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    まかろ

    卓絵、SSを投げるとこ
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    まかろ

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    奪取脱出ストラグル現行未通過✖
    日和さんに見えてなかったあのシーンで百古里が何をしていたのか 3/21

    #ひよすが
    days
    #まかろのSS
    ssOfMaroro

    奪取脱出ストラグルアフター 百古里が繕ったクマのぬいぐるみはリビングにいるが、これに入っていた時の記憶は酷いものだった。何度か「捨てませんか……?」と持ちかけてもそのたび「かわいいじゃない!!」ときらきらの笑顔で言う日和に逆らえず、そのままにしてある。
     ぬいぐるみの目から見た、日和の手を引いて走る勝ち誇ったような真島の笑い方は、確かにとても気持ち悪かった。ボクが笑うと気持ち悪いというのはそういうことかと、十五年越しぐらいに腑に落ちた。
     あの空間ではとにかく日和を無事に還すことしか考えていなかった。日和の無事のためであればどんなことでもしたかった。ぬいぐるみの体で出来ることは限られていたし、最後まで気づいて貰えないかもしれなかったけれど、百古里はそれでよかった。
     あまりにも日和が大切なのだ。
     きっと偶然出逢ったのが百古里ではなかったとしても、日和は躊躇わず拾ったし大事にしただろう。それでも、運命なんかではなくても、ただの偶然だから他の誰かに代わりが務まろうと、確かに日和が与えてくれた幸せな日々は百古里が初めて人間らしく生き始めた人生として根付いている。千載一遇の幸せを、百古里はなけなしの運を全て使って掴み取った。どれほど彼女に感謝しているか、どれほど彼女に生かされているのか、すべてを言葉にすることは一生できないのだと思う。
     恩が大きすぎて百古里にできる恩返しなんて何をやっても足りないけれど、日和のために全てを捧げる覚悟だけはとっくに決まっていた。
     きっとこのままでは真島は、百古里の体を使って日和によくないことをする。日和は百古里が異性としての関心を向けないから傍に置いてくれるのに、真島の望む触れ方をしたら心身ともに日和を深く傷つける。よりにもよって百古里の顔で、百古里の手でそれをやられるなんて日和にとって最悪としかいいようがないだろう。

     刺してでも止める、方向性はそう決めた。他人を刺すのに抵抗を感じないわけではなかったが、彼はもう死んでいるからと無理矢理納得する。それに、大嫌いな自分の見た目なのだから躊躇わずにやれるだろう。
     代わりの優秀な助手なんかいくらでもいる、自分は帰らなくても日和はなんとかなる。ただ日和に明日も笑って生きていて欲しい。誰にも縛られないいつもの日和として、幸せな日々の続きを送って欲しい。そのためにならたとえ本物の自分の身体を切り刻むことになってもいいし、百古里がここから帰れずに悪意たっぷりの真島と永久にふたりきりになっても構わないと思っていた。

     しかし、身長も筋力も敏捷性も備えた身体は思ったよりも使い勝手がいいらしく、中身が本当の持ち主でない時の方がポテンシャルを発揮していた。どんなに立ち向かっても軽くあしらわれ、絶望の中で非力なぬいぐるみとしてさまよった時間は永遠のように思えた。
     いつもそうだ。どれだけ日和のためになりたくても、蹴りは当たらないし相手の攻撃はこちらに当たる。気持ちだけは日和のために何でもしたいのに、実力が伴わない。無様な男だ。
     どうにかキスを阻止したけれど、そのあと腹いせにかなり蹴られた。しかし真島のその剣幕にと言うよりは、日和が真島に向けていた恐怖の滲んだ目と嫌そうな声が胸に刺さって暫く動けなかった。
     違うのだ、あれは真島に向けてではない。百古里に向けられていた恐怖と嫌悪だ。
     とうとう傷つけてしまった。
     あんな気持ち悪い笑い方をしながら気持ち悪い欲求を日和にぶつける男だと思われてしまった。何よりも大切に積み上げてきた信頼はあっけなくなくなった。
     すぐに動き出して彼女を真島から遠ざけなければならないのに、『化け物』としか思われていない自分が動いたところでもうどうしようもないのではないかと思うと身体が上手く動かない。
     どうせ見た目は汚いぬいぐるみだ。散々蹴り飛ばされて片目も取れている。その姿で歩み寄ってきたのならさぞかし不気味だろう。そもそも日和は百古里が偽物だとわかれば、適切に逃げてくれるに違いない。百古里のやるべきことは終わった。あとは遠くから無事を祈ることぐらいしか、日和のために出来ることはない。

