひっかかるような気がして意識を脳内の近場のゴミ箱マップから現実へと引き戻そうと試みた。

    「お前、みんなに好かれたいのか?その割には怒らせることばっかりしてるけど」

    「いいこと教えてあげましょうか?」

    「え、いい事ってな、に…」

    穹はサンポに腕を引っ張られた。
    そして意識も引っ張られた。
    ぐい、と力を込められ思わず倒れる形になったそれを…まるで支えるかのように、踊るかのように、サンポは受け止める。
    体制を崩し文句の一つでも言ってやろうと思い上げられた顔が…止まったのだ。
    呼吸も、瞬きも、時間さえもが止まったようだった。
    真っ先にここが人の少ない路地裏で良かった、と思ったのはおかしいだろうか?

    「愛とは、形容のできないものだからこそ人間は皆欲しがるのですよ」

    重なっていた唇が離れた。
    目を閉じれば良かった、と今更後悔したのだが、もう遅い。
    揺らぐの炎のような緑色が、己を捉えて離さないその瞬間の輝きを見てしまったのだから。
    そしてその瞳が、水面のように困惑した自分を映すのだ。

    「わかりましたか?…いや、お兄さんにはまだ早いかもしれませんねぇ」

    言葉が入ってこない。
    急になんだ、とか何してんだヘンタイ、とか色々湧き上がる言葉はあれど不快が勝たないのは何故だろう。
    きっと困惑が勝っているんだ、そう思い込むことにした。

    「ねえお兄さん、僕は貴方を愛していますよ」

    「なっ…に言ってんだお前」

    「僕たちきっとお似合いだと思うんです…仮面の道化と空っぽの人形、並べて飾るにはおあつらえ向きでしょう?」

    熱くてあつくて、顔に集まったと思っていた血が、一気に頭へと昇っていった。
    脳の一番上の方まで突き抜けたかのように。

    「うるさいな!なんなんだよお前!」

    「そうやって怒ってしまう内はまだまだお子様ですねぇ」

    「俺のこと馬鹿にしただろ、今!」

    「いいえ?真実を告げたまでですよ…僕は貴方のその心の隙間、僕で埋めてしまいたいとすら思っています」

    嘘つき、ペテン師、詐欺野郎。
    数々の罵倒の言葉が頭を過ぎていった。
    全部をぶつけてやってしまいたいと思った、けれどなんだかどれも今のサンポには当てはまらないと思ってしまったのは何故だろう。

    「だからね、お兄さん。いつか貴方の空っぽを僕が満たすことができたら…きっと子供の貴方にもわかりますよ、愛というものが」

    「キモい!」

    「嗚呼酷い、泣いてしまいます、僕…」

    よよよ、とへたくそな泣き真似をしたサンポを放っておいて、帰路につくことにした。
    結局愛とはなんなのかわかんなかったし、意味わかんないし、遊ばれただけだったと穹は少しばかり後悔していた。

    「ふん!お前なんて知らない!」

    と、踵を返して背中を向けたその時……何故だかひどく恐ろしい気がして、体が固まった。
    思わず振り返ると…目を細め、笑みを浮かべる男がいた。
    それはさっきまで会話していた相手の筈だった、なのにまるで別の恐ろしい存在かのように思える。

    「………どうしたんです?」

    「い…いや、別に…」

    「それでは、また会いましょう穹さん」

    よく知った声で、自分の名前を呼ぶその男がまるで怪物のように思えて…気味が悪くなり、穹は走り出した。
    そして今度は、振り返らずに。
    その後ろ姿を見つめる男は熱を持ったため息をひとつ、ついた。
    歪に歪んだ笑みに見えたそれは大層やわらかく、優しげに見える…

    「……やはり舞台の上では仮面を被らないと。まだ彼には早かったでしょうかね」

    そしてまた、サンポは仮面を被った。
    己の感情は置いといて、彼にとって居心地のいい存在であるように。
    仕事の時とは違う、彼にとって一番面白い存在であり続けられるように。
    きっとまた、すぐに穹はサンポを頼るだろう。
    それは運命というには歪だが、彼の演じる舞台の台本の中に登場する役者として。




    顔が熱いのは、馬鹿にされた怒りだろうか。
    だとすれば、唇など拭い去って仕舞えばいいのだ。
    けれど、それができないのは…何故だろう?
    そしてまた彼のことを考え、彼の策に溺れていく。
    しかしそれがゾッとするほど面白い。
    答えのない感情、見当たらない道筋、未知の感覚、認めて仕舞えばその全てが愉快なのだ…あぁ、そう。
    丁度新しい玩具を得た、子供のように。


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