何を見ても何かを思い出す バスティの4歳になる息子は、皆にマルと呼ばれている。夫婦が初めて誕生を許容した子供だった。当時まだハイスクールへ通っていたレネが長男のジェリーを妊娠したのは全くの事故でしかなかった。バスティは何度か小娘を医者へ引っ立てて行ったのだが、病院の門を潜ると必ず彼女が目を見開いたまま涙を流すので、強要することができなかったのだ。
そんな経緯から来る危機感によるものか、自らも一度ならず殺そうとした罪悪感からか、レネはジェリーを夫へ触らせようとしなかった。だから息子も父親に懐かない。数ヶ月ぶりになる家長の帰還にも、出迎えはなかった。台所から漂ってくる、ニンニクが山と入った、何か温かい食べ物の匂いが、家人達に居留守を使わせない。子供達のはしゃぐ声は、乱暴にドアを閉める音で途切れたものの、すぐさま元の声量まで急上昇した。
4504