飲み放題との宣伝文句に違わず、薬は定期的に支給されるものだった。定期の分では足りない場合でも申請と簡単な審査で追加分を貰うことができるし、当番によってはその審査もざるに等しい。
しかしながら飲み放題とは言っても中身が選べるわけではないのだと気がついたのは隊長格を示す帽子の徽章を戦死した前任者から引き継いで、支給品を受け取る立場になってからのことだった。
「……粗悪品だな。やっぱり今は戴天党のが一番か」
部下たちに配布する前に支給品の品質を確かめるのは隊長の務めである。瓶に貼られたラベルに書かれた自国メーカーのロゴを確かめてため息を吐いた。薬効は後頭部にわだかまるようもやを掻き分けるように払ってはくれるが、それはどこか暴力的に内側から頭を揺らす感覚を併発して耳の奥から悪酔いに似た気分不快を引き出してくるようである。
「……」
これは良くない。専用のバッグに収めておいた薬瓶の中から一つを選び、手のひらにあけて飲みこむ。しばらく目を閉じていると追加分が効いてきて、思考を晴れやかに保ったまま頭痛と吐き気を落ち着けてくれる。成功だ。これは良い。
「うん、組み合わせれば良さそうだな」
追加の薬瓶には「鎮痛・鎮静には良く効くが抗不安効果は今ひとつ」との走り書きがなされている。それで、新しい支給分に「頭はスッキリするが頭痛を誘発。鎮痛剤と併用すること」と書いた。
飲み放題とはいえ、ものによっては効果が拮抗する、飲み合わせが悪くて悪酔いをする、副反応で身動きが取れなくなる、飲み過ぎて飲まなきゃまともに生活もできなくなる、などの問題を引き起こす。しかしどうだ、粗悪品でも飲み合わせに注意したならこのように最小限の服用で最大の効果を得ることもできるだろう。これは冴えている。粗悪品ではあるが効果は確かなのだろう。
部下に正しい飲み方を教えるのは隊長の務めである。新しい瓶からさらに何粒かを取り出して口に入れ、鎮痛剤と一緒にごくりと飲んだ。冴えているうちに他の飲み合わせも確かめておこう。確かこの前もらった戴天党製の薬は良かった。飲み合わせれば最高になってしまうかもしれない。一度試してみる価値はありそうだ。