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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    カルデアアンぐだ♀、付き合ってる時空

    2020.10

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##カルデア時空
    ##恋人

    ファーストミッション、手を繋ぐ 恋人とはどのようなものか。答えは人の数だけあれど「どのように行動したら」恋人のように見えるかは知っている。その中でも初心者にも手軽なもの、それがーー手を繋ぐという行為である。

    「アンデルセン、お待たせ。行こうか?」
    「! ……ああ」
     今日の彼女はいつもの礼装を着ていない。これも礼装の一種ではあるのだろうが、初めて見る服装だ。その服装に、何か言及するべきだっただろうか。
     こちらはサーヴァントなのだ。服装はいつもと何ら変わらない。……実のところ、俺にも着替えるという選択肢はあったのだが、あれでもないこれでもないと服を広げているうちに決めきれず時間が来てしまった。別に大したことのない買い出しで着飾るなんて、浮かれてるみたいだろう。そう考え直して服を着替えるのはやめた。
     危険のない特異点でのちょっとした買い出し。買うものは必須なものではない、趣味の範囲。買い出しついでに賑わう街中を歩いて、出店で何か食べ物を買う。具体的には、行くのはどうやら街では評判の良いらしいクレープ屋だ。天気もいい、店の前のテーブルに腰掛けて……そうだ、テーブルの下でならば、人の目を気にせずに手を掴めるかもしれない。そう思っていたというのに。

    「やっぱり美味しい! 頑張って並んで良かった!」
    「そうか。それは良かったな」
     彼女が両手でクレープを掴むものだから、手を掴む隙が全くない。せめて片手をテーブルに置いていれば。手の動きに注目する。手をテーブルに置いた瞬間にさっと掠め取ってしまえばいい。手の動きを見張って、機会を狙う。
    「……アンデルセンもいちごのやつが食べたいの?」
    「は?」
     手元を見ていたせいで妙な勘違いをしているようだ。
    「仕方ないなぁ。一口だけだよ」
     ずい、とこちらにクレープを差し出してくる。何が仕方ないんだ。早く食べろとばかりにこちらを見ている彼女に下手な言い訳をすると、かえって墓穴を掘りそうだ。目の前のクレープにかじりつく。
    「美味しい?」
    「……ん」
     馬鹿め、こんな状況で味なんてはっきり分かるものか! 甘ったるくてこいつが好きな味がするんだろうな、感想はそれだけだ。

     手を繋ぎたい、と声をかければ照れながら手を差し出してくる彼女の姿は簡単に想像できる。それでも今ひとつ、この背格好では仲の良い姉弟にしか見えないのだから仕方ない。
     食べ終わってから買い出しをして、街を歩いても結局すぐ横にある手を掴めない。

    「アンデルセン、どっちが似合うと思う?」
     髪飾りを二つ手に乗せて彼女が俺に聞いた。……ごちゃごちゃした雑貨屋の中なら、手を繋げるチャンスがあるかと思えば、いろんな雑貨をこいつが手に取るせいで全く手があかない。
     手の上の髪飾りをとって、彼女の髪に合わせてみる。最近は髪を結わなくなったが、こうして飾りをつけるとまた雰囲気が変わる。
    「こっちの方がいい。これは今日のような髪を結っていない時の方が似合う」
    「! もしかして大人っぽく見える?」
    「? 何を言っている。お前ももういい大人だろうが」
     日本人は若く見えるから、成人しても彼女は酒場で年齢を確認されがちだ。……もっとも酒場で年齢を確認されるのは俺もだが。
     そんなこともあって、俺とこいつが手を繋いで歩いても親子ではなく歳の近い姉弟のようになるのだ。
    「じゃあ、こっちにしようかな」
    「貸してみろ……俺が会計してくる」
     早く彼女が雑貨を手放してくれなくては、ろくに手も繋げやしない。
    「えっ! ちゃんと自分で買うよ」
    「いいから」
     金の出どころより、彼女に何も持たずに歩かせることに注意を払いたい。
    「あの、じゃあ……今度ちゃんとお返しするから」
    「こんなささやかな雑貨で気負いすぎだぞ。まぁ、それで気が済むのなら好きにしろ」
     そうしてようやく彼女の手を空にしたというのに、お節介な店員がやってきてやれプレゼント用にお包みしますか、すぐに身につけていきますかと粘着してくる。
     こんな店員の前で結局手なんか取れるわけもなく、買い物を済ませて店を後にする。

     こうして恋人と言っても、ろくに手も繋げずに買い出しの時間は過ぎてしまう。
     帰る前に少しだけと公園のベンチに並んで座っても、さっき買ってやった髪飾りを嬉しそうに手に乗せて眺めているせいで彼女は手を下ろさない。
    「それは髪飾りなんだ。眺めてないで髪につけたらどうだ」
     彼女を手空きにしようとして、髪飾りを取り上げる。それから適当に髪の束を掬って、くくりつける。

    「……ありがとう」
     彼女が嬉しそうな顔でそう言った。それから少しだけ距離を詰めて座り直す。ーー彼女の手は投げ出されてベンチの上。手を掠め取るなら、今が良いタイミングだ。……そう思っていたのに。
     手を取ろうとした途端、公園でボール遊びをしている子どもの声がここまで響いてくる。向かい側のベンチに座っている老夫婦がこちらを見ているような気がしてくるのだ。公園は人が多い。

     思えば出かけている間に手を繋ごうだなんて、難易度が高すぎる。初心者向けだなんだ情報を鵜呑みにするべきじゃなかった。もっと人気のない場所がいいだろう。……俺の部屋でも、彼女の部屋でもいい。 
     こうしてたかが初心者向けのアクションも起こせず、レイシフトの時間は終わる。

     ーー室内で二人きりの時に手を繋ぐ言い訳を考えるのは、外で彼女の手を取る言い訳を紡ぐよりももっと難しい。
     そんなことに気がつくのはここから何日も後のことだった。
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