「無理だよ。」
屋上に吹く乾いた風と同じくらいに乾いた声でアンダーは言う。いつもの静寂。いつもの寂寥。
階下の賑わいは人の営みそのもので、遠い。
「人間じゃないんだから、俺たち」
ストローを噛む声はそれを確かな真実として断じている。知っている。静かな諦めと自棄と、であるがゆえの優しさと労り。
シバは黙り、内心ではそうだろうとも、と納得している。そうであろう。化け物であればこそできることがあった。化け物であればこそそうでなければならなかった。役に立つものであれば良かった。利となるものでなければならなかった。
「……ッスね」
化け物であるが故の力を、なんか知らないけど凄いですねと称えてくれる声があった。単純に、明快に、ただあるがまま。
それでも。
「俺は行きます」
それでも、シバは立ち上がる。喧騒の中へ戻ろうとする。
胸の音はそれでも己を人間であれと掻き立てる。人の中にあってよいのだと肯定する心音。
そっか、とアンダーが言う。擦り切れ果てて、それでもなお誰かのために何かを為そうという意志ばかりを残した男は、そうすることでそれでも人間であろうとしているのかもしれなかった。