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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    POIPOI 162

    カルデアアンぐだ♀

    2020.8

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##カルデア時空

    一番を教えて マスターとサーヴァントが互いに理解を深め、戦線を超えていく。数値化できないそのギャルゲーの如き『親密度』にもあたるそれが、数値としてデータに残されるようになったのはいつのことだったか。
     マスターとの絆が深まった!
     ……勝手にそれを数値化されて叩きつけられることの理不尽さときたら。『絆』とは、その数値は互いの心の通じ合いであるように誰もが思うだろう。
     しかし、絆の数値が上がれどマスターは全てのサーヴァントに平等に接している。

     俺はこの数値がマスターを己がどのように思っているか……平たく、自分のマスターへの好感度のメーターであるといつしか気がついてしまった。他の者を押し除けて数値を上げる自分の身体データに肝を冷やし、絶望する。過ぎた好意だ、これではまるで。彼女を、自分が求めているかのようじゃないか。もしや同じ時間を共有するだけ、次にデータを調べた時に絆の数値が上がっているのではないか。それならば、近づくのは得策ではない。そう分かっている。
     だが、淹れたての濃いコーヒーにミルクは一杯だけ、好みの味に整えられたマグカップを差し出されてしまうと弱い。彼女が差し出すものをいらないと突き返すことも、ついでとばかりに隣に座って喧しく喋りだす彼女を止めることもできないのだ。

     何度か考えたことがある。くだらない空想だ。こんなものを一方的な絆の数値をデータとして知らされてたまるか。せめて痛み分け……マスターから俺への数値が分かるのなら、これも仕様と見ないフリができるというのに、と。

     そんなある日、カルデアのサーヴァントは一体何のバグなのか、マスターと共にいる時に視界の端に奇妙なメーターが見えるという症状に見舞われた。
     ーーこれが所謂、『マスターからサーヴァントへの絆の数値』であると、すぐに誰もが勘付いただろう。……そして恐ろしいことに、マスターの数値を詳しく確認しようと行動に出たサーヴァントの多さときたら、語るのもおぞましい。

     今までに起こったものの中では圧倒的に危険度が低い事件だ。放置してもそのうち解消するような、解消しなくても問題はさほどないようなもの。まぁ原因が何であるにしろ、散々『一度暴いてやりたい』と思っていた数値を目の前にぶら下げられるなると。ーーやはり、これは見るべきではない。健康的な労働環境を保ちたいのであれば見てはならない。大人しく自室で事態の解消を待つことにした。

     だというのに、マスターは自分から俺の部屋へ駆け込むように滑り込んできてしまったのだ。乱暴にドアを閉め、鍵をかけてしゃがみ込む彼女をできるだけ視界に入れないように心がけながら、俺は自分の幸運数値を恨む。
     何だってこんなタイミングで部屋を訪ねてきたりするんだ! 男の部屋に入って鍵をかけるな、頭が茹っているのか!?

    「はぁ……アンデルセン、今、誰も部屋に来てないよね?」
    「俺の部屋に好んで入り浸るような奴がいると思うのか? 見ての通り一人だ」
    「良かった……ようやく安全なところに来られた」
     無理して声を発する必要もないだろうに、喋りながら息切れしている。この様子では絆メーターのせいで色んな連中に追いかけまわされたのだろう。

    「やれやれ、そんなに逃げずともお前の数値を見せつけてやればいいだろう?」
    「みんなとは平等に、仲良くしているつもりだよ。けど、もし数値に少しでも違いがあったら……」
     確かにそれは戦争で済まされるような事態ではないだろう。
    「追いかけてくるのは自分の数値が一番じゃなきゃオシオキ! みたいな子達ばかりで、その……」
     よせば良いのに、そんなことを耳にすれば疑問が頭に浮かぶ。こんな二人しかいない空間で、誰の邪魔もなくそんなことを聞ける機会などあまりない。だからつい、やめておけば良いのに口を開いてしまう。

    「つまり、お前の一番はお前を追いかけ回さない連中の中にいるということか」
     
    「えっ……!」
    「まぁ、そもそもお前の一番がサーヴァントがとも限らないがな」
     そう言ったものの、この声色では答えは明らかだ。何を今更、そんなことにはとっくに勘付いていた。
     この少女がいつ頃からか、戦闘中でも花の咲くような良い顔を見せるようになった頃。このカルデアの女達と集まって話している時のあの顔。いつからかあった『変化』の要因はその類のものではないかと、思っていた。

     知っているか? マスター。
     ーーこのカルデアでお前に一番熱を上げているサーヴァントは、お前の益にもならないことを考えている。きっと、お前の一番を知れば。知れば、このカルデアに留まることは耐えがたい。お前が大切に思う一番を、俺は視界に入れたくもない。これまで過剰に積まれてきた種火や聖杯のリソース分の仕事もせず、消える準備を整えるだろう。
     甲斐性のない話だ。しかし、こんな役にも立たない心を抱えたままの俺を戦闘に引っ張り出すよりも、どうか早く引導を渡してくれ。

    「アンデルセンは、私の一番が気になるの?」
    「くだらないことを聞くな。ここは一応、俺の職場だ。労働格差で損をするようでは気に入らないと言っているんだ」
     俺の目の前で一番を贔屓にして、絆の数値を上げるようなサーヴァントがいる。それだけですでに労働格差は生まれている。
    「損って? 具体的には?」
    「想像がつかないのか、頭を働かせろ、頭を! お前だって、一番好ましい者にだけ贈り物を贈ったり、休暇を与えたり、それらしいことをするだろう?」
     たかが三流サーヴァントのためにも丁寧にコーヒーを淹れるような女だ。一番ともなればさぞ素晴らしい飲み物を差し出すんだろうな!
     さりげなくアピールをしたいという身の毛もよだついじらしさを見せるに違いない。一番であるならば。

