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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    現パロアンぐだ♀

    2020.9

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##現パロ
    ##恋人
    ##成長童話作家

    それは袋からあふれんばかりの 藤丸立香は、身体が丈夫である。
     健康診断はオールグリーン、病気や怪我での入院歴なしだ。
     だから、風邪をひくなんて珍しいことだった。

    「分かったか? お前のそれはもう微熱のレベルじゃない。いや、これから少し熱が下がったとしても家から一歩も出るなよ? お前の家なら食料も何日分かは余裕で……何? タイミングの悪いやつだな。とにかく一歩も家から出るなよ、回覧板くらい……だとかふざけたことを抜かしたら最終手段だ。ーーマシュに連絡する」
     電話を切った途端、部屋に一人だという実感が出てきて寂しくなる。
     風邪なんて久しぶりだからだろうか、つい心細くて……忙しいだろう恋人に電話をかけてしまった。
    (外に出るなって言ったって……)

     こういう時に限って、冷蔵庫の中には卵と調味料くらいしか入ってない。
     仕事の繁忙期がようやく終わって、そろそろ買い出しに行こうかと思っていたところだった。
     食べなきゃ回復なんてしない。でも、あまり外に出ない方が良いんだろうなぁ……。
     身体がだるくて眠れないまま、我慢できたのは一時間程度。
     少しだけ、コンビニに行くだけ、栄養が必要だから。そう言い聞かせるようにして外に出る支度をする。

    「ーーやはりな。お前は本当に俺の話を聞かないやつだ」
    「ア、アンデルセン……!」
     玄関の扉が開いたのは、出かけようと靴を履いた瞬間だった。

    「お前なら、『腹が減ったから仕方ない』と外に出るのは分かっていた。まぁ、俺が来るまで部屋に留まっていたのは思っていたよりも優秀だったな」
     彼がチクチクとこちらを刺すように怒ってくるのが、心配から来るものだとわかっている。
    「ごめんなさい……」
    「謝るな。病人を叱りつけて正座させているなんて外聞が悪いにも程がある。いいから横になれ」
    「でも、全然眠くないし、お腹もすいてて」
    「聞こえなかったのか? 黙って、横になっていろ」
    「……はーい」
     彼は頑固だから、言い出すと聞かない。ここは大人しく横になるしかないみたいだ。
     
     私が渋々ベッドに横になると、彼は大きなレジ袋をどっさりとテーブルに置き始めた。
    「えっ、何これ!」
    「食料に決まっているだろう。ほら、とりあえず何を食うか決めろ」

     『量が多くて重いから、お前の買い出しには二度と付き合いたくない』……なんて何度も言っていたのに、目の前にははちきれんばかりに膨らんだスーパーの袋。しかも二つも。

     ベッドの上から手を伸ばして袋を一つ開けてみると、中にはたくさんの食料。
     すぐに食べられるゼリー、ヨーグルト、プリン、レトルトのお粥なんかがこれでもかというほど詰まっている。
     ……飲みづらいお薬もこれでバッチリ飲めちゃう!と書いてあるこのパッケージ。相変わらず、わたしを子ども扱いしてるみたいだ。
     ーーわたしの大好きなゼリーが特にたくさん入ってる。果物がいっぱい入ってる、高いやつ。
     その優しさにじんと感動しながら、けれど心配になる。

    (これ、全部で一体いくらになるんだろう……)
     決して私がケチだとか、守銭奴だとかそういうことではなくて。 
     彼はお世辞にも、金銭に余裕のある生活はしていない。日々の生活でやりくりして上手に暮らしているけれど、作家の下積み時代とはそういうものだ。
    「あ、あの……後でお金払うから……」
    「こんな時に何の心配をしているんだお前は! 勝手に購入した品物で病人から金を巻き上げるなんて、野蛮な強盗のような真似をすると思っているのか?」
     決して思っていない。思っていないから、申し訳ないのだ。
    「はぁ……罪悪感を感じているのなら、お前が俺の部屋で作った料理の調理技術料とでも相殺しておけ」
    「……うん、ありがとう」

     彼はきっとわたしが電話をしてからすぐに家を飛び出してきたのだ。重たいのに袋いっぱいに買い物して、ここまできてくれた。
     弱っているから、優しくされると惚れ直してしまいそうだ。具合が悪い時に優しくするとぐらっと来るって、本当だったんだなぁ。
     今度家にお邪魔したら、たくさんご飯を作ってあげよう。

    「ゼリーを食べようかな……リンゴのやつ」
    「これか? 少し待ってろ」
     彼は目当てのゼリーを袋から取り出すと、丁寧に封を開けて、プラスチックのスプーンを取り出す。
     ざっくりとスプーンですくったゼリーをプラスチックの器ごとこちらにくれる、と思っていた。

