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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    POIPOI 162

    現パロアンぐだ♀、幼馴染の再会時空

    2020.9

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##現パロ
    ##青年実験

    宝物と手紙宝物と一通の読めない手紙

     小さい頃、わたしは絵本を読むのが好きだった。

     学校の本は読みたいのが全然置いてなくて、わたしは図書館で本を借りることが多い。ここでいつも見かける男の子の隣に座って本を読むのだ。

     ふわふわの髪と大きな目はこの辺りでは見ない青色で、わたしとは話す言葉が違うから何を言ってるのかは分からなかったと思う。
     分かるのは、自由帳に書かれる日付と数字だけ。わたし達はこの自由帳に、次はいつここに来るつもりなのかを書いて相手に知らせている。

     隣の席に座って、今日もきたよ、と声をかける。でも、わたしが何と言ってるのかはきっと男の子にはわからない。

     いつも見かける男の子の読んでいる本はわたしの読みたい本や好きな本ばかりで、気になって話しかけたのがきっかけだった。
     返された言葉は今までに聞いたことがなくて、驚いたのを思い出す。
     男の子が話しているのは英語じゃなくて他の国の言葉だった。でもボーイソプラノの声はクラスメイトの誰と比べても綺麗だ。わたしは言葉が分からなくてもまるで音楽みたいにその言葉を聴くのが好きだった。

     多分男の子はいつも本の中の文字じゃなくて、絵を見て楽しんでいるんだと思う。わたしがもしも同じ言葉でおしゃべりできたら、本の内容を教えられるのに。
     隣で静かに本を読んだり、時々自由帳に絵を描いて見せあったり、伝わらない言葉で話そうとしてみたり……学校の友達とは全然違うやりとり。
     わたしは今、一番の仲良しを教えてと言われたら迷いなくこの男の子を選ぶと思う。
     ……そんなやりとりがいつまでも続くと思っていた。

     いつも通り図書館に来て一緒に遊んで、次にくる日を自由帳に書いた時だ。わたしが日付と時間を書くと、いつもなら目の前の男の子もペンを取り出して自由帳に書き込む。
     だけどその日はどうしてか、自由帳に何も書いてくれなかったのだ。綺麗な声で何か言っているけれど、わたしには何を言っているか分からない。

    「どうしたの? わたしじゃ、分からないよ」
     必死に何かを伝えてくれようとしているのに、わたしには全然分からなくて。
     とうとう伝わらないと諦めたのか、ぎゅっと口元を固く閉じた。それからいきなり、男の子はわたしの手を引いて歩き出す。

    「ねぇ、どこに行くの?」
     手を引かれたままついていくと、図書館の外に出てしまった。もう帰ろうと思っていたけれど、一緒に図書館を出たことは今までになかった。
     手を繋いだのは、初めてだった。

     不思議に思って男の子の方を見ていたら、いきなりわたしの頭に腕を伸ばしてきてわたしのお気に入りのヘアゴムを片方外されてしまった。
    「か、返して……!」
     前に髪の毛から外して男の子にこのヘアゴムを見せたことがある。
     星の飾りがキラキラしてて、綺麗でしょ? わたしの宝物なんだよって、そう言った。
     言葉は通じなくても、これがわたしの大切なものだって、きっと伝わってるはずなのに。

     今まで、意地悪をされたことなんて一度もなかった。これがクラスの男の子達だったら、ビンタして取っ組み合って宝物を取り戻したのに。それなのに目の前の男の子に取られてしまったら、そんなことはできなかった。
     それよりも、仲良くしていたのに持ち物を取られたのが悲しくて泣きそうだった。

     わたしのヘアゴムを取った男の子は、代わりとばかりにオレンジ色のシュシュを差し出してきた。
    「これ、なに?」
     今髪につけている飾りよりもずっとシンプルで、キラキラしてない。中学生や高校生が髪につけてるやつだ。
     もしかしてわたしの宝物と交換したいんだろうか。本当はキラキラの方が好きだけど、どうしても取り替えっこしたいのか。
     結局目の前で真剣な顔をしている男の子に負けて、宝物を交換してあげることにした。

    「本当に、大事にしてね。それ、わたしの宝物なんだよ」
     シュシュを受け取って、ヘアゴムを譲る。
     髪の毛を結んでいたヘアゴムを一つ譲ってしまったから、わたしだけじゃ上手く結び直せない。だからもう片方も解いてしまった。
     男の子はわたしのヘアゴムを手首に引っ掛けて、嬉しそうにしていた。……男の子が欲しがるようなものじゃないと思うけど、キラキラが好きなのかな。

