あと少しでシャッターチャンス「馬鹿め、散々俺は原稿で忙しいと言っただろうが。呼び出すなら諸々を解決してからにしろ!」
北極の美しいテーマパークでアンデルセンの罵声が響き渡る。
今回特異点の解決のため一緒に行動しているメンバー以外にも観光で特異点を訪れているサーヴァントが多い。それで他のサーヴァントに伝言を頼み、ダメ元でアンデルセンを誘ってみたのだ。
結果的に彼はやってきたものの、会うなりダメ出しの嵐だ。……それでも応じる義務のない誘いに乗ってここまで来てくれたあたり、律儀というかなんというか。
「でもせっかく来たんだし! ほら、今はだいぶ食べ物もアトラクションも充実してるんだよ」
売り上げ目標達成のために奔走した結果、北極はかなりの観光スポットになりつつあった。これなら原稿の息抜きにもなるかもしれない。
「は、こんないかにもな園内に放り込んで何を楽しめと?」
「こういうの、あんまり好きじゃない?」
テーマパークはアンデルセンの趣味じゃなかっただろうか。流行の施設だとか、ネタ用の取材だとか、喜びそうな要素はたくさんあるんだけどなぁ。
アンデルセンはわたしの返答を聞いて大きくため息をつくと、いつものように腕を組んでみせた。
「この空間を、一人で! 暇つぶしに使えと!?」
――そういえば園内は家族連れやカップルが多い。一人で観光するにはあまり向かないかもしれない。
「ごめんね。その、ほら露店のクレープとか好きかなと思って……すごく人気だから」
特異点解決の最中、園内で人気な露店の噂はどのエリアに移っても聞くことができた。こんな場所で話を聞くとつい……彼の顔が浮かんでしまって。
あの屋台の食べ物が好きかも。
このアトラクションは気にいるかも。
……もしも一緒に、過ごせたなら。
特異点解決のために慌ただしくて、彼を呼んだところで一緒に過ごす時間を作るのは難しい。分かってはいたのだけど。
一緒に見てまわることができなくてもせめて同じ園内にいれば時折タイミングを見計らって会いに行けるのではないか、そんなことを考えていた。
アンデルセンは気怠げに園内のベンチに腰を掛けている。テーマパークを楽しもう、という感じはとてもなさそうだ。
「忙しいのに呼んでごめんね。あ、でもせめて帰る前にフラワーパークを一周くらいは――」
「――さっさと解決してこい。観光なら案内人がいた方が捗る。ここは広いしな」
「!」
遠回しな「一緒に見てまわりませんか」。
気乗りしてないみたいにそっけなかったくせにずるい。わたしが彼を呼んだ理由だって、とっくに見透かしているに違いない。
「ちょっと時間がかかるかもしれないけど待っててくれる?」
「……さぁどうだか? 保障はしない。できるだけ早めに戻ってこい」
遅くなっても待ってるとか、そんな甘い言葉は出てこない。けれど言葉の端々に、普段より幾分甘さを仄めかす。きっと時間が経っても待っていてくれるだろう。散々文句は言われるかもしれないけれど。
「それじゃ、行ってきます!」
彼の元を出発する。……その前に。
「一枚だけ記念に撮らない?」
「その浮かれきった頭で写真を?」
信じられない、とばかりに彼がわたしのつけているカチューシャを見ている。
「いいでしょ、せっかくのテーマパークなんだから!」
「まったく、なにが楽しいんだか……おい、撮るならさっさとしろ。そろそろ集合のかかる時間だろう」
それでいて、「写真なんて撮らない」とは言わないのだから彼も結構フクザツな人だなと思う。
記念のツーショットを一枚どうぞ。
デートの続きは特異点が解決した後に。
解決への意気込みは充分、やる気を満タンにして出発する。
ひらひらと手を振ってわたしを見送る彼の姿がいつまでも目に焼き付いているようだった。