アタックチャンス到来 新規加入したサーヴァントが事情を知らず、アンデルセンを子ども扱いすることがたまにある。
そもそもサーヴァントは成長しないし、子どもの姿をしていても本質まで子どもとは限らない。そう分かっていても初めてあの姿を見るとつい、普通の子どもに接するようにしてしまうらしい。
……その後彼の声を聞いて硬直するサーヴァントの姿も、セットで見慣れたものだった。
その日は召喚に応じてくれたばかりのサーヴァントが何人か集まってアンデルセンを囲っていた。見た目は麗しい少年のアンデルセンにあれやこれやと世話を焼きたいらしい。
一方アンデルセンの方はと言うと、あれは多分締め切り直前の顔だ。何日も徹夜して、ギリギリ踏みとどまっているけれどいつ服を脱いで走り出すか分からない。
いつもなら集まってきたサーヴァントを軽くかわして部屋に戻ってしまうのに今日は大人しく座っている。多分眠気と戦っていて、周りの話はろくに聞いていないだろう。
(あ……!)
大人しくて引っ込み思案な少年に見えるアンデルセンの頭を周囲のサーヴァントが撫でている。母親が子どもにやるようなスキンシップ。あんな風にされてもアンデルセンが大人しくしているのは本当に珍しい。
もしかすると、今ならどさくさに紛れてわたしも触れられるんじゃないだろうか?
いつもは触れる前から避けられてしまうのだ。他のサーヴァント相手だと鬱陶しそうにすることはあっても、こんなに過剰に避けたりしないのに!
わたしばっかり、納得いかない。少しのスキンシップくらい、いいじゃないか。……片想いの道は険しい。
サーヴァント達にかけよって挨拶を済ませるとわたしもそっと頭に触れてみる。ふわふわの柔らかい髪はいつもなら絶対触れられない。ちょっと得をした。
サーヴァント達は撫でるのに飽きたらしくどこかへ行ってしまった。
気がつけば周囲に人気はなく、二人きり。
「おい、いい加減手を退けないか、いつまで置くつもりだ? 俺はお前達の腕置きじゃな……マス、ター?」
「え、えっと。おはよう、アンデルセン」
「…………おはよう」
アンデルセンは周りのサーヴァントがいなくなったのに気がつかなかったらしい。
撫で続けたわたしの腕を捕まえて、それでようやくわたしに気がついた。
「朝からくだらん暇潰しをしていないでさっさとレイシフトでもどこでも行けばいいだろう」
捕まえていたわたしの腕を投げるように離し、そっぽを向く。いつも通りのつれない態度だ。
……顔が赤くなければ。
「みっともない顔で廊下を歩くなよ不審者。俺は部屋に戻る」
「あ、ちょっと!」
さっさと部屋を出て行く彼の、髪の隙間から覗く耳も顔色とお揃いだ。
ぽつりとひとり、部屋に残されながら思う。
(も、もしかして、少しは意識されてる……!?)
いつもはつれない彼の顔色に、ほんのちょっぴり期待する。
部屋を出て行った彼を少し早足で追いかけるのだった。