     それから、男の子は綺麗な便箋に入ったお手紙を差し出してきた。
    「わたしにくれるの? ありがとう」
     きっと書いてある言葉は分からないけれど、書いてくれたことが嬉しかった。
    「わたしもお返事を書くね……日本語しか書けないけど」
     男の子の手紙の言葉はわたしでは分からなくても大人なら分かるかもしれない。お母さんに聞いてみよう。

     そうしているうちにあたりは夕焼けでオレンジ色になってしまった。
     あれから公園のベンチに座りながら、わたしを引き止めるようにずっと何かを話し続ける男の子と伝わらないお喋りをたくさんした。
     自由帳も出さずに、全く伝わらないやりとりをして、わたしはいつもとは何だか少し様子の違う男の子の声を聴いていた。
     でも、日が暮れる前に帰らないと。
    「あのね、もう帰らないと怒られちゃうの」

     それなのに、ベンチから立ち上がったわたしの手を掴んで離してくれない。わたしはいつも通り自由帳を取り出して明日の日付を書く。
    「わたし、明日も図書館に来るよ」
     言葉が伝わったかは分からない。男の子はそれからそっとわたしの手を離して、わたしは家に帰るために男の子の側を離れた。
     寂しそうに見える男の子の方を何度も振り返って、元気付けようと笑って手を振った。手を振り返すわけでもなく、曲がり角がくるまでずっとこっちを見ていた男の子の表情が、今も目に焼き付いている。

     ーーそれきり。
     どれだけ図書館に通ってももう彼に会うことはできなかった。

     これがわたしの初恋だったと気がついたのは、彼と会えなくなって一ヶ月も過ぎた日のことだった。


    思い出にできない宝物と手紙

     青い髪と青い目は、この辺りでは珍しい。
     だからその色を見た時、慌てて追いかけてしまった。人混みに紛れて見失ってしまって、結局捕まえられなかった。
     ーーあれから、十年。わたしはまだ、今でも初恋の彼の面影を探している。

    「ごめんなさい、好きな人がいるの」
     誰にどんな風に言われても、わたしの答えはいつもこれだった。
     詳細を聞かれてもごまかすから、わたしは本当は好きな人がいないとか……地下組織の人間が恋人だから情報を漏らさないようにしてるんだ、みたいな噂が広まっているのを知っている。

     藤丸さんの好きな人って、どんな人なの? ……そんなの、今はどんな風だかわたしは知らないよ。きっとわたしより背が高くなっているんだろうな、くらいの想像しかできない。あの綺麗な高い声は、声変わりしてどんな風になったのだろう?
     思い出補正なのかもしれないけれど、初恋の男の子以上に好きになるような男の人は現れなかった。
     言葉も通じない、名前も知らない初恋の人にもらった手紙を、今でも大事に取っておいてある。鉛筆で書かれたその便箋は、まだ今でもくっきり文字が残っている。だから時々机の引き出しから出して、読んでしまう。

     わたしが彼から手紙をもらった時、てっきり私の読めない海外の言葉が綴られていると思っていた。
     けれど、封筒を開けてみるとそこに書かれていたのは日本語だった。不慣れそうな、ひらがなしか書かれていない文章。
    『ずっとありがとう。こんど、あえない。しんあいなるおんなのこへ。』
     正直、読めたのはこのあたりだけで他の部分は単語や文がうまく解読できなかった。けれど頑張って書いてくれたんだろう。しんあいなる、なんてそこだけ妙にかしこまっているのが、辞書をひいたのかなと思ってちょっと微笑ましい。
     わたしのことを親しい友達だと思ってくれていたのかな……女の子として、好きだとは思ってくれていなかったかもしれないけれど。
     日本語を全く話せなかった彼が、わたしには日本語の手紙をくれた。内容以上にそのことが嬉しかった。

     手紙と一緒に彼がくれた大人っぽいオレンジのシュシュは、今では私には少し子供っぽすぎる。けれど好きな人がくれたものだから、今でもわたしはそれを毎日身につけている。
     ゴムが伸びてしまって、きつく巻きつけないとすぐ緩んでとれてしまう。でも、定期的に洗濯したり、ほつれを直したり、ちゃんとメンテナンスして大事にしているのだ。
     でもそろそろ、これを身につけるのも限界がある。シュシュも手紙も、初恋の思い出なんてさっぱり忘れて新しい恋を探すべきだろうか。
     そう思っても、まだ忘れることはできないでいる。

