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    ろどな

    左右相手非固定の国

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    9/2 ばじふゆ
    (中3夏くらいが理想)生存ifの謎時空
    夏休みの宿題はちゃんとやる千冬と、学校始まらないと開きすらしない場地さんの話

    #ばじふゆ
    bajifuyu
    ##rd_9月ひとり創作フェスタ

    宿題と麦茶 カラン、と氷が溶けた音が部屋に響いた。それと同時に、呻くような苦悩の声も。
    「場地さん、どこわかんねンすか」
    「……ここ」
     オレにとっては目的も理由も、なんでも良かった。場地さんの部屋に来て、こうして隣にいられるだけで。ノートを覗き込むために触れ合った体は少しだけ、ほんの少ししっとり、してた。もう夏も過ぎて終わりかけだっていうのに、残暑だなんだと残る暑さに、お互い体温を上げてる。そりゃ、氷だって溶けるわけだ。
     場地さんが困ってる問題の、解き方を教える。答えを教えるのは駄目だって、オレも思うし場地さんも言ったから、ちゃんと考えてもらう。まずはヒント、それからもう一歩踏み込んだ解法。それでも無理そうならちゃんとギブの声を聞いてから答えを教えて、逆から解かせる。
     場地さんは喧嘩はもちろん、勉強だって負けず嫌いで、でも喧嘩と違ってわからねえもんはどうしようもねえんだって理解してるから、考えて考えて、それでも無理なら負けを認める。勝ち負けで命取られる世界じゃねえし、なによりオフクロさんへの感情を優先してくれる。いつまでも唸ってばっかじゃ、なんにも進まねえし。
    「千冬ぅ、これ、合ってっか?」
    「次の問題はできてたンすか? どれどれ……」
     もちろん、場地さんは決してただの馬鹿じゃねえ。ちょっとばかし喧嘩しすぎて記憶力が足りねえとか、興味ねえことはとことん興味ねえとか、ちょっと勉強向きじゃねえだけで。
     やらなきゃなんねえときはちゃんとやって、ちゃんとできる。だからオレは、式から答えまで満点の内容が書いてある次の問いを見て、「やっぱ場地さんはできる男っすね!」と褒めた。過剰じゃねえし、フィルターかかってるわけでもねえ。心からの称賛だ。
    「まぁな」
    「疲れたでしょ。麦茶も氷溶けてるし、一回休憩入れますか」
     夏休みも終わって、始業式に提出予定だった宿題を二学期に入ってから手を付けてるわけだから、ホントは休憩してる時間なんてない。だけど残暑で暑くて、そのうえ知恵熱でゆだっちゃいそうな場地さんのクールダウンは必要だ。決して、甘やかしてるわけじゃねえからな。
    「休憩、休憩かぁ……」
    「……? いらないです? もう少し進めますか……ッ」
     その呟きの意図を汲み取る前に、オレは床と仲良く、なってた。肩を押さえつける力は強くて、熱くて、まるで抵抗できない。いや、場地さんじゃなかったらできてた、場地さんだから、そんな発想が出ないだけで。
    「ばじさ、……っ」
     汗かいて湿ったオレの首に顔を埋めて、熱いものが滑る。やばい、待って、声を出そうにもうまくできないのは、場地さんがそれを止めないから。決して気持ちいいから、だけじゃなくて。
    「汗、やだっ……、ちょっと……!」
    「イヤじゃねぇだろ? 休憩させろよ」
     きっと今、すっげえ意地悪い顔で笑ってる。オレは場地さんのことなら結構、なんだってわかるから、声のトーンと表情を一致させることができる。特技だ。こんなときじゃなきゃなんの役にも立たねえけど。こんなときだってなんの役にも立たねえけど。ただ、オレが勝手に恥ずかしくなるだけで。
    「ンっ、ばじさ、」
    「……キスしてえな、千冬」
     いつもは気怠そうに名前呼んでくるくせに、低くていい声で、しかも耳元でオレの名前をはっきりと呼ぶのは、ズルい。ヒキョウだ。そうじゃなくたって断る理由を持たないのに。
    「オレ、も、したい、です」
     放り投げられてた手を取られて、まるで逃さねえとでも言うように床に縫い付けられて、それから唇が重なった。触れ合うだけの、漫画の中で見るようなキスじゃなくて、噛みつくような獣のそれ。口の中を舌で荒らされて、互いのツバを混ぜ合うようなキス。オレはそんなの知らなかった。場地さんが、教えてくれた。
     ぐちゃぐちゃになりながら、遠くで氷の溶ける音を聞いた。カラン、ガラスのコップにぶつかって、麦茶の海を泳ぐ氷の音を。だけどそんなの、場地さんは気にも止めない。オレの舌を吸って、噛んで、まるで味わうようにぐちゃぐちゃに、する。
    「ぁ……、」
    「エロい顔」
     オレを押さえつけてまたがったまま、場地さんは笑う。オレはそれが、イヤじゃなかった。きっと惚れた弱みだ。
    「さーて続きやるか。さすがにこのペースじゃ終わんねぇからな」
     ただ、人を引っ掻き回しておいて一人だけなんでもないふうな顔をするのだけは少しだけ気に食わなくて、オレはそっぽ向いた。
    「わかってるなら、こんなことしないでくださいよ……」
     ふてくされただけ。ぐちゃぐちゃにされたオレは、残暑の暑さなんか目じゃないくらい体が火照ってるっていうのに。
    「勉強見てくれる千冬へのゴホービじゃねぇか。次の休憩も楽しみにしとけよ」
     お互い汗ばんだ、絡み合ってた指は解かれて元の学生の本分に戻るべく体を起こす。それからテーブルの上に置かれた麦茶を口に流し込んで、飲む。薄い、氷の溶けた麦茶を。
    「……じゃ、場地さんがソレ、頑張れたら……オレからもゴホービ、あげますんで……」
     そんなことでこの人のやる気を持ち上げられる自信は正直、ない。付き合ってるからってそういうのはあんまりなさそうじゃん。でも、なんとなく言いたくなったから。
     すると場地さんは、あからさまに嬉しそうな顔をして笑った。なにに、なんて聞く必要がないほどのタイミングだ。
    「そりゃ楽しみだな」
     そう言って細めた目は最中の目を彷彿とさせるそれで、熱くなった体は簡単にもっと熱を上げる。
     だから、早くそれを解いてくれよ。麦茶の氷が全部溶けきる前に。オレの熱が、冷めちまう前に。
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