悪戯に期待 昨日から今日にかけての支援課は大忙しだった。ハロウィンという賑やかなお祭りに際して足りない人手を埋めるかのように寄せられてくる支援要請。あちらこちらへと走り回っているような状況で、落ち着いたのは夕方になってやっとだった。そういった賑やかさは平和の証拠だろうと、ロイドは実感している。――一騒動の末に実現した、クロスベルの再独立。まだ半年程しか経っていないが人々の活気を取り戻すには事足りる時間だったのだろう。まだ不穏な話もいくつか出ているし、最近は共和国も勢力を伸ばしていて油断できるような状況ではないのだが。それでも、最後まで壁を足掻いて乗り越えると決めている。シズクと共に仮装して街中へ繰り出していったキーアも楽しそうであったしなどと思いながら今日の支援要請の内容を纏めていた。そしてふと思う。支援課が発足してからハロウィンは初めてではないか、と。とてもそういう事をしていられる情勢ではなかったし、何かと慌ただしかった。だから、だろうか。ハロウィンにこじつけたような恋人同士の触れ合いがあると今日聞いてからずっと期待してしまっている自分がいると、感じてしまうのは。
「ああああもう!何考えているんだ俺は!」
明日も早いし、さっさと寝てしまおう。後片付けまで終わっているとは言え何のトラブルがないとも言い切れないのだから。そうベッドに倒れこんだところで、ノックの音が聞こえる。
「ロイド、少しいいか?」
身体に緊張が走る。今考えている事がバレてしまったら一体どんな顔をされるだろう。そんな事を思いながら一呼吸置く。
「ああ、いいよ。入ってきたらどうだ?」
どうか、考えてる事がバレませんように。そんな事を思いながら彼を部屋へ迎え入れた。
「わりぃ、もう寝るとこだったか?」
「いいや、構わないよ」
少し遅いかとも思ったが、ランディは部屋に迎え入れられた時点で期待していた。今日はハロウィンというお祭りであったというのに、それらしかったのはキーアの仮装と街中の装飾。後は夕飯のカボチャパーティー位だろうか。カップルも大勢ハロウィンを楽しんでいたというのに自分達はと言われれば仕事に忙殺されるばかりだ。だから、というわけではないがこの一日の残り少ない時間をそれらしい事に当てられないかと部屋を訪ねたわけなのだが。どうも様子が変だ。何処かソワソワしているような。ランディがその事を指摘すれば驚いたような顔をしては、敵わないなと言って目を伏せた。
「恋人らしいハロウィンがしたいな、って」
「それはつまり期待してるって事でいいか?」
コクリと頷く愛らしさに今すぐ悪戯したい気持ちを抑えてお決まりの言葉を言う。
「Trick or Treat」
「その、元からイタズラされるつもりでいたんだけど」
恥ずかしがりながら、しかしどこか嬉しそうはにかみながら彼は言う。もうこれ以上我慢する必要はないかとロイドを夜の歓楽街へとランディは連れ出すのだった。
【終】