stay with me(タクシーの中で) ずっと側にいて。どこにも行かないで。でもあなたは私の前から消えてしまう。
そんな歌詞を哀愁漂うメロディにのせて歌うゴージャスな巻き髪の歌手を横目に、狡噛はスパイシーな飴色の酒を飲んでいた。ここは出島にあるジャズバーだ。オーナーが百年以上前のレコードを持っているという噂の、ある種のコミュニティの中では有名な店。俺たちは今日、ここに仕事を終えてやって来ていた。仕事が忙しく疲れてしまったら、こういう店に来るに限る。周りもそんな男と女であふれている。
俺は上手にステアするバーテンダーを眺めながら、チャイナブルーを飲む。というのも、今日挙げたのがチャイニーズマフィアだったからでもあるのだが(我ながら単純だ)、あまり度数の高いものを飲んで、前後不覚になりたくなかったのもある。明日も仕事だし、いっそ言ってしまうなら、明日の方が仕事量が多い。デスクワークだが。
1192