約束の輪は永劫に「二人とも、たまには遠出をしたらどうかしら?」
ある夜、エリィから出た突拍子もない一言にランディもロイドも唖然とした。纏まった休みを取るのが中々難しい職であるし、更に特殊な部署ともなれば難易度が上がる。二人のデートスポットが近場になってしまうのも必然であった。故にデートする時間がなかったともなれば、エリィやティオ達がその時間を作ってあげたいと思うのも当然の事だった。帝国の占領下にあっても燻らせた想いが成就したのもつい最近の話だ。お泊まり前提のデートがあってもいいと思うのだ。
「休暇は明日と明後日で既に申請済みですので、どうぞ心行くまでいちゃついてください」
なんともまぁ投げやりで彼らも呆気に取られたが、滅多にない機会だからと二人で出掛ける事になった。
「何処か行きたい所はあるか?」
翌日からの休暇に二人は悩む。元々計画していなかった休日であったし、遠出と言われてもピンと来ない。どうせだったらしっかりと行き先も決めてから休暇を取りたかったが、それでは埒があかないと思われたのは容易に想像がついた。
「うーん、そう言われても急だったしなぁ。ランディは?」
「……指輪、見に行かねえ?どうせならすんげぇイイやつ」
嵌める約束、しただろ?と指先をなぞられうるさい位に鼓動が鳴っている。時々見せる仕種がかっこよくて時々慣れない自分がまだいる。
「……行く」
心当たりはあるらしく、少し長距離の移動になると言われたがロイドはすぐに頷いた。そうして翌朝を迎える。
早朝のクロスベルから、列車で帝国へ。一度ケルディックで乗り換えた後に降りた先はバリアハートだった。宝石加工で有名な職人街もあり、装飾品を手掛ける職人も多いのだという話をランディから聞いたロイドは納得したように頷いた。二人の指輪、そう思うだけで緊張してくる。
「緊張してんな?」
「当たり前だろ?だってお揃いのものを嵌めるんだからお互いが似合うものじゃないとダメだろう?」
恥ずかしげに目をそらすとランディは一瞬面食らったあと、ロイドの頭を撫で回した。
「大丈夫だ、だから気軽にいこうぜ?」
ランディの言葉に頷くと、駅から真っ直ぐ職人街へと向かった。
指輪は案外あっさり決まった。飾り気のない、シンプルなストレートの指輪。サイズは近しいものを加工できるとの事だった為、夜まで待つ事になった。まだ昼過ぎで時間もある。どうしようかと相談した後、二人でケルディックの大市を見てみようという話になったのだ。――列車ではなく徒歩で。
「これだったら二人でも難なく突破出来そうだな」
街道の様子を見てそう言うと、ランディは少し考えた後にニヤリと笑う。
「ああ。なんなら久々にあれやるか?」
あれ、そう言われて思い出すのはアークスになってから使う機会のなかったコンビクラフト。確かに難なく突破出来るとはいえ、効率良く進みたいのは確かだ。何より久々のコンビクラフトだ、舞い上がらない筈もなく。
「ああ、やろう!」
「よっしゃ、そう来なくちゃな!」
そうして二人は得物を手に街道を突き進んでいったのである。要領はこうだ。まずどちらか一方が崩す。その後アークスの機能の一つであるラッシュを利用してコンビクラフトを叩き込む。感触はやってみないと分からないが、やってみる価値はあると思う。ロイドの提案にランディは乗っかった。
「行くぜ、ロイド!」
「いつでも来い!」
「「バーニングレイジ!!!!!」」
思った以上に上手く行きすぎて、手配魔獣とは知らずに二人で撃破してしまう程だった。駆け付けたとある遊撃士は後から語る。――凄く見せつけられた気がする、やれやれだね。
「うん、皆へのお土産はこんなもんかな」
流石大市なだけあって、様々な物がケルディックに集まっていた。キーア達の土産にもちょうどいいものが沢山あり、どれにしようか悩む程だった。――そのロイドの横顔を見てランディは楽しんでいた、とは口が裂けても言えないが。
「そうだな。これなら列車で戻った方が良さそうだな」
差し出された手に、こういうのもたまには悪くないなとロイドはその手を取る。そうして二人は列車に乗ってバリアハートへと戻るのだった。
「ランディ、俺今凄くドキドキしてる」
「ロイド?」
列車の中でポツリとそう溢したロイドに、ランディは首を傾げる。無論自分も彼の一挙一動が愛しくて理性との戦いになっている所だというのに、そんな事を言われては敵わない。
「今日みたいに丸一日を二人で過ごす事もそうないし、その……。この後指輪も受けとるだろう?本当にランディだけのものになったんだなって実感したら止まらないんだ」
恥じらうように言うものだから、ランディの我慢もそろそろ限界だった。だがグッと堪えて唇へのキスへ留めると、耳元で囁いた。
「後で覚悟してろ」
ロイドは真っ赤になりながらもその言葉に頷いてはにかんだ。
指輪を受け取って、宿酒場で一部屋取ることが出来て落ち着いた頃。二人は指輪を交換した。互いの左手の薬指に嵌まると、互いに安堵したような息をついて口付けを交わした。夢みたいだとランディが思っていると、ロイドは恥ずかしそうにしながらも言う。
「確かめてみるか?」
その熱をもって現実か否か、それは以前にも言われた事のある言葉で。考えている事もお見通しだろう、将又同じ事を思っているのか。覚悟しろと言った手前ランディは引くつもりもないし、それはロイドも同じだった。ベッドへ押し倒された彼に再び口付けると、それを合図に二人はそのまま溺れていった。
「あ、ロイド!ランディも!おっかえりー!」
二人がお昼過ぎに支援課へ戻ると、留守番していたキーアが出迎えた。いつものタックルを受け止めると、昨夜の腰の痛みがロイドを襲う。それでも平静を装って、彼女の頭を撫でた。
「おお、良いタックルだなキー坊」
「っと……。ただいま、キーア。二人は?」
「支援要請に行ったよ!お昼ゴハンまだだし、もうすぐで戻ってくるんじゃないかなぁ?」
端末で支援要請を確認する。どうやら市内で周っているらしい。場所と数を考えても彼女の言う通りそろそろ戻ってくる時間だろう。
「なら、昼飯の準備して待ってるか」
「ああ、そうだな。ランディ、手伝ってくれるか?」
そう言ってキッチンへ姿を消す二人を見て、キーアは小さく笑う。帰ってきてから彼らの距離がより近くなったような気がするのだ。その話をエリィとティオにしてジト目で見られるのがこの数分後である事はロイドとランディは勿論の事、キーアに残された僅かな力をもってしても予想し得ないのであった。
【終】