     そう思っていたのに、しばらくしてモニタールームに日和が戻ってきた。無事な姿を見て安心したし、早く逃げて欲しい。けれどどんな言葉も口にする資格がない気がして押し黙る。彼女が百古里のことをどう認識しているかはわからなかったが、感覚を伝えてこない身体でも撫でられたのは嬉しかった。それだけで報われた気がしたし、ぬいぐるみの身体でなかったら泣くほど嬉しかった。
     日和はいつでも日和だ。どうか無事に帰って欲しい。日和にせっかくもらった指輪を身体ごと真島にとられたのは悔しいけれど、日和が脱出するのが最優先だ。
     やがて日和がモニタールームで真島に呼び出しを受け、安全な部屋に自分を置いていくのを胃がちぎれる思いで見ていた。もう時間が無いのか、喋ろうとしても声が出ない。
    ーーひとりで行かないで、あの人の狙いはボクですよ。ボクを放り投げておけば気を反らせます。その間に逃げればいいのに、なんで、なんで。

     永遠にも感じた沈黙の後、部屋に戻った日和は百古里を抱き上げると汚れたそのぬいぐるみの口のあたりに躊躇うことなくキスをした。
     驚いている暇もなかった。次の瞬間には猛烈な苦味を感じ、身体が恐ろしいほど重たくなった。視界の端にスーツを着た腕が見える。その傍に粉々になった写真の残骸らしきものと何らかの薬剤の瓶を見つけ、徐々に自分の体が元に戻ったのだと理解はしたが、どうにも身体は重たく痺れている。
     何か飲まされたらしい、多分転がっているそれだ。……日和がやったのだろう、さすがだ。日和はいつでも躊躇いなく正しいことをする。
     偽物に飲ませたこれは毒薬なのか神経に効く薬品なのかわからないが、うまく不意をついて飲ませて逃げてきたのだろう。百古里の顔をした偽物に怯む日和は想像できなかったけれど、見た目に惑わされる可能性はゼロではなかっただろうから安堵する。
     日和はいつも百古里を大事にしてくれる。いくら卑屈な百古里でも、そのことだけは疑っていない。日和はほんの少しの擦り傷すら手当してくれようとするし、いつも危ない目に遭わないよう気遣ってくれる人だ。報いなければ。ぬいぐるみよりは役に立つ体に戻れたのだ、きっとまだなにか日和のために出来ることは残っている。

