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    黄月ナイチ

    @71_jky

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    黄月ナイチ

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    視察の名目でやりたい放題する秘書官のいる風景

    新しい演習候補地の視察ということで、レコベルは上官のピロと共に所属の念術士が操る大型怪蠱が引く荷車の上にいた。基地からはやや離れた位置にあるため、今夜は補給地点となる町で一泊の予定だ。周囲には怪蠱部隊が数名、同じ歩みで進んでいる。
    日除けの幌に隠れた座席にはふかふかのクッションが積まれていて、夕暮れの砂地を行く蠱の歩みが起こす地響きを完全にとまでは行かずとも吸収してくれている。
    「広さ、本国からの距離、補給地点、……まずまずということでよろしいですか?」
    「適当に書いておけ」
    運転手の気遣いもあって、報告書をまとめる筆先はなんとか文字の体を成す。ありがたいことだとレコベルは思いながら、そうそうに雛形(テンプレート)に沿って視察の結果をまとめ上げた。
    「これで良いですか」
    レコベルが下書きを渡すとピロは半目でそれに目を通し、大した興味もなさそうに頷いてから再び目を閉じた。朝早くからの強行軍であった上、彼としては退屈な行事であったのだろう。
    何とは無しにほっと息をつくと、レコベルはいそいそと自身が持ち歩いている考え事用のノートを取り出した。業務が終われば、次は候補地の近くにあった遺跡探索の結果のまとめである。伝達の食い違いがあったらしく、レコベルたちが到着してから現地の案内人と合流するまでに数時間のタイムラグが発生したことで幸運にも心ゆくまで見学ができたのだ。
    ファイルに何枚も挟んであるのは現地でまとめたスケッチの数々で、小型の撮影機があれば楽なんだけどなあとレコベルは思う。自分の目で見たものを描きとるというのも重要ではあるが、情報の正確性という意味では機械には敵うまい。
    「欲しい……けど、さすがになぁ……」
    まずは自分の懐事情、それから経費申請書に書き込む文面を考えながら、ちらりと隣の座席で眠っているはずの上官を見上げた。
    肘掛けに置いた片腕に頭を預けたピロの両目は退屈そうにこちらを見ていた。
    「……!」
    「なんだその落書きは」
    目があってしまったので仕方なく、というようにむっつりとピロが言う。レコベルは慌て、もごもごと
    答える。
    「午前中、時間があったので……遺跡の探索を。近くだったので」
    「ああ、どこへ行っておったのかと思えば。」
    「……」
    貸してみろと手を出され、レコベルは首を竦めながらそれらを預けた。まとめて破り捨てられるか、灰にされるか——と、怯える。ある程度は考察にまとめたとは言え、スケッチの現物が無くなっても構わなあかと言えばそうでもない。
    「これはなんだ」
    「あ、建物の柱っぽい構造でした。パーツの組み合わせで強度を出しているみたいな……」
    「これは?」
    意外にもピロはそれらのけして上手とは言えないスケッチの内容を尋ねてきた。レコベルは尋ねられるまま、次々にそれに答えた。興が乗り、無意識に言葉が弾む。
    怯えていた眼差しがきらきらと輝きを帯びる。一枚一枚に向ける解説の熱量が増える。揺れる座席の上。やがて身を乗り出し、ピロからそれらを奪い取るようにして似たようなものが描かれた2枚を並べ、比較検討を口にする。
    「それでですね、」
    「——レコベル」
    途中で低く名を呼ばれ、レコベルはピタリと口を止めた。視線を移せば、ピロは薄らと微笑んでいる。
    「楽しかったか」
    これは機嫌の良いものではない。と、直感する。投げ出されるように帰ってきたスケッチを抱きとめて、なんとかレコベルは返答した。
    「……はい」
    「それはそれは。早起きをした甲斐があったと言うものだ」
    それが皮肉だと知り、ますますレコベルは身を縮めた。
    「少し寝る」
    「はい。……お疲れ様でした」
    ピロは一つ鼻を鳴らすと、言葉通り目を閉じた。窮屈な座席の上で長い足を組み替えるのを見届けて、レコベルはそっと座席の幌をめくった。荷車の前を行く怪蠱にそっと飛び乗り、御者の念術士に声をかける。
    「すみません。司令がおやすみになるということなので、運転を少し……」
    「ああ、お疲れ様、レコベルさん」
    振り返った念術士は苦笑まじりに労りの言葉をかけてきた。ぽんぽんと優しく怪蠱を叩いたのはレコベルの言う通りの命令なのだろう。足音の響きが少しばかり優しいものになる。
    「朝早くからお疲れ様でした。お疲れじゃないですか?」
    「俺とこいつは視察の間休んでられましたからね。秘書官こそ大変だったでしょ? 一日中アレ……司令について回ってたら」
    荷車の中を気にするように声を落とし、念術士の青年は憤慨するようにため息をついた。怪蠱の足音と幌の布の厚みに遮られているし、きっともう寝入ってしまっているだろうから、ピロには聞こえなくはあろうが。
    「毎度毎度司令の気まぐれに付き合わされるんじゃ、秘書官も災難ですね。こんなへんぴなとこ、わざわざ視察なんて」
    レコベルは曖昧に苦笑した。演習候補地も、日程も、選んだのはレコベルなのであった。
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