アッスマのSS久々のオフの日ということなので、お互いの時間を共に過ごすことにした。
たわいのない話をしつつ、ゆったりとした時間が流れゆく。そしてふと気がつくと時計の針は2つとも天を指し示すところだった。
スマイルは椅子に座って脚をブラブラさせながら、おもむろに
「…ボク、お昼ご飯はお子様ランチがいいなー」
といつものおどけた口調でぼやいた。
「……はぁ、いきなりどうしたんっスか?」
「いやぁ、たまには童心に帰りたいっていうじゃん?そんな感じだヨ…ヒヒッ。」
…全く、この人の突拍子のない発言にはいつも呆れるような、驚かされるような。一体この人は何を考えているのか。離れがたい存在になった今でも理解し難い。
呆れてモノも言えないオレを尻目に、スマイルは相変わらず口元に弧を描きながら
「えっとネ、メニューはチキンライスでしょ…ハンバーグでしょ…エビフライも…」
なんて、本当に子供が好きそうなメニューを頼んでくる。どことなく声質も嬉々としているみたいだった。
「いや……オレ、まだOKだなんて言ってな……」
制止しようとしたオレの言葉を遮るように、期待を込めた眼差しで顔を近づけ、
「あ、おもちゃも付けてくれたら嬉しいナ!もちろんギャンブラーZのだヨ!わかってるよね?ヒッヒッヒッ…」
紅く輝く集眼が、前髪の裏に隠れた自分の瞳を刺すように見つめてくる。
言いたいことも全て消え去ってしまうような、そんな瞳に圧倒され
「…仕方がないっスね。スマイルが食べたいっていうのなら、作ってくるっス!
あ、でもおもちゃは付けれるかどうかわかんないっス。そこは許して欲しいっス。」
「えー!おもちゃないの!?…まぁ、お願い聞いてくれたからいっか。ヒヒッ。」
少しふくれっ面で文句をいうスマイルだったが、直ぐにいつもの表情に戻った。
…ただ、目はいつもより細めて心から嬉しそうに笑っている様子だった。
オレは少し照れくさくなって、そそくさとその場を後にしてキッチンへと向かった。
食事というものは、生きている中で1番楽しい時間のひとつだと自分は考えている。料理を作る側からすると、自分の手で作った、とっておきのものを美味しく食べてくれて、喜んでくれる表情を見ることが至福のひとときだと感じるのだ。
…愛しい相手なら尚更の事。普段はあの笑顔が揺らぐことは無い。しかし何度も何度も、同じ時間を重ねていくうちに色んな表情を見ることができるようになった。それが堪らなく嬉しい。
今日だって、心の底から幸せそうな笑顔を見ることが出来て自分の胸が熱くなる。これはとびっきりのものを用意しないと。ヘタをすると口元が緩んでしまいそうになる顔を我慢しつつ、食材や調理器具の準備を進めた。
「…相変わらず、手さばきがプロだよネ、ヒッヒッヒッ…」
「当たり前じゃないっスか、慣れたもんっすよ。…とりあえず、さっき言ってたメニューでいいっスか?」
「うん、いいヨ!楽しみにしてるネ。ヒヒッ。」
カウンターキッチンの傍にあるテーブルで、頬杖をつきながらじっと見つめてくるスマイルは本当に子供みたいで、永い時を生きているはずなのに、こういう時に見せる表情は生き生きしてて、とても可愛らしい。
でも、気を逸らすと手元が狂って怪我をするかもしれないから、その顔をじっくり見ることが出来ないのが、少しもどかしい。
なんとか気持ちを抑えつつ、食材に手をかける。手際よく食材を切り分け、下ごしらえをする。フライパンに火をかけ、油の温度も調節をして最適のタイミングで仕上げなければ。
グッと気持ちが篭る。心を込めて作ると更に美味しいものになると自負しているから。それだけは絶対に譲れない。
……今だ。タイミングを見計らって一気に仕上げに入る。俊敏で無駄のない動きで、次々と料理が出来上がっていった。
お子様ランチというものだから、ランチプレートを用意すべきか悩んだが、流石に用意していないし、そもそも大の大人がそういったものを使うのは些かどうかと思ったので、シンプルな白い皿に料理を盛り付けていくことにした。
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「スマイル。」
名前を呼ばれてパッと顔を上げると、見慣れた緑の前髪が見えた。
「お子様ランチ、出来上がったっスよ!
…こんな感じでよかったっスかね?」
アッシュがテーブルにお皿を置く。
ボクはじっとその中身を覗いた。
型で半円形に整えたチキンライスは白にとても映える朱色で、野菜で彩りも抜群だし、ハンバーグは普段より小さめだけども、切ると肉汁がじゅわっと溢れ出そうな柔らかさだった。
真ん中にはこれでもかとばかり大きなエビフライ。赤い尻尾がぴょんと跳ねててとても美味しそう。
おまけにチキンライスのてっぺんに刺さっている旗。
普通のお子様ランチなら国旗だけど、ギャンブラーZのマークが描かれた旗がはためいている。
本格的なお子様ランチだけど、とても美味しそう。いや、絶対美味しいに決まってる。だってアッシュが作ったものだから。心を込めて作るアッシュの手料理は他のどの料理よりも格別に美味しい。
ボクは唾を飲み込んで
「ヒヒッ…凄いネ。流石プロだネェ…」
と笑った。
アッシュはとても嬉しそうに頭をかきながら
「いやぁ、それほどでもないっス。ささ、冷めないうちに食べるっス!」
と自分の分も用意して、テーブルに座った。
「いただきます!」
同時に食べる前の挨拶をした後、口いっぱいにランチを頬張る。
暖かさが身体全体に広がる感じがした。小さいけれども心がこもった美味しい料理。
「うん、美味しいヨ!ヒッヒッヒッ…」
思わず顔が綻ぶ。
アッシュもボクの顔を見てにっこりと笑う。その笑顔が何よりも大好きだ。
誰よりも優しくて、暖かい。ボクがぼやいたワガママだって、呆れながらもちゃんと応えてくれる。そんな優しいアッシュが。
そして食べ終えた後。お皿や、使った調理器具の片付けをしているアッシュに向かって、
「……ありがとうネ。アッシュ。」
ボクは小さな声で呟いた。聞こえないように言ったはずだけど、耳のいいアッシュは手を止めて振り向いた。
「…今、なんて言ったっスか。」
「あ、えっと、あ、ありがとう…って、普段、言えないからサ…ヒヒッ…」
恥ずかしくて目線を泳がせてると、アッシュはボクを優しく、けれども力強く抱きしめた。
自分より大きな身体はとても暖かくて、全身でボクのことが大好きだということが伝わってくる。ボクはそれに応えるように、アッシュの身体に腕を回して、抱きしめる。
あまりにも幸せで涙が溢れ出そうになった。