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    黄月ナイチ

    @71_jky

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    黄月ナイチ

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    愚者

    さあ、これからどうしようか。


    サーデリーの街はずれ、街道の只中で徒党を組んで襲いかかってきたのは、小競り合いのどさくさで懐を温めようという輩のようだった。‬
    原始的な撃退法で蹴散らしたあとに残された自分の遺体を見下ろして、モノだな、とアンダーは思った。先刻まで自分だったもの。物質化して存在するもの。新しい体に意識が移れば用を終えた容れ物。‬
    ‪「お疲れ。……でいいのかな」‬
    幸い許容範囲内の汚れで済んだ衣服を苦労して交換し、見開いたままだった先刻まで自分のものであった瞼に手を置いてそう呟いた。外傷は脳天に一発の銃弾。もっと凄惨な状態になることがあると思えば比較的きれいな顔をしている。
    いつかこうしたことがあったような気がした。‬
    ‪古い記憶のどこかだ。堆積してどこかへ消えた不死の浪費の日々。省みられず、悼む者もなく、自己憐憫も虚しく、突然必然の終わり。気がつけば朝が来る延々の朝、当たり前の再開。真っ暗に遮断された全ての感覚から3、2、1と数える間も無く続く意識。長くをかけて鈍りきった諸々の感覚。何処からかオートマチックに流れ込む一般常識すら遠くにかすむ時間の経過。‬
    ‪最後に魔軍の勝どきの声を聞いた時、この暗転が出来る限り長く続きますようにと祈った気がする。記憶は遠い。そんな思考すらもはや無かったもので、回想という形で改竄されたものにすぎないのかもしれない。
    ‬‪短い思案を終えて我に返る。見回せばこの世はどこもかしこも戦場である。死体のひとつや二つが転がっていても問題はないだろうが、さすがに街道沿いに裸の男の死体が転がっていてはあとから来る人がいい気分をしないだろうなと想像した。アンダーは急速に温度を失った自分の抜け殻を抱き上げて運び始める。
    ‪荒野の砂の中にどこかの魔人の国の女兵士たちの遺体を埋めたときのことを思い出していた。比較的新しい記憶の中に。あの時、自分の欠片たちが埋められるのを見て。彼女たちが仲間の死を悼むのを見て。これは終わりにどうにか区切りをつけるためにするのだと思った。自分には終わりなどはないにしても。‬
    ‪穴を掘るのも楽ではないなという感想を抱き、適当なところで墓穴の完成とした。その底に自分であったものを横たえ、横に積み上げた土を穴に戻しながら、そういえば樹海の彼女を埋葬しそびれてしまったことも思い出した。‬
    ‪終わりも始まりも堂々めぐりを繰り返しながら、しかし記憶はこうして積み上がっていく。この記憶というのが自分そのものならば。‬
    さあ、これから何をしようか。
    アンダーはその都度考える。暗転と明転、堂々めぐりと仕切り直しを繰り返している。‪忘れるまい、と、天上の星を見る。目の中に焼きついた望遠鏡越しの映像。衣服越しに懐に仕舞った腕章に触れる。それでも、きっと、近づいている。‬
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