     と言うのも、最近この街で青色の髪を見かける時があるのだ。背がすごく高くて、すらっとした男の人。後ろ姿しか見たことがなくて、顔はよく分からない。……まったく別人かもしれない。
     どうか、未だに初恋の人の面影を追ってるせいで見ている、痛々しい妄想じゃないと信じたい。

     それは珍しく一限だけで授業が終わった日のこと。お気に入りのパン屋さんでパンを何個か買って、袋に詰めてもらって。さぁこれから家に帰ろうかと袋を受け取って歩き出した時。

    「!」
     ビックリすると人間は声も出ないものらしい。思わずパンの入った袋を床に落とす。
     パン屋にたった今入ってきた青い髪の男の人。……それが、初恋の彼に似ているような気がするのだ。まるで成長した彼がそのまま目の前に現れたような感覚。

     背の高い彼はわたしが袋を落としたのを見ると、長い脚でこちらにあっという間に近づいて、ひょいと拾い上げてこちらに袋を差し出してくれた。
    「お嬢さん、落としましたよ」
    「あ……あの、ありがとうございます」
     流暢な日本語。想像以上に低い声。でも、こちらを見る青い目の色は記憶の中のものに近い気がする。もしかして、彼なんだろうか。
     けれど、いきなりわたしのことを覚えていますか、なんて言えない。別人かもしれないじゃないか。

     近くに来るとものすごい背の高さで圧倒されてしまう。それから、日本人は童顔だと言うけれど外国人は一気に歳をとりすぎだと思う。
     想像していた以上に、彼は大人というか何というか……およそわたしと同年代の男の人には見えない。目の前の彼は、例えばわたしの父親くらいの歳だと言われても納得できるくらいで。

     そんな目の前の初恋の彼(仮)に話しかけるべきか迷っていると、パン屋の扉がまた開いて、お客さんが一人入ってきた。
     ーーその姿を見て、わたしはせっかく拾ってもらったパンの袋をまた落としそうになる。

     青色の髪と青色の目。昔はしていなかった、眼鏡をかけている。すらりと高い背丈。
     今目の前にいる青色の髪の男性よりも、ずっと若いだろうその姿。少し歳上に見えるけれど、外国人だということを踏まえると、多分わたしと同じくらいの歳の。

     もちろんわたしの勘違いかもしれない。
     だけど、わたしと目があった途端に彼が目を見開いて驚きながらこちらを見たものだから、わたしは反射的に彼に駆け寄っていた。
     話したいことがたくさんある。相変わらず、言葉は通じないかもしれないけれど。お別れも言えずに離れてしまった大切な彼に。

