ある日を境に、相手を注視するようになったことに気がつく。この目線の動きには明らかにやましい気持ちが含まれている。一つ一つ自分が抱く気持ちを丁寧に見てやれば、いつの間にかよく晒されるようになったあの手首を掴みたいとか、揺らめくワンピースの裾が短すぎるから毛布をかぶせたいとか、いや服が邪魔だ全部剥がしたいとか、この喉の乾きをあの口元で癒したいとか、とにかく複雑怪奇だった。多大なる矛盾、不可解にまみれた感情を独力でいなすのは骨が折れる。ラキオはため息をついた。
「夕里子、ちょっと来て」
冷蔵庫のまわりをうろうろしていた足が止まり、一口サイズのゼリーを口に含んだまま、黒髪が揺れた。
もくもくと咀嚼も要らないようなゼリーを噛み、飲み下す。
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