「俺と行く?」
聡実の家のオモチャみたいなテレビには青い空と海、白い砂浜の映像が流れている。
はいさ〜い!私は今、沖縄県は石垣島に来ています!見てください、綺麗な海〜!
行ってみたい、と聡実が呟いた。
壁の薄い四畳半で、音量を絞ったテレビの音声と冷蔵庫の唸る中に、その呟きはやけに大きく狂児の耳をうった。
どうせ断られると思った。なんでやねん、とか。ヤクザとなんかお断りや、とか何とか。聡実が一人暮らしを初めてちょうど二年経つが、狂児は未だこの部屋で朝を迎えたことはない。必ずホテルを予約したし、夜は狭い玄関でさよならした。頻繁におしかけるくせに。泊まらして、と言えば聡実は断らないだろう。でもな〜、なんかお泊まりって勇気いるやん?こう、一線越える感じ……。見知らぬ土地なら尚更。だから泊まりがけの旅行なんて、断られると思った。
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