パジャマパーティーナイト「アンデルセンってちゃんとわたしのこと恋人だって思ってるの?」
ベッドの上、少し見上げるように彼女と目を合わせている。俺の上に乗り上げる勢いでせまる彼女の視線に身を引けども、ベッドに頭がぶつかるだけ。普段かなり目線を落として目を合わせる彼女を見上げる機会なんて全くない。
目眩を起こさんばかりのセリフ。
よりにもよってこの場所で、こんな体勢でそんな言葉が出るとは。
――じゃあお前は恋人だとも思ってない男の部屋で、寝巻きでうろつくのか? 反撃してやろうとしたが彼女が想像以上に泣きそうな顔をしているものだから口を閉じた。
さて恋人の家に宿泊する、というイベントがある。
実際がどうであれ歳頃のお嬢さんがこんなくたびれた男の家で夜を明かし朝日を浴びている、そのこと自体が恐れ多いとも言えるほどの出来事である。
身を寄せ合い隣に転がって睡眠なんて穏やかな時間が過ごせると思っているのか? そんなもの寝付きの良い彼女には無意味な問答だ。
いつ泊まりに来ても寝床に入れば僕の思惑など知ったこっちゃない熟睡度。僕よりも早く入眠して、僕よりも早く目を覚ます恋人。
恋人が宿泊しに来ると言うのだから、曲がりなりにも考えるところはあったが何度も熟睡する彼女を見るうちにまぁ現実の恋愛なんぞ余計な期待をするものではないな、という答えに落ち着いていた。
……それが、急にこんな状況だ。
今の切実そうな彼女の言動はさておき、正直なところこっちのセリフである。
「さて、どうだろうね。まぁ気になるのなら君はその寝付きの良さをどうにかすることからだ」
手っ取り早く二度とそんなセリフが出ないようにしてやろうか?
……とさすがにそこまで明け透けなことはまだ言えないか。いずれにしろここまで迫ったのなら待ったは無しで頼みたい。
反撃五分前。
まずはこの体勢を交代するところから始めるべきか? 彼女の髪を梳きながらそんなことを考えていた。