こほ、と馬上でトキがひとつ咳をする。
ラオウによって秘孔を突かれ、その身を蝕んでいた病は治った。この咳は、かつてのように内からこみ上げ血が混じるものではなく、喉に引っかかった何かを押し出すような空咳だ。ん、と喉を鳴らしたトキは自らの喉をさする。荒れ果てた世紀末の世界。砂埃で喉を痛めたか、とトキは小さくため息をつく。
「トキ」
不意に背後から呼ばれた名前。トキは声の主を確認するように振り返る。
同じく馬上で手綱を握っている、ラオウの部下。天狼星のリュウガが、じっとトキを睨むように見つめていた。
「調子が悪いのか?」
リュウガの問いに、トキは思わず苦笑いを浮かべる。
今は聖帝サウザー率いる南斗の軍と交戦中。主力であるトキの体調が悪いとあったら、護衛を任されているリュウガもラオウに顔向けが出来ないのだろう。大局だけで無く、病み上がりのトキの身体も気を遣わなければいけないリュウガに、トキはつい笑みを溢してしまった。
1113