    「何を起きあがろうとしてるんだ、横になっていろ」
    「いや、起きないと食べられないでしょ」
    「病人は黙って口を開けてろ。熱が上がるぞ」
    「な……」
     あのアンデルセンが? リア充爆発しろとか言ってるくせに、恋人にゼリーを食べさせるなんて。
     わたし、夢でも見てるんじゃないだろうか。
    「ほら、間抜けなことを考えていないで早く口に入れろ」
    「むぐ……」
     ひたすら食べてはゼリーを押し付けられ、口を開けて食べての繰り返し。
     甘い空気だなんて微塵もなくて、ただの看病ですと主張するような詰め込まれ方。

    (もうちょっと、何かこう、あ〜んってしたりとか……!)
     贅沢なことを考えているのは分かっている。
     けれど、恋人がそれらしいことをしてくれる機会なんてあまりないのだ。
     だから嬉しくて、ちょっと浮かれてる。
     頭が痛くても、身体がだるくても、風邪が治ったかもしれないくらい心が軽くなる。

    「ーーごちそうさまでした」
    「もういいのか? まだ他にもあるぞ」
    「ううん、もう大丈夫」
    「そうか……小鳥に餌をやっているようで、レジャーとしては最適だったんだがな」
     袋の中身を探っていた彼は少し残念そうにして、冷蔵庫に買ってきたものをたくさん詰め始めた。

     レジャー、なんて言葉でごまかす彼が、らしくないことをして本当は照れているのには気がついている。

    「ほら、薬を飲んですぐ休め」
     今日はいつもよりも過保護だ。
    「……まだ眠くない」
     本当はかなり眠くなってきている。
     けれど最近は忙しくてずっと会えていなかったから、もう少しだけ起きていたい。
    「休息をとらなくては治るものも治らない。眠くなくとも目を閉じて大人しくしていろ」
    「でも……」
    「まったく、度し難いほどわがままなやつだな」
     呆れたように言いながら、目つきはいつもの何倍も優しい。
     わたしの髪を手で梳きながら、寝物語が必要か? なんて言ってくる。
     やっぱり子供扱いされているんだろうか。それでも、どうしようもなく甘えてしまう。
    「久しぶりに読んでほしいな……」
    「いいぞ。どうせならすぐに寝落ちできそうな長編を読んでやる」
     いつもは疲れるから短編しか読まないと言ってるのに、今日は特別だ。

     彼はバッグから分厚い本を取り出してからお気に入りの大きなクッションを背もたれにすると、ゆっくりとページを開く。
     そのまま片手で私の頭を撫でながら、本を読む。どう考えたって読みづらいはずなのに、決して撫でるのをやめない。
     時々目を開けて彼の方を見ると、彼もこちらを見て『仕方のないやつだな』と柔らかい視線をくれる。

     暖かな空間の中で過ごしていると、やっぱり眠気に耐えられない。もったいないと思いながら、微睡んでしまう。

    「おい、眠いのならもう諦めてさっさと寝ればいいだろう」
    「だって、久しぶりに会えたのに……」
    「戯言なら回復したら聞いてやるから、早く寝ろ」
     ーーだって、わたしが眠ったら彼が帰ってしまうと思うと寂しい。
    「いいから早く休め。お前が寝た後は執筆作業に勤しむ条件付きでここに来ているんだぞ俺は。仕事が滞ったらこの部屋は出禁になりかねない」
     よく見るとテーブルの上には彼の部屋で見慣れた執筆道具がずらりと並んでいる。
     いつもぐちゃぐちゃに丸めて捨てている原稿用紙も、綺麗な状態で整えられて置いてあるのだ。

    「あの……もしかして今日は泊まって行くの?」
     こんな状況だから、いつもは訊けない言葉がスラスラと出る。
    「まぁ、そうだな。どうせほとんど執筆で眠れやしないだろうが、一応は明日もここにいる」
     泊まっていく。ここに? 終電どころか夜の十時には即座に帰ってしまうような恋人が、ここに泊まるだなんて。

    「あの……新しい歯ブラシが棚に入ってるから自由に使って」
    「分かった」
    「シャワー使うなら、タオルとか好きに使っていいから」
    「……一応覚えておく」
    「それから、」
    「いちいちうるさいぞお前は! どこに何が入っているかくらい分かる、必要なものは勝手に借りてよろしくやるからお前は早く寝ろ! もう読み聞かせは十分だろう!」
     読みかけの本を閉じて、わたしの頭から手を離してしまう。
    「あ……」
    「何だ、まだ何かあったか」
    「寝るまででいいから、もう少しだけ、撫でてほしい」
     熱に浮かされたせいにして、とんでもないことを言った。
     ため息をついた彼は、呆れているみたいだ。
    「……あまり調子に乗るなよ」
     そんな言葉とは正反対に、わたしの頭の上にまた手を乗せる。

     明日は朝起きたらすぐに恋人の顔を見ることができる。寝起きの悪い彼だから、もしかしたら眠っているところが見られるかもしれない。
     わたしはそんな彼の明日の様子に想いを馳せて今度こそ眠りに落ちていった。
     頭に乗ったままの手は、やっぱりとても温かかった。
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