無人島へのお誘い「無人島で年越し?」
リゼルは手元の資料に目を落としながら、小さく口ずさむ。
「なになに? 新しい企画書?」
ソファに座るリゼルの太ももを枕に寝転がっていたイレヴンが顔を上げた。春から夏にかけて行った全国縦断ドームツアーを無事走り抜けたQ'ka一行は久々の休みを満喫していた。
「年末番組の一企画のようです」
「んなもん、なんで俺たちに?」
歌手であるリゼルたちにとって年末といえばカウントダウンライブか紅白と相場が決まっている。例年通りであればそろそろ年末のオファーが届く時期だ。
「生放送ではなくて録画みたいですね。寒さの厳しくなる前、10月初旬にロケしたいそうです」
「アイドルが無人島で何やるんスか」
「一晩だけ野宿をして、自分たちで採った食材を調理するそうです。持ち込み可能なものは着替えと調味料、飲料水」
「ニィサンはともかくリーダーに野宿とか何考えてんの、殺す」
「殺すならバレないようにやれよ」
殺気立っているイレヴンをいなしながらジルがリゼルの手元を覗き込む。
「無人島には何がいるんだ?」
「島の中央は森のようです。鹿くらいはいるかもしれませんね」
「鹿か……。熊はいないのか?」
「熊がいる島に行くのはイヤっすよ」
イレヴンが眉を顰める。
「ジルと熊ならどちらが強いんでしょうか」
「ステゴロはキツいな」
「ステ?」
「獲物なし、素手で戦うってことね」
首を傾げたリゼルにイレヴンが説明する。
「ああ。もちろん武器はありです。体格差がありすぎますから」
「それなら勝ち目はあるな。ま、あの身体に刺さる刃物用意するとこからだが」
「銃じゃなくて刃物ってとこがニィサンぽいよね」
「銃は撃ったことねぇし、そもそも時速60キロで走るやつに当てれる気がしねぇからな」
大型の熊なら3メートルを超える体躯の個体もいる。そんな巨体が時速60キロで走ってくるのだ。並の人間なら掠っただけで手足が千切れるだろう。
「ジル対熊の対決、楽しみですねぇ」
「番組の主旨が変わってきてるじゃん。年末ならニィサンを格闘技番組に出した方が視聴率取れそう」
「その番組で相手を斬りまくるのですね」
「なにそのスプラッタ。お茶の間が別の意味で騒然としちゃう」
「人間相手なら素手で十分だ」
「俺たちアイドルだからね。年末は歌、歌おう?」
「ジル対熊のカードがあまりに魅力的すぎて我を忘れてしまいました。そうですね、大いに歌いましょう」
「それならこれはいらないね」
そう言ってイレヴンはリゼルの手から企画書をとりあげるとポイっと放り投げた。