みじめなあなた。誰よりも勝利にこだわる勝己にとって『死』は最も忌避すべき、愚かで惨めな敗北であった。
そう、彼にとっては勝つことこそ、疑いようのない至上の命題。
だから勝己は死なない。
勝ち続ける限り、敵を前にして地に伏す運命など、やってはこないのだ。
でもお前は違う。
「テメェは、聖人君子にでもなるつもりか」
ぼんやりとこちらを見つめる出久の柔らかな頬に添えられた勝己の手が、小さく震えている。
その口元から、縋るような祈りの言葉が転がり落ちる。
「――どこにもいくな、いずく」
おまえがいなくなったら、おれは、
そう呟き己を抱き寄せる青年の姿を、出久はどこか遠い世界の出来事のように眺めていた。
いつも横暴なまでに勝ち気な彼の弱りきった姿に、心を痛めるべきだったのかもしれない。しかしながら、出久には最早それだけの機敏を感じ取れる心が存在していなかった。
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