    「……もう贔屓されてるのに、少し欲張りじゃない?」
    「は?」
     訳の分からない科白に、反射的に彼女の方に目をやる。そうして、見てはいけないと避けていた数値が目に飛び込んでくる。NEXT 42……こんなのは誤差のような残量だ。すぐに次の段階に上がるのだろう。
     しかし、特筆すべきなのはそこではない。その上に並ぶダイヤの数に目を見張る。大きなダイヤの横に並ぶ、小さなダイヤが五つ。一つはそうだ、もうすぐ満ちる、残量四十二の欠けたダイヤ。
     この図形を、俺は見たことがある。このカルデアで数値に換算できるのは絆十五という数値までだとされていた。この数値は、このダイヤの数は、一体何だ。もうすぐにでも測定できる限界値を超えそうなこの数値はまるで。

    「アンデルセン、メーターばっかり見て、わたしのこと見てないでしょ」
     不機嫌そうな声の元を辿れば、見たこともない表情の女。
    「損するとか、心配いらないのに」
     カルデアの女達と集まっている時にしか見せないあの顔。
    「ねぇ、私の一番……誰だか分からないの?」
     俺に無遠慮に触れる手を払い除けることができない。触れ合う手指と、ぶつかる視線と。メーターにさっきまであった残量の四十二がいつの間にか消えている。

     絆十五ら俺と揃いの算出上限数値。

     こんな静寂の中、すぐ近くの廊下では駆け回る奴らの喧しい声。サーヴァント達の探し人は、鍵のかかった部屋の中。

    「他の子達に見つからないように匿ってほしいの。嫌なら、出ていくけど」
    「お前、大人しく出ていくーーなんて面はしていないぞ」
     大体、こいつは今まで俺の数値を一方的に知っていたのだ。さぞ追い出されない自信があるんだろうな! 俺が男であること、鍵のかかった逃げられない密室に二人きりだということを、本当に理解しているのだろうか。そして、いい加減大人しく繋がった手を離してくれ。

     こちらを見つめて観察していた彼女が、ふとつぶやく。
    「『絆』って言っても、色々あるでしょ。アンデルセンの持っている絆は、私の欲しいものじゃないかもって思ってたの。でも……」
     あぁ、この顔はダメだ。マズい。
    「ここで追い出さないならわたし、都合よく受け取っちゃうけど」
     男と女と繋がれた手と。今だけは目に見える絆の数値。
    「勘違いして、いいの?」
    「『この時の作者の気持ち』の正答をでっち上げるのは読者の特権だろう? 勘違いかどうかは、お前が勝手に決めろ」
     言葉の意味を紐解くように、しばらくぽかんと間抜け面を晒していた彼女は、やがて目を輝かせる。その目をやめろ、嫌な予感がする。

    「でも、アンデルセン、決めつけられるのは好きじゃないよね? 遠慮なく嫌な事は嫌って言うし、嘘はあんまりつかないでしょ」
    「馬鹿め、考察で部分点を稼げるなんて思うなよ? お前が得られるのは零か百かどちらか一方だ」
    「そう? それじゃあ……」
     良からぬことを思いついた顔だ。絡みとられていた手指が解放されたと思えば、両手で肩を固定される。体験したことのない姿勢だ。例えばこれは映画、ドラマ、はたまた少女漫画にも似たシチュエーション。俺より少し背の高い彼女が、そのまま少し屈みながら俺に顔を近づけてくる。俺は反射的に目を閉じたせいで、彼女の姿も絆の数値も何も見えない。
     しかし、そのまま何が起きるでもなく。
    「………?」
     時間が停滞しているような長い空白期間に思わず再び目を開ける。すると目の前には、満足そうな女の顔。

    「わたしも、アンデルセンが好きだよ」
    「……俺はまだ何も言っていないぞ」
     そしてまた、無遠慮に抱きついて彼女はこう言うのだ。
    「心臓の音がよく聞こえるから、返事代わりに貰っておくよ」
     作り物の中だけでしか聞く機会のないような、甘い毒のような台詞が彼女の口から出るだなんて。よくそんな恥ずかしいことを堂々と言えるものだな。そう思いながら、彼女の背中に手を回す。
    「逃げられなくなっちゃったね」
     それは俺のことか? はたまた彼女自身のことか。
     あたりの喧騒はいつの間にかなくなった。そしてよく見ると、視界の端に現れていた絆のメーターはすでに見えなくなっている。やはり、一過性のものだったか。となれば、もうこいつを匿う必要もないのだろうが。

    「匿ってほしいのだろう? 身の安全など保証しないが、まぁ勝手にゆっくりしていけ」
     匿う必要がなくなったのをわざわざ指摘してやる必要はない。
    「それじゃあしばらく、お世話になります」
     少し照れた顔で、彼女がそう言った。

     ……一番であるならば、少しくらいは贔屓を受けても許されるだろうか。この表情を誰にも晒させずに匿うくらいのことならば。
     俺はそんなくだらないことを考えながら、彼女を長く引き止める都合の良い言い訳を考え始めるのだった。
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