Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 162

    現パロアンぐだ♀、竹中教授と教え子ぐだち

    2020.9

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##現パロ

    藤丸立香はまだ知らないまだ知らないは今夜まで

    「竹中教授! ちょっと質問があって……後で研究室に行っても大丈夫ですか?」
    「あぁ、君か。熱心なのは構わないが、足繁く俺を訪ねたところでレポートがお粗末であれば単位はやらないぞ。卒論も然りだ」
    「教授、そんなこと言うから皆に用事があっても研究室に行きづらいって言われちゃうんですよ」
    「俺の研究室は学生の遊び場ではない。人が来ない方が都合が良いに決まっているだろう!」
     彼はどうして教授なんて仕事に就いているのだろう。

     デンマーク語専攻、文学ゼミ。私が今苦戦しているのはデンマーク語の書物の翻訳てで、分からないことがあるとたびたび研究室を訪ねている。
     なかなか癖のある教授は、それでも毎度訪ねるたびに丁寧に質問に答えてサポートしてくれる。「仕事だから」と言い訳する割には他のゼミの教授と比べると手厚いサポートに、無理のないスケジュール管理。
     教授のゼミは、本人の意に反して人気なのだ。
     今日も研究室を訪ねてはレポート課題や卒論を進める私は、側から見ると勉強熱心な学生だろう。もちろん自分の興味のある分野を専攻しているのだから、熱心にやっていると思う。けれど、教授のことを尊敬しているから、ここに通っていると言う気持ちもあった。

     前に課題がどうしても完成しなくて、教授に泣きついたことがある。完成するまでわたしは研究室を占領して、教授に助けてもらった。
     これ以上出涸らしを飲みたくないのならさっさと課題を片付けろとコーヒーを淹れてくれながら、不明点の解消に付き合ってくれたのだ、感謝しかない。
     ……私は課題を提出したその少し後にゼミの予定表を見て、教授の学会発表が近かったことに気がついた。忙しい時期に研究室を訪ねて長時間時間を奪ったのに、忙しいの一言もイライラした姿すらも見せなかった。
     大人の男というのはこうも、余裕があるものなのか。正直なところ教授がいなければ落とした単位がいくつかあるかも分からない。

    「あれ、教授……これって切り絵ですか?」
     研究室のテーブルの上にハサミと一緒に作りかけの切り絵が放置されていた。まだ作成途中らしい。
    「ああそうだ。昨日は論文が仕上がったばかりで珍しく暇があったからな」
     趣味なんだろうか。思えばこの人のプライベートなことは何も知らない。学生と教授の関係なんてそんなものだろう。なのに何も知らないことが寂しい。

    「何か勘違いをしているようだが、これは別に俺の趣味ではない。……親戚にせがまれているから、時間があれば作っているだけだ」
    「親戚?」
    「まだ幼いうちはこんなもの程度で済むが、そのうちやれお年玉だ何だとせがまれることになるだろうな」
     やれやれ、これだからガキは面倒で仕方ない。彼はそう言っているけれど、きっと親戚の子を可愛がっているんだろうなと何となく想像できてしまう。
    「教授って、良いお父さんになりそうですよね、すごい子煩悩になりそう……」
    「俺が子供好きに見えるのか? その若さで目がイカれているとは幸先が悪いな」
     教授は心底嫌そうな顔をしているけれど、きっと私の見立ては間違いないと思うのだ。

    「ふん。大体結婚の予定もない者に父親の予定もあるものか。今更見合いも、ましてやこの歳で恋愛なんぞもする気力がない」
    「そんなこと言って、分かりませんよ? 恋は落ちるものって言うでしょ」
     そう答えながら、恋愛する気力がない、という言葉が想像以上にずしりと響く。
     この人は私よりずっと歳上の人だ。もし彼が恋愛をするとしても、それは私ではなくもっと歳上の、彼の隣が似合うような女の人だろう。どうしてそれが、こんなに動悸を激しくさせるんだろうか。

    「落ちるもの、か。おめでたい頭だな。落ちたら即相手ができるなんて、そんな都合の良いものだったら俺はとっくに結婚している。落ちるのと、叶うのは違う」
     彼はどうしようもなく落ちてしまうような、そんな叶わない恋をしたことがあるのだろうか。
    「教授、今好きな人とかいるんですか?」
     よせばいいのに、聞いてしまう。
    「好きな人、だと? そんないじらしさと甘酸っぱさを内包したような質問は女同士でやってくれ」
     ああ、そうか。
     こうやってごまかすってことはきっと、そういう相手がいるんだ。それくらいは察せるほどには、教授と交流を持っているつもりだった。
     察せない方が、良かったのに。自分がショックを受けていることに気がつかない方が平和だった。

     雑談もそこそこに課題や卒論の内容を質問して、部屋を出る頃にはもう『教授の好きな人』のことしか考えられなくなっていて……落ちるものだなんて言っておいて、実際に自覚すればこうも絶望的な状況だ。
     そもそも学生のうちの一人としか見られていない自分が、好きな人のいる人に振り向いてもらえるのかどうか。その前に、学生じゃなくなったらもう教授には会えない。そんな簡単なこと、もっと早くに気がつくべきだった。

    「今日もありがとうございました」
    「ああ。しかしこんなにも君の卒論に付き合わされるとは思っていなかった。無事卒業できたら、酒の一つでも奢ってほしいものだな」
    「えっ!」
    「何だ? 君も曲がりなりにも酒を嗜める年齢のはずだろう。就職先の斡旋にも一枚噛んでやったんだ。卒業したからと都合良く恩を忘れるのか」
    「それは、構わないですけど……」
    「言質はとった、約束を違えるなよ? ……何を突っ立っているんだ、分かったらさっさと帰れ」
    「え、あの……失礼します」
     急かされるように帰宅を促されて、思わず言葉足らずのまま扉を閉める。卒業しても、また会えるのだろうか。少なくとも、あと一回は。

    「……人の気も知らないでよくあんな質問ができるものだな。落ちる、と言ったか。俺はロリコンじゃないと友人に弁明したばかりだと言うのに。だが、まあ卒業してしまえば……」

     教授は調べ物や考え事をしている時、よく独り言を言う。けれど研究室の外へ出てしまった私には、教授が言ったことなんてもうはっきりは聞こえない。
     また何か喋ってるみたいだなと思うくらいがせいぜいで、内容まではさっぱり。

     だから私はまだ知らない。
     研究室でコーヒーを出してもらえたのが私だけということも、卒業しても交流を持とうとされているのが私だけなことも。

     そのことに気がついたのは、酒を奢ってくれと言った彼と卒業後に初めて会った日のことだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works