     これがわたしの初恋の彼との再会と、その父親と出会った最初の日だった。


    擦り合わせる過去と現在 2021.5

    初恋は何歳の時? どんな人だった? ――みんなが過去のことのように語る恋の話は、わたしにとって現在進行形だ。「初恋の人との再会」なんてテレビの企画みたい。つい最近、わたしはそれを体験した。……しかもわたしにとっては過去の恋ではなくて、昔から今までずっと好きな相手だ。偶然再会した相手が、自分のことを覚えていた。しかも、連絡先を交換することができたのだ! 
     子どもの頃に出会った彼は私には分からない外国語を話していた。そんな彼と仲良くなれたのは、今考えるとすごいことだ。初めて聞く彼の流暢な日本語。――十年越しにわたしは初めて彼の名前を知った。
    「ふふ、アンデルセンっていうんだ……」
     新しくスマホに登録された連絡先を何度も見ては嬉しくなる。にやけてしまう。わたしのスマホは好きな人の名前が登録されている! 
     ベッドに寝転がりながら連絡先を眺めて、ドキドキしてまだ眠れない。……はしゃいでいたらうっかり、電話をかけてしまって。
    「わ、わ……どうしよう」
     コール音が鳴り響く。今切ったらイタズラ電話になってしまう。着信が残るだろうし……! それにもう、遅い時間だ。
    「……もしもし?」
    「っ……!」
     思ったよりもすぐに電話に出た彼の声に思わず息を止める。
    「どうした? リツカ。こんな夜分に何の用だ」
    「あ、その……ごめんなさい、間違ってかけちゃって、」
     美しいボーイソプラノの声を聴くのが好きだった。けれど、今のこの声も好きだなと思う。今も昔も、この人の声が好きだ。昔彼が話していたデンマーク語じゃない、聞き慣れた日本語。違和感がないほど上手い。それに、何よりわたしの名前を覚えてくれている!
    「なんだ、寝ぼけて連絡しただけか」  
    「……ごめんね」
     寝ぼけていたではないんだけど、実際のことは恥ずかしくて説明できない。
    「まぁちょうどよかった。明日にでも連絡しようと思っていたところだよ」
    「えっ!」
     彼の方から連絡しようと思ってくれるなんて……!
    「迷惑なら断ってくれて構わないが……父親が君を家に呼べとうるさい」
    「お父さんが? なんで?」
     わたし達が再会した日、その場に彼のお父さんが居合わせた。その人がどうしてわたしに会いたがるのか。
    「……知らない。まぁ、君を気に入っているんだろう」
     好きな人のお父さんに好かれている。悪いことではないけれど、そんな、まだ、気が早いような! ……早いも何も冷静に考えるとわたし達は恋人ですらない。恋人ですらないのに、いきなり好きな人の家に招かれている……!
    「あの、迷惑じゃないけど……いきなりお邪魔したりして大丈夫?」
    「呼んでいるのはこちら側だ。気にする必要はない」
     会いたがっているのはお父さんの方で、彼ではないけれど。でも家に来ないかと誘ってもらうなんて!
    「う、うん。じゃあ……お邪魔します」
    「それは良かった、伝えておく。あぁ、それと、」
     一息つくように間があく。
    「それと?」
    「僕の家に来る前に色々計画を立てた方が良さそうだ。その前に一度、外で会わないか」
    「ああ、そっか! いいよ、いつにする?」
     そうしてもう遅い時間にやりとりを重ねる。最後には好きな人に「おやすみ」と言って電話を切ることまでできたのだ。予定が決まって満足して、電話を切った頃にようやくわたひは気がついた。
    ――これ、もしかしてデートじゃないだろうか? 

     計画を立てる、なんて義務的な言葉のせいで気がつかずに、今の今まで普通に話していた。おやすみの言葉が恋人みたいだ、なんて浮かれて。けどそれどころじゃなかった。外で二人で会うのだ。わたし達はもう子どもじゃない。
    「や、やっぱりデート、なのかな……?」
     再会したばかりでそんな、デート、とか。もうこんな時間なのに眠れなさそうだ。何を着ていけばいいのか、どんな顔して会えばいいのか、考えてしまって。
     再会したばかりの初恋の人の姿を浮かべて眠れない夜は過ぎていく。ますます眠れなくなってネットで検索する『デート 服』。……そういえば今のわたしと彼は、友達、で良いのだろうか。


    この十年の想いを文字に 2021.5

     二人でランチに行ってお昼を済ませたら、その後近くのケーキ屋さんでお茶しながら彼の家にお邪魔する時の計画を立てる。……よく考えたら、一体何の計画が必要なのだろう? 電話で話をした時はあまりに緊張していて、深く考えていなかった。やっぱり好きな人と出かけるのは緊張する。なにせ相手は十年も好きな人だ。けれど、今の彼がどんななのかは知らない。それを、知りたいと思う。
     彼に会う前日は緊張でいっぱいになって、なかなか寝付けなくて。胸をいっぱいにしてどうにか眠った翌朝、わたしは寝ぼけてアラームを消した上でまた眠った。起きた時には待ち合わせの時間はもう迫っていて、わたしは慌てて家を飛び出すことになったのだ。

