「おやシバくん、お帰りかな」
「ッス。参謀はおでかけッスか」
玄関先で鉢合わせたギョーマンが普段よりも少し上等な背広に身を包んでいるのに気がついて、シバは少し首を傾げた。
「うん。——見てくれるかい?」
おっと余計なことを言ったらしい、とはシバは口にしたりはしない。途端にうきうきと、誰かに話したくて堪らなかったのだと言うように目を輝かせて内ポケットから写真を取り出して見せてくるギョーマンの自慢話に付き合うのは時に面倒でないこともないが、基本的には無邪気で無害、時に重要な雑談なのである。
「これこれ、新しい加工方法の紅玉らしいんだけど」
覗き込めばなるほど、なめらかなオーバル型に加工された赤い宝石の写真のようであった。隠せないギョーマンのウキウキの理由は測りかねたが、その大きさが驚嘆に値することだけはシバにも良くわかった。
「大きいっスね」
「そうなんだよ。しかも写真で見る限りカットもいい感じでね」
嬉しそうに
「本物なんスか?」
「天然石を含浸処理したものだからグレードは下がるけど、本物には違いないよ。一応出どころは信頼できるから大丈夫だとは思うけど、それはもちろんこれから直接確かめるさ」
なるほど、おめかしの理由はそこにあるらしい。自分の手腕で商会を立ち上げ運営していた経験のあるギョーマンのことだ、そのあたりは抜かりない。
「宝石のグレードとしてはともかく、これだけの大きさでこれだけカットが美しいなら買いだと思うんだよね」
写真を元通り仕舞い込みながら、ギョーマンはうんうんと一人頷いている。シバの記憶は当然魔竜を駆る女傭兵のループタイを飾る宝石を連想していたのだが、それをそのまま指摘するのは野暮なような気がした。
「お眼鏡に叶うと良いっスね」
「そうじゃなくても、タダでは帰ってこないつもりだよ」
ギョーマンはなにかと忙しい。シャクターの補佐、参謀官としての人事などの業務、ここぞというところで発揮される戴天党三大魔法使いとしての実力(シバとしてはその大袈裟な括りはどうなのだろうかと思わないでもないが、きっと自分には思いもよらないような戦略が織り込まれているのだろう)。それでいてこうして趣味らしき活動にも精力的なのだから恐れ入るというものだ。
「じゃあ行ってくるね。ああ、一度オスカーのところに顔を出してくれるかな?」
「はいッス」
時計を確かめると、頼もしい挨拶を残したギョーマンは軽い足取りで出掛けていった。見送ったシバは薄く微笑んでそれを見送った。
ギョーマンは贈り物を好む。より良い品、相手に相応しい品を選ぶことを好む。その趣味の良し悪しはともかく、自然と他者を知り慮る行動を起こすその在り方の善良さは、時に面倒に感じなくもないがそれを差し引いても温かいもののように感じられるのである。