アンダーの戦いは熾烈である。なにぶん自分が負傷することをまったく気にせず、相手が向かってこなくなるか動かなくなるかするまで殴り続けるのが定番だ。
「終わったよ」
岩陰に隠れてそれを見ていたキューティは合図を受けて詰めていた息を吐いた。アンダーの有り様はいつも通りひどいものではあるが、今回は致命傷とは行かなかったらしく全裸になることなく修復されていく。チャムからサーデリーに向かう街道は世相を反映してかどうにも物騒だ。
「任せてしまってすまんな」
「護衛ってそんなもんでしょ」
「……すまんな。治ってないところはないか」
「うん、ありがとう。身体は大丈夫。服も……」
「裁縫箱の方が必要だったな。新しいTシャツはどうだ?」
救急箱を掲げてはみるもののアンダーの負傷箇所は迅速に修復されていくので手当ての施しようもない。護衛としては確かに頼もしいのだが、なんとも言えないやるせなさを感じもする。
「まあ、まだいいかな」
「そうか。必要があれば言ってくれ」
キューティは重々しく頷いて、襲いかかってきた野良怪蟲を見下ろした。もしかすると元は誰かの馬だったのかもしれないが、凶暴な個体であった。
「ワシに念術の心得があればお前の馬にできたかもしれんが」
「うーん、怪蟲はちょっと。自分が食べられそうで」
「そうか。まあ非常食にはなるか——」
キャンプ用の大振りのナイフを取り出し肉厚の部分だけでもと作業を始めてしばらくすると、また物騒な気配を放つ男たちに話しかけられた。
「戴天党か?」
次は流民らしい。白昼堂々精力的なことである。
「災い転じてまた一難だ」
「ワシはいつもそうなんだ。不運は連続する」
「そうなんだ。大変だね」
「この馬の肉なら——」
「要らねえよ、腕章と金をよこしな」
大変簡潔な要求である。すっかり護衛が板についたアンダーが腕を広げて頼もしく言う。
「いいよ。参謀は下がってて」
「……すまん」
元通り先ほど身を隠していた岩陰に尻を落ち着けながら、キューティはやるせなく溜め息をついた。せめて次は新しいTシャツを渡してやらねばなるまい。