    (ダメだ、間に合わないかも……!)
     猛ダッシュで待ち合わせ場所を目指す。本当なら朝早くから余裕を持って準備をしてくるはずだったのに、全然時間が足りなかった。せっかく好きな人と会うのに! わたしにとってはデート、でもあるのに。精一杯走って、曲がり角を曲がれば目的地。早く到着しなきゃとばかり考えていて、前をよく見ていなかった。
    「わっ⁉︎」
     角を曲がった途端、何かにぶつかって弾き飛ばされる。
    (ダメだこれ、転ぶ……!)
     そう思ったのに、なぜか転ばずにいる。身体を支えられているのだ。
    「なんだリツカか」
    「えっ! アンデルセン?」
     私の身体を支えているのは待ち合わせの相手だった。
    「怪我は?」
    「あ、うん。大丈夫」
    「それならいい。それはそうと、そろそろ自力で立ってくれないか」
    「!」
     彼にもたれかかったままになっているのに気がついて、慌てて脚に力を入れる。
    「ぶつかってゴメンね。あと支えてくれてありがとう」
     せっかく久しぶりに会うのに、初っ端から迷惑をかけてしまった……! それに、抱き留めてもらってしまった。あんなとっさに、まるでドラマみたいだ。
    「それからあの、ちょっと遅れちゃって。ごめんなさい」
    「大した遅れじゃない。僕も今来たばかりだ」
     まるで恋人の待ち合わせみたいな台詞だ。ちょっと照れる。
    「……言っておくが。本当に今来たばかりだぞ」
     目を逸らしながらそう言う彼は、よく見ると髪がところどころ跳ねている。もしかして、彼も寝坊したのだろうか。……わたしみたいに今日のことが楽しみで眠れなかったのなら良いのになぁ。
    「もしかして寝坊した?」
    「まぁ、そんなところだ。大体休みの日はいつもこんな早くに起きない」
    「不健康だなぁ」
    「放っておけ。それなりになんとかなるんだ」
     十年の月日が経ったとは思えないほど、会話はスムーズだった。まるで昨日も話したみたいにしているけれど、彼とちゃんとした会話ができるようになったのは最近のことなのだ。
    「しかしまぁ、君は相変わらずだな。昔の君をそっくりそのまま身長だけデカくしたみたいだ」
    「ちょっと! 人のこと成長してないみたいに言って!」
     恐ろしく口が悪い。けれどそんなに驚きはしなかった。昔は彼の言葉が分からなかったけれど、呆れたような表情や口調から何となく彼の伝えたい言葉のニュアンスを読み取っていたのだ。昔もやりとりの最中にこんな顔をしていた彼が記憶に残っている。
    「別に成長していないとは言っていない。背は伸びているだろう」
    「もう、でも中身は成長してないって言うんでしょ」
     十年も経っているんだから背が伸びるのは当たり前だ。中身が変わらないみたいなことを言うのが不満なのだ。
    「中身の変化なんて僕が知るか。なんせ十年も会っていないんだ」
    「それは、そうだけど……」
    「中身は知らんが、まぁ……物持ちがいいのは分かる。もう擦り切れてもおかしくないほど月日が経ったのに、まだ使われているとは思わなかった」
     彼の手が私のシュシュを撫でる。十年前に彼と交換したものだ。
    「そういうアンデルセンこそ……」
     彼の持っている大人っぽいバッグには不釣り合いな星の飾り。くくりつけられたヘアゴムは紐が傷んでいるらしくて、ボロボロになっているし、昔よりも飾りが色褪せている。でも褪せていたって、昔の私の宝物を見間違ったりはしない。
    「ずっと持っててくれたんだ。……嬉しいな」
    「まぁ、なんだ。昔の僕には君が何を言っているかは分からなかったがぞんざいに扱えば許さないという顔をしていたからな」
     そういう彼の少し照れたような顔は、昔の彼の面影がある。わたしがずっと好きだった男の子が、少しずつ目の前の男性と重なってくるのだ。
    「そうだ、あのね。ずっと手紙のお礼が言いたかったの。日本語だったから、ビックリしたよ」
    「おいよせ、あんなヘタクソな文章を今さら引き合いに出すな」
    「だって、嬉しかったんだよ。……お別れを言えなかったから、もしいつか会えたらお礼を言いたいってずっと思ってた。それでね、今日は手紙の返事を書いてきたの」
     彼がくれた別れの手紙に十年越しの再会を祝う手紙の返事。今はチャットや電話で済むけれどそれでも、手紙の返事は手紙がいいと思った。
    「この手紙、受け取ってもらえますか?」
    「なんだ、考えることは一緒だな」
    「え?」
    「昔から、君と僕は本の趣味だけはよく合った。他は知りようもないが……」
     そう言って彼はカバンから封筒を取り出す。
    「今も昔も僕たちは、文字での縁があるらしい」 

     十年の月日を文字で埋めるように、手紙を交換する。お互い恐ろしいほど分厚くなった封筒に苦笑しながら、ずっしりした重みでも伝えられる気持ちは十年分には程遠い。わたし達は考えることが似てるんだ……少し嬉しい。
     十年前に宝物を交換したわたし達は、今、一通の手紙を交換している。分厚い手紙には感謝と、再開を祝う言葉。それからもう一つ。よければまた仲良くしてくださいと願う言葉。こうして十年越しの交流は、長い長い文章を繙くことから始まったのだった。

     ……わたしが彼からもらった分厚い封筒の中身が恋文だと知るのは、もう少し後の話である。
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