ガバガバースなビリグレ① 甘い、匂いが包む。
橙色の髪を揺らしながら青年は顔を上げた。スン、と鼻を鳴らして空気を吸い込む。
(甘い……?)
首を傾げた。こんなに甘美に香るものが、この部屋にあっただろうかと。
濃いオレンジ色のレンズ越しに辺りを見渡す。ルームメイトとも完全に打ち解けてゴーグルを外す頻度も増えたとはいえ、長年の癖はなかなか抜けるものではない。彼の視界は既に色づいた世界の方に慣れきってしまっている。そんなわけで今日もまた例に漏れず、彼は愛用のゴーグルでその瞳を覆っていた。
横たわっていたハンモックから身を起こして一つ伸びをし、考える。
自身の小綺麗なスペースに置いてあるものはだいたい把握している。ここにある甘いものといえばキャンディくらいであるが、どのフレーバーも自分が気になるほどの香りを発するものでは無いはずだ。
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