どうか眠らない秋の夜長を「ねぇ、アンデルセンの部屋、ちょっと寒くない?」
「まだ髪が乾いていないからだろう。しっかりドライヤーをかけたのか?」
「えっ! ……わたし、シャワー浴びてからきたって言ってないよね」
「何だ、こんな時間に来たのだからここに泊まるんだろう」
「それは、そうだけど」
「まったくお前は……ほら、早くここに座れ。風邪をひかれたら俺の監督不行届になるだろう」
「また子ども扱いするんだから」
少しくらい髪が乾いていなくたっていいから、早く会いたかった。でも彼から見たらそんなのは風邪をひくかもしれない子どもの行動だなんて、恋愛はうまくいかない。
「何だかお父さんみたい」
「俺はお前のような娘は願い下げだぞ」
恋人なんだから、お父さんになりたいと言われても困る。
「ーーそんなに寒いのなら、ベッドの中に入ればいいだろう」
彼が何気ない提案をひとつ。
「シーツが冷たい」
内心は気が気じゃないわたしがひとつ。
「やれやれ、仕方ない」
彼がベッドに入ってきて、わたしの冷たくなった足を温める。絡まるように脚が触れ合い、足先がぴたりと触れる。こんなことをしていても、決してここから暖をとる以外何か進展があるわけでもないともう知っている。
それでも、もしかしたら今日は何か違うかもしれない。秋の夜長に期待しているうちに、また今日も自分よりも温かな体温に包まれて眠りに落ちる。
どうか、秋が終わって冬になる頃には、触れ合う理由がわたしの冷えた体温を取り戻す以外にもできてほしい。
それともわたしがもう少し勇気を出して、積極的になるべきだろうか。
「……俺が男だと分かってるのか、こいつは」
彼女の冷たい足を温めてやりながら、彼女の首元に幾度も唇を落とす。……こうして彼女が眠っていなければろくに手も出せない、自分のせいで進展がないことくらい痛いほど分かっている。
今日もこうして冬になるにはまだまだ早い、秋の季節に焦れながら思う。
次こそは、『寝かさない』なんて歯の浮くような台詞を吐くことができるだろうか。