「闇に溶けた光」むかしむかし、それは仲のいい二人の少年がいた。
赤い瞳の少年クレオと青い瞳の少年アヴィ。
彼らは光の翼で空を舞い、野を走り、時には闇に立ち向かった。
アヴィの笑顔と優しい眼差しはクレオの光をそっと守っていた。
クレオの心には「闇の心」がひそんでいたから。
ある日、暗黒竜が王国に迫った。
光が揺らぎ、人々は怯えた。
そんな時、クレオの中の闇の心が囁いた。
『お前の光を使えば、大事なものを守れるぞ。』
クレオはその声に戸惑ったが、アヴィがそばで手を握り、不安な顔で暗黒竜を見つめている姿を見て強く守りたいと願った。
クレオの身体から光があふれ闇が晴れ、暗黒竜は逃げ帰った。
パリンッと響き、クレオの胸に冷たい傷が刻まれた。
空は静かになったが、クレオの体に異変が起きた。
胸の傷から静かに黒い霧があふれている。
仲間たちは囁いた。
「気味が悪い」「怖い」
聞こえてくる声にクレオの心が軋む。
俯くクレオの側にアヴィが立ち、肩を叩いて言った。
「クレオ、助けてくれてありがとう。流石は俺の相棒だ。」
その言葉が、クレオの心にわずかに火を灯した。
このまま、平和になれば幸せだったのだろう。
その願いは届かず闇が再び訪れた。
暗黒竜は数を増やし建物が壊されていく。
アヴィが自分も戦うと立ち上がるのを止めてクレオは「俺に任せて」と呟いた。闇の心が冷たく笑った。『クレオ、全て解き放て…』クレオは黒い霧をまとってその中心に赤い光を宿し輝いた。
仲間たちは遠ざかり、怯えた目で囁いた。
「なんて恐ろしい姿だ…」
それをかき消すように「ダメだ!クレオ!!それ以上その力を使っちゃ!」アヴィが叫んだ。クレオに向かおうとするのを仲間に阻まれても名前を何度も呼んでいた。
「クレオ!!!」
クレオは一度だけ振り向いてアヴィを見てつぶやいた。
「お前が無事なら、俺はそれでいい。」
パリンッと響き、黒い霧にクレオが呑まれていく。
黒い霧が吸収され、姿が見えてくる。
黒い巻角、黒い尻尾…赤い翼。
現れたクレオの姿に仲間たちは叫んだ。
「バケモノだ! 」「闇そのものだ!」
怯えた仲間はアヴィを突き飛ばし逃げる。
解放されたアヴィは駆け寄りクレオの腕をつかんで叫んだ。
「クレオ、俺の相棒だろ!?お前はバケモノなんかじゃない!」
クレオはかすかに笑った。
「アヴィ、お前がそう言ってくれるなら…」
アヴィがクレオの胸の赤い光に触れた。
その瞬間、クレオの光は白くなった。
何かを感じたかのようにクレオは上を見上げると「終わりにしよう」とアヴィの肩を抱き寄せた。
闇に包まれた空に向かってクレオが手を伸ばす。
パリンッ…
手のひらから真っ白な光が空を貫き闇を晴らした。
暗黒竜は消え、アヴィは救われた。
闇の心が囁いた。
『全てを捨てたのか』
クレオはアヴィに目を合わせ、笑った。
「アヴィ、お前が生きてるなら、俺の光はそれで十分だ。」
クレオの体は黒い霧に呑まれ、命の光は完全に消え何も残らなかった。
夜空を見上げるたび、アヴィは拳を握り、呟く。
「クレオ、どこに居るんだ?」
仲間たちはクレオの名を忘れ、笑い合い、空を飛んだ。クレオの光はアヴィの心にだけに残っていた。
闇に溶けた星の子は、アヴィの相棒として、ただ静かに消えた。