そのあとのこと 宅急便の人を装って近づいてきた犯人に、マヤはトドメを刺しそうな勢いだったがなんとか警察の登場まで耐えてくれた。事情聴取などをされていれば高校生が出歩くには遅すぎる時間になっており、折角の『おうちデート』は解散を目前にしている。
パパは日付を越えるころに帰るだろう。すみれがひとりで寝たがるようになってからずっとそうだ。きっと『よくないこと』をしている自覚はあって、修学旅行で死者が出るような大事件に巻き込まれた娘の心境について思うところもあったのかもしれない。
「それじゃあ、マヤくん。今日は本当にありがとう!」
「ボクのほうこそ! ねえすみれちゃん、パパは何時に帰るの?」
「もうすぐじゃないかなぁ」
「じゃあ帰るまでここにいるね」
「ううん! いいの、マヤくんかわいいからこんな夜中に一人で歩いたらダメだよぉ」
「すみれちゃんを一人にするのはもっとダメ! それにボクにはこれがあるし」
これ、とスカートの太もものあたりを軽く叩いて見せるマヤ。ルーズソックスの秘密は、休日にはこっちに移動するらしい。
「じゃあ、……いっしょに、いて?」
「もちろん!」
犯人ともみ合って荒れた玄関をふたりで掃除した。それから広いソファに並んで座って、お菓子を食べながらクラスの友達が推していたドラマを見る。
ひとりぼっちの部屋の広さが気にならなかった。マヤの隣はいつも居心地がよくて、なんだかほわほわする。きっとこれが『だいすき』で、皆に向ける『だいすき』とはちょっぴり違う特別な気持ちなのだ。
「マヤくん」
「なあに? すみれちゃん」
「つぎのデート、水族館がいいなぁ」
主人公たちが大きなシャチのいる水族館で楽しそうにしているのを見て、思わずそう言っていた。マヤは頬を緩めて、それから屈託なく笑う。
「どこでも一緒に行くよ!」
「ほんと? じゃあ、ちょっと遠くまで行こう」
「このドラマのロケ地って名古屋港水族館でしょ。行ってみようよ」
「うん! 楽しみ」
思っていたのとはちがうおうちデートにはなったが、今日も一緒にいられて楽しかった。
ふたりには次の予定がある。その次ももっと先もある。そのことがなんだか嬉しくて擽ったくて、言葉にできない代わりにすみれはマヤにぎゅっと抱きつくのだった。
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帰ってきたパパ「すみれにオトコ…… いや、女の子? えっ? やっぱオトコ??? どっち?????」と思って固まり、マヤくんはちょっと冷めた目をしていそう。
パパは別れた嫁さんに良く似た娘を抱けなくなったので、どうしようもないまま夜のお店に通っています。
修学旅行から帰って憑き物の落ちたすみれがベッドでぜんぜん乗り気じゃないのを理解したパパ、ずっと「この子も喜んでるし……」って蓋をしてた罪悪感が今更出てきて押しつぶされそうになっている。どこで間違えたんだ俺は。
すみれは高校卒業と共に家を出ます。