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    初めて誕生日を祝うことになった日に【ジエンド】【ハピバ文】

    ──────────────────

    【飽きない】___
     
    「はぁ?!今日誕生日?!」
    11月20日。
    本日の営業を終えたケーキ屋に裏返るほどの声が響く。思いの外静まりかえっていた店内に響き渡ってしまい、声量に押されたかのように思わずのけぞった。丸い縁取りの眼鏡からはみ出んばかりにひん剥いた瞳が、信じられないものを見るかのように凝視してくる。
    「だかラその売れ残リ買ってくっつッテンダロ」
    ちょうどよく残っていた白の生クリームにイチゴが乗ったケーキ。定番と言われるソレにろうそくを突き立てればソレが誕生日を祝う形と聞いた。だから都合が良いと思っていたのにこの男は未だに目も口もあんぐりと広げたまま微動だにしない。が、ようやく錆び付いた人形のような挙動をしながら表情が曇っていく。
    「えっ……ソレ、アンタ……旦那さんのでしょ……?」
    「だん………………………………そーだケドそれがどーシタ」
    「ケーキ1個……?」
    「アァ」
    「他は……?」
    「ア?」
    「誕生日プレゼントとかさぁ…」
    「?」
    「?じゃないでしょ何考えてんの?!」
    そう声を荒げるや否や手にしたトレイを乱雑に置いて駆け出していった。珍しく荒々しい足取りのせいで、調理場奥から繋がる階段を駆け上がったのも、2階にあるあいつの私室に飛び込んだのも筒抜けだった。一拍置いて翻って駆け降りてきたのまで。
    「はいこれ!!」
    突きつけられ、思わず受け取ってしまう。薄手の箱だった。
    「何……」
    「ちょっと前のだけど全然痛んでないはずだから!ていうか結構したやつだからあんまり失敗しないでよ!!一緒に入ってる万年筆だって高いんだからね!!丁寧に書きなさいよ!!」
    「だから何ダッテ」
    「感謝の言葉くらい添えなさいな!!ほらそこのテーブル!広い方!1時間で可愛いケーキ作ってあげるからアンタはこっち!!」
    「ハァ?!」
    「ほらさっさと座って書くの!!」
    勢いのまま背中を押されてテーブル席に着く。あいつが「スポンジ生地はまだあるはずだから」などとぶつぶつ呟きながら調理場に消えていけば、再び時計の音が店内に響き渡る。
    「言葉っつッタッテ……」
    手元の箱に視線を落とす。容易に蓋が開かないようにリボンで留められているあたり、あいつのまめさが伺える。正直煩わしさを覚えるものの、あの剣幕では白紙を許さないだろう。漏れそうなため息を飲み込みながらリボンを解き、蓋を開く。中に入っていたのは手紙用紙と万年筆、そして数個のインク瓶だった。外装や紙の質からしてあいつの時代においても高価な物だろう。“特別”を強く匂わせるレターセット。その質の良さには心が躍る。
    「つっても…………なんだよ言葉って……」
    感謝?感謝とはなんだろうか。ありがたいと思った時は口にしているしアイツもそれは聴いている。どういたしまして、なんて小さく返して慣用句のように……。
    そういえば、あの笑みを最後に見たのはいつだったか。縦に並んだ瞳を大きく開け、徐々に喜色に染まり綻んでいく口元。そしてしばしの間それを隠さずゆらゆらと揺れる尾。こちらが気恥ずかしくなるほど嬉しそうに浮つく姿は見ていて悪い気はしない。
    「……」
    些細な一言であぁも喜ぶと言うのなら言い連ねればどうなってしまうのか。
    そんな悪戯心と、アイツなら絶対驚くだろうという期待が燻れば、自然と筆に手が伸びた。
    「……………………書き出しってなんて書けばいいんだ……?」
    一文字目が書かれるまで、相当の時間を要したが。








