公平であれ。論理的であれ。幼体成熟(こども)だと侮られるならばなおのこと、ことさらに、そうでなければと思う。規律を守り、国家の益となることが大人として在るべき姿だというのならば、そうでなければ。
「ボルカはまじめだねぇ」
そのような一心で昇格試験の勉強に励んでいた若き日のボルカに向かって、ナルコは揶揄うように笑いかけたものだった。
「別に無理して大人になることないじゃん 」
「……無理は、してないぞ。べつに」
求められる姿を体現すること、それを評価されることは存在を認められているようで好ましい。努力でそれが手に入るというなら、無理も苦労も望むところだとも言えようか。
珍しく台所に立ったナルコが出してきた甘い紅茶を並んで飲んだ。
「甘苦ッ!」
「特製チャイだよぉ。身体があったまって疲れが取れる」
「……脳に沁みるな」
「乾燥スパイスを火にかけて沸かして、お茶っ葉淹れてぐつぐつして、粉末ミルクとお砂糖どばどば。最後に濾して、あったら胡椒ね」
「粉末ミルク?」
「野営で飲めるじゃん? そりゃスパイスもミルクも生の方が美味しいけど。お金持ち向けのお味になるよ」
「スパイスの分量は?」
「あるものをテキトーに。でもニッキとジンジャーは必ず多めに入れる!」
「雑だな」
「雑なくらいが美味しいんだよね」
なるほど、と納得して、ボルカはありがたくそれを飲み干した。その後も数回ご馳走になる機会はあったが、あるものを適当にしているはずのナルコのチャイはちゃんとナルコのチャイの味がするのだった。
最初に忘れてしまうのは声、だとは何の本で読んだのだったか。最後まで覚えているのは匂いなのだったか。
モーラが淹れてくれたマサラチャイを飲みながら、ボルカはそんな話を思い出していた。
「ナルコさんに教わったんです」
「……そうか。乾燥スパイスを持ち歩いていたよな、あいつ」
「はい」
「信じられないくらい砂糖が入る」
「魔法使い向けの味だと言われてました」
シュロは苦労して飲んでいるが、ボルカには懐かしい味だった。空戦遊撃隊の詰所にはミルクの用意もスパイスの用意もある。だから今口にしているのは正確にはそのお金持ち向けのレシピであるはずなのだが。