好き。「恵は…僕のこと、好き?」
この人にまったく合わない言葉だとわかっているが、今俺に向けているこの表情を見ると、『あどけない』という言葉が思い浮かんだ。無邪気で、かわいい。出会ってからもう10年以上ゆうに経っているが、この人の顔と中身はあまり変わっていない。
好き…
子供の頃はよくいじわるをされていたし、うるさいだのひどいだのと思っていた。でもまあ、一応恩人でなんだかんだ面倒見もいいし、本当に悪いことなんか俺と津美紀には一度もしたことないから、この人のことがきらいだとか俺は思ったことはない。ぶん殴りたいと本気で思ったことはたくさんあるが。
好き…
そしてつい最近自分が気づいたのは、俺がこの人だけに抱いている特別な感情の意味。
なのにもう、この人に見透かされているようで…くそ。昔からこの人に隠し事をするのが難しかった。何なんだ六眼って、心の中まで見れてるのかよ。『これ』だけは絶対言わないと決めたのに。
「めぇぐみぃ」顔を少し近づけて、名前をやさしく呼ぶ。俺の気に入っていない下の名前が、この人はけっこう好きらしい。
ああ、腹が立つ。きれい。近い。今、目隠しもサングラスもしておらず、しかも無下限を解いている。自分の顔が熱くなるのを感じる。腹が立っているからじゃなくて。チッ。
「…アンタこそ、俺のことどう思って、」
「好き」
は?
「好きだよ。恵が思ってるよりずっと。好き、だから」
この人…3回も言った。ちょっと待って、情報が完結しない。好き。二文字。すき。俺の気持ちを知ってからかうつもり?……いや。俺は六眼を持っていなくても、目の前のまっすぐな青い瞳にうそは欠片もないと充分わかる。くそ、心臓の音がうるさい。
「…そ、そうですか…」としか返さなかった。いや、返せなかったのか……。
「もー、そうですかじゃないでしょう」唇を尖らせながら少しだけ離れた。13年も年上で、身長も190センチ以上あるというのに、この人が本当にかわいい…って今それどころじゃない。
「恵、僕に言いたいことあるんじゃない?」
言いたくない。あんたはいったい何が聞きたい。
「言っとくけど、僕の好きは先生とか保護者としてとかじゃないから。家族愛でもない、あ、でも恵と入籍したら家族になるよね~あ、僕たち入籍できるんだっけ?うーん、まあとにかく僕は恵と結婚、」
ああもううるさい。何恥ずかしいこと言い出してんだこの人、と思うと胸ぐらをつかんで次の瞬間――
その口を俺の口で塞いだ。
好き…
唇を離し、顔を見る。丸くなった青い目が、俺の目と合った。普段ならあまり見られない顔だ。
「めぐ…み?」肌が白いからだんだん赤くなるのも見える。ふーん、この人に不意打ちを食わせたら、こんな顔をするんだ。きれい。
ああ、わかりましたよ。言えばいいんでしょう、言えば。手をゆっくり伸ばして赤に染まった頬をそっと撫でてみる。さっきまでは腹が立っていたのに。今はたまらなく愛しくて口元が緩んでしまう。
「好きです。五条さん、俺と付き合ってください」
五条さんは丸く開いた目をさらに開かせた。だが、今度は驚いているわけではなく、きらきらと瞳を輝かせている。
「恵ぃぃ!男前すぎる!♡~」とまぶしい笑顔で俺をぎゅっと抱きしめる。
ああ、本当に、好きだ。