     この身体を追い出された真島がどこかにいるはずだ。起き上がらなきゃな、そう思った瞬間ドアが開け放たれる。巻き起こった風に乗って届いた腐臭でまずいと思い、動かない身体を無理に捻ったところで容赦のない一撃が腹部に当たった。
     吐くかと思った。物理的刺激のせいでもあるが、向けられた悪意の濃度のせいだ。化物の一撃は確実に心臓を狙っていた。そうまでして要らないと思われて悪意を向けられるのは流石に初めてだ。
     けれど決して声を上げてはならない。何があっても静かに耐えなければならない。もしも日和に聞こえてしまったら日和はきっと飛び込んでくる。百古里に出来ることは、この化け物を足止めして日和に被害が行かないようにすることだろう。
    「ッ、……日和さんは、誰のものにも、なりませんよ」
     独り言のように吐き捨てて挑発する。
    「なんにも、分かってないですね。日和さんのこと」
     聞く耳を持たない化物の腕が振り上げられる。立ち上がろうとすると先程の傷が傷んで叫びそうになるがなんとか堪える。しかし耐えたのに、黙っていたのに、日和が軽やかに飛び込んでくるのが見えてしまう。嘘でしょう。何で。……そうかここは出口の部屋だ、ぬかった。
     化物のもう一撃を避けることは出来なかったが、日和が飛び込んできて化け物に殴り掛かるのを見て使命を思い出す。この人が飛び込んで行った先でサポートするのが百古里の生きる意味なのだ。軽やかな日和の後から追いついて手助けすることが百古里に与えられた役目なのだ。痛いとか立てないとか言っている場合ではない。
     日和の蹴りのおかげで化物の注意が一瞬逸れ、百古里は気合いでなんとか立ち上がることに成功する。次いで振り下ろされた化物の殺意の籠った一撃は、日和が登場したせいか少し動揺しているように見えた。なんとか避け、渾身の力で蹴り飛ばす。
     そうして日和と二人で化け物と戦い、やがて死体は死体に戻ったように動かなくなる。
     気が抜けてへたりこみそうになり、壁に手を着いたときに何も聞こえないことに気がついた。ああ、こんなところで『アレ』だ。何とかしなくちゃ。日和に早く出て行って欲しいと伝えなければ。焦れば焦るほど何も聞こえない。混乱していると、指輪だらけの左手にふと暖かな感触を捉える。
    『か、え、ろ』
     日和はこんな時まで笑顔だった。ろくに何も出来なかった百古里を責めもせず、いつもの晴れやかな笑みで当たり前のように一緒にいてくれようとする。
     一緒に帰ろうと言ってくれたあの日の日和は、そこから何も変わることなく二年も一緒にいてくれた。こんなことになったというのに、日和はいつもの日和だ。
     許されるならまだ縋りついていたくて、頷いてしまう。薄汚い欲求を満たそうとするのに使われた身体で日和のそばにいるべきではないという気持ちには、一旦蓋をする。

     病院で目を覚まし、現実の世界で日和の姿をみとめた百古里は思わず彼女の手を握りしめていた。柔らかい手はちゃんと暖かい。生きている。ちゃんと今日も明日も、日和は幸せな毎日を送れる。よかった。泣きそうになる。
     日和は困ったように笑う。明るく振舞おうとしているけれど、きっと、百古里が何も考えずに手を握ったことで困惑しているのだろう。慌てて手を離す。
     中身は真島だったとしても、抱き寄せて無理矢理キスをしようとしたのは百古里の見た目だった。それをなんとも思わないなんて無理に違いないのだ。人を怖がらせることしか出来ない大きな身体で無理やり迫って、一方的な感情を押し付ける自分の姿は百古里にとってもどうしようもなく不快だった。けれど、どう考えたって狙われた女の子である日和の方が不快だったに決まっている。
     それなのに日和は、ともすれば振り払ってもいいような百古里の手を拒まなかったし、いつものように頭を撫でてくれた。帰らない気でいた百古里に、帰る場所を作ってくれた。この人だけは、傍で生きていることを許してくれる。おかえり、と迎えてくれる。ただいま、と帰ってきてくれる。百古里をひとりにしない。
     一緒に帰ろうと言ってくれる日和の気持ちはいつだってほんものだ。まだ一緒にいていいのなら、こんなに幸せなことは無い。
    「すーがーりー!!! 出かけるわよ!」
    「はっ、はいぃ…… あのう、どちらへ?」
    「事件は歩いてこないから私たちが迎えに行くの」
    「ええと、つまり…… 未定ということですね、わかりました」
    「行くわよー!」
    「ええ、日和さん」
     思いつきで出かけていくふたりをぬいぐるみが見送る。千浦探偵事務所は今日もいつも通りだ。

    ーーーーーーー


    卑屈にんげん百古里……
    ほぼずっと真島が出ずっぱりのシナリオだったので裏で百古里がどんな気持ちだったか文章にしてあったやつを出てきた。

    PLは百古里に日和VS真島のあのシーンを見せてあげたいです……
    めちゃくちゃ想われてるぞ百古里。お前が思うよりずっと大事にされてるぞ。
    でも見せたら百古里嬉しくて死んじゃうかもしれないからやっぱり内緒にしとこうか。
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