Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 162

    現パロアンぐだ♀、タイムスリップ事変

    2022.10

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##現パロ
    ##同棲

    未来観光ステーション足元にご注意ください

    「アンデルセン、原稿捗ってる?」
    「お前はここに来る以外にやることがないのか? 大体――」
    「はい、これ差し入れ」
    「は、こんな出がらしの茶しか出ないところに来る物好きめ! ……夕飯は出ない。それまでに帰ることだな」
     相変わらずの塩対応に、ほんの僅かな気遣い。何とも分かりづらい優しさが彼の魅力の一つ。他の人には気づいてほしくない。
     差入れなしで来ても多分彼は部屋に入れてくれるだろう。だけど何もなしにここにくる度胸はない。
     アピールは散々しているつもりだけれど、いつものらりくらりと躱されてしまう。
    (脈はないから諦めろってことなのかな……)
     確かめるにはまだ少し勇気が足りない。
    「おい、紅茶と緑茶どっちにするんだ」
    「……ありがとう。紅茶にする。わたしも手伝うね」
     出がらしなんて言っていたくせに、彼は新しいお茶のパックを開けた。脈がないにしては丁寧にもてなされている、気はするのだけど。

     紅茶の入ったマグカップを片手にキッチンからリビングへ移動する。こぼさないように慎重に、マグカップを見つめて足を踏み出して――
    「おい、立香!」
    「え」
     
     ほんの僅かな浮遊感。
     床に落ちていた何かを踏んだ。想像以上に勢いよく滑ったらしい。
     チカチカと視界が点滅する。慌てて目を瞑って衝撃に備え――。


    「相変わらず狸寝入りが上達しないなお前は」
    「……え?」
     慌てて目を開ける。
     さっきまで転びそうだったはずなのに今はソファの上だ。マグカップがどこにもない。さっきまで二人で床に立っていたはずが、ソファに並んで座っている。
    「紅茶は……?」
    「何だ、珍しく狸寝入りじゃなかったか。寝ぼけるくらいならもう少し休んでいろ」
     頭の上にポンと大きな手のひらが乗る。ゆっくり動く手のひらは心地よく温かい。されるがままに彼の肩の方へ頭が傾く。
     もしかすると今、アンデルセンに、頭を撫でられている……?
    「っ……!」
     思わず立ち上がる。急なめまいで視界がチラつく。
    「貧血か? ……いや違うな、寝不足か」
     わたしの肩を丁寧に支えながら彼が言うものだから、視界のぐらつきが止まらない。
    (なに、これ……)
     彼から降ってくる、普段ではありえない視線、態度の柔らかさは見たことのないものだ。
     記憶のどこにもない「脈あり」の彼の姿。ネタバレを見る前から夢でしかない。

    「お前の挙動不審はいつものことだが……どうした、何か拾い食いでもしたか?」
    「そ、そんなわけないでしょ!」
    「それなら全て寝不足のせいか。――過激なことをした覚えはない、寝不足程度で謝らんぞ」
     遺憾である、と言わんばかりに彼が宣言した。
    「べつに、寝不足とかじゃないけど」
     わたしは昨日も快眠だった。
    「それにしては随分不満があるようじゃないか。頭を撫でられるのが好きと言ったのはお前の方だぞ、それを――」
    「……なんて?」
    「? だから、お前が前に頭を撫でろと散々せがんだことがあるだろう? カクテル五杯はいったか」
    「な…………」
     わたしはお酒なんて飲まないのだ。けれど目の前で彼は本当にあった出来事みたいにわたしに説明してみせる。
    「やれ撫でろ手を止めるなと散々うるさかった。飼い犬でもこうはならない加減知らずで散々やっておいて忘れたとは言わせない」
    「知らないそんなの!」
     彼がぴたりと動きを止める。美人が真顔になると妙に迫力があって、わたしは思わず一歩引いた。引いた途端に腰を掴まれて逃亡失敗。

    「ほう、ならその後のことも記憶にございません、か?」
    「その、後……?」
    「散々撫でを要求しておいて『足りない』ときた。しまいには一晩中つきっきりで抱き抱えろと無茶振りを」
    「⁉︎」
     理解の範疇を超えた「わたしのやらかし話」。もちろんそんな覚えがあるはずもなく。
    「俺は腕に抱えるだけで済むと思うなと警告したがお前は聞く耳を持たなかった。よしておけば良いものを、俺の袖から頑なに手を離さなかったお前は、それから――」
    「………………」
    「……それで。まだ続きが聞きたいのか?」
    「え?」
     睨むような目つき。それは彼が明らかに照れている時の態度で。
    「こんなホラ話を真面目に聞くやつがあるか! お前には恥じらいというものがないのか⁉︎ さっさと止めろ!」
    「そ、そんな無茶な……」
     乱暴に頭を掻きむしりながら彼は文句を言った。
    「何の羞恥プレイだこれは。まったく、お前もお前だ! こんな細やかなホラ話よりもよほど話すに値しない実体験があるくせにこの程度の話で無闇に照れるな」
    「何言ってるの、そんなのない!」 
     流れるようにとんでもないことを言う。これはさっきの分かりづらい揶揄いの続きだろうか。
    「当事者は時に思うものだ。――自分の体験したことなど大したことではない。だとしても……」
     二人きりの室内なのに、彼は耳打ちするように囁いた。
    「――――!」
     とても口には出せないエピソードが実話であるかのように飛び出すのだ。

    「そんなこと、絶対してない――!」
     近所迷惑を考える余裕もなく、大声で叫ぶ。

     不思議な居候生活のはじまり、はじまり。

     混乱の中、床で滑って転びかけてから起こった出来事にわたしはまだ気が付かないままだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works