    ──────────────────








    扉が重い。
    正確にはこんな時間になってしまった後ろめたさと、結局あいつに言葉を引き出されながら書いたは良いものの今更小恥ずかしくなってしまったものが、懐からじわりともやつき、扉を開ける手を重くする。
    渡さなければ良いじゃないか、しかし処分に困る、見つからない場所は、いずれ見つかるだろう、燃やしてしまおうか、それもいいかもしれない、しかしこれはアイツへの言葉であって果たしてそれは……。
    なんて止まらない葛藤が取っ手に掛けた手を固めてしまう。頭の片隅では、もう片方の手に下げられたケーキと無理やり持たされた一輪の花がそろそろ音を上げる頃じゃないか、と訴えてくる。いったい何分こうしているのだろう……。などと呆れながら我に返った瞬間、
    「やっぱりジェンディだーーー!!」
    反対の戸を大きく開きながら子供等が顔を覗かせてきた。
    「おそーい!」
    「おそーい!」
    「おそいからもうごはんたべちゃったもんねー!」
    「ねー!」
    「ジェンディケーキはー?!」
    「ケーキ!!」
    「それケーキ?!」
    「ケーキだ!」
    「わすれてなかったーー!!」
    「わーい!!」
    一度見つかれば嵐のよう。ケーキは奪われ花は持たし直されコートは脱がされ背を押され、いつの間にか飾り付けられたリビングまで連れていかれていた。
    質素ながらも落ち着いた雰囲気であったリビングは鮮やかに彩られていた。色紙を切り貼りして繋げた壁飾りに祝いの言葉が書かれた垂れ幕、いつも数本挿されていた花瓶には庭で咲いていた花が切り揃えられている。きっと子供等が用意したのだろう。不揃いな飾りも歪んだ文字の幕も、辺りに散らばったままのよくわからない紙も幼い奴等の力作なのが伝わってくる。オレですらそう思うのなら、本日の主役はこの部屋を見てさぞ喜んだことだろう。
    「おかえりなさい、ジェンディ」
    内装に気を取られていた横から、子供等からケーキを受け取ったアイツが、エンドが声を掛けてくる。つられて返事をすれば、子供等に祝われて嬉しそうな顔が……。
    「ケーキありがとうございます。ヤヤマさんの作るケーキはどれも美味しいですからね。この子たちも待ち遠しかったようで」
    「エンド」
    ケーキの切り分けをせがむ子供等に囲まれながら台所に向かう背を、呼び止める。
    「エンド」
    「はい?」
    思っていたのと違ったから。それが表面に張り付いているように見えたから。思わず声を掛けられたときに咄嗟に背に隠してしまったものと、ずっと懐に忍ばせていたものを差し出した。
    「たっ……んじょうび……、おめでとう……」
    言い慣れないせいで震えてしまった声も、どうしても羞恥が勝り今すぐにでもこれらを押し付けて脱兎のごとく逃げ出したい衝動も抑え込む。果たして掠れた声は届いただろうか。顔は向けることができず、それでも視線だけをそちらに向ければ、大きく見開かれた瞳と目が合った。
    「ワ…タシ、に……?」
    驚愕で固まった表情がじわりじわりと溶けだしていく。徐々に染まる頬とは裏腹に、触れれば壊れてしまうとでも言いたげに宙を掴んでは何かに阻まれたように引いてしまう。もどかしさに痺れを切らし、今にも落ちそうなケーキ箱を奪い取りながら開いた掌に手紙と花を押し付ければ慌てて両手で受け取った。
    「て、がみ……。ジェンディ……、アナタが……これを……?」
    「ッ……」
    改めて聞かれるとどうしても頷けない。皮膚と筋肉の隙間を何かが這いまわるようなぞわりとした感覚が内臓に走る。生身の耳が熱を持つのがよくわかるが決してこれは恥ずかしいとかいうものではない。はずだ。
    だがそんなオレの反応で満足したようで、つい、と視線を降ろしよれた手紙の端を指で直し、胸の収納スリットに仕舞おうとする。
    「…………読まないのかよ」
    口から出た言葉は戻らない。きょとんとした顔が綻んだ瞬間、そう思った。
    「読んでも良いんで」「読むな!!!」
    咄嗟に奪い返そうと手を伸ばすが空を切る。頭上に上げられてしまえば身体のリーチ上届かない。しかも取り返そうと見上げれば嬉しそうなこの顔と正面から向き合うことになる。そう、そうなのだ。読んでもらわないと困るのだ。そういう顔が見たいから書いたのであって。この顔よりももっと上はあるのか知りたいのであって。だから一人誰もいないところで読まれては困るのだ。だがしかし、そう、それはつまり、羞恥に耐えながら長考して書いたものを目の前で読まれることに他ならないのだ。
    奪おうか。逃げようか。嘘をつこうか。我慢しようか。色々な選択肢が浮かんでは消えていく。それが筒抜けなのがまた悔しい。じとりと睨めば、こちらをまっすぐ見て微笑んでいたエンドが、花を握っていたもう片方の手で伸びきったオレの手を掴む。高く掲げた手紙もその手もゆっくりと降ろすと、縦に並んだ双眸がひときわ大きくよく見えた。
    「読んでも良いですか?」
    「………………いいよ」
    体中を搔き毟りたくなる葛藤を喉で抑え込み、駆けだしたくなる脚をもつれさせて近くの椅子に座る。それをくすりと笑いながら、花を傍にいた奴に預けて封を開けた。
    文字を読むたびに左右に流れる瞳が次第に細くなる。うっすら微笑んでいた口元はきゅっと左右に引かれ、わなわなと震えだす。何かを堪えているようにも見えるが、手紙に皺を作らないよう指の力を抜いているようだ。戦慄く唇から詰まっていた息を吐き出せば、きらりと瞳が輝いたように見えた。溢れ出る涙を指で拭いながら、緩くなった口元が弧を描く。
    なんだ、この顔なら見覚えがある。
    薬を飲むといったとき、指輪をくれてやったとき、初めて好きと口についたとき。ほかでも見かけたことがある、歓喜の涙。それでも数えるほどしかない表情。なんだ、なるほど、この顔か。なら今度は紙も探して選ぼうか。コイツはそういうのも気にするかもしれない。花も一考できる余地があるな。なんてもっと良い条件を頭で考えていても、目は動かせない。これ以上はあるだろうか。この顔は何回目だろうか。あと何回見れるだろうか。そんなことを考えていても、目は離せない。
    「……」
    あれだけ強張っていた体から力が抜ける。羞恥も後悔も溶けだしてなにかに替わっていくのがわかる。むずがゆさは残るものの心地よささえ感じてしまう。読み終わったコイツが少し鼻を赤くさせながら微笑めば、自分の頬も勝手に上がっていった。

    「ありがとう、ございます───」
    「こちらこそ」

    来年も書いてやろう。
    こいつの喜ぶ顔は、何度見ても飽きないから。





    ▼─────あとがき──────▼
    このあとキレイに封に入れ直して胸スリットにしまったあと椅子に座ったままのJをぎゅっと抱きしめるまで見えた気がする。これから毎年感謝の手紙と花を選んで渡すんだろうなぁ…。渡す前に呼び止めたのは「今夜はバースデーパーティーするんだ!って張り切って準備してた我が子ちゃんたちを二人とも知ってたからもしかしてジェンディが遅いのは祝いたくないからではないかと不安に思っていたところにめっちゃ遅く帰ってきたジェンディがよそよそしいから寂しく感じてしまった」のが笑顔の下にありありと感じられたからですねぇ
    エンドさんお誕生日おめでとう…!!
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