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    小説テステス。ついでに小話(うちヒカとカッリ族の子の話)

     私が彼女にお会いしたのは、夏の日差しも落ち着いてきた頃だった。

     ──今彼女はクリスタルタワーを再調査しているらしい。
     たまたま一緒に仕事をした冒険者が言った言葉を頼りに、私はモードゥナにある調査隊ノアを訪れていた。
     ラムブルースさんの話だと再調査の件はまだ編纂の最中で、話せるのは最初の調査になると言われた。それでも聞かせてくださいと話を伺った。最近手に入れたイシュガルド紀行録を読んでから、なら私はエオルゼアでの活躍をもっと知りたいとあちこちに足を運ぶようになっていた。
     銀泪湖一帯は珍しく青空が広がっていて、天に手を伸ばすように建つ青い水晶の塔はその姿を美しく見せていた。あそこに彼女はいるのかもしれないと思うと、嬉しさの中に一抹の寂しさを覚えた。
    「……ありがとうございます。また何かあれば聞かせてください」
     丁寧に説明してくれた彼にお辞儀して去ろうと振り返った時、少し離れたところに、あの髪を持つ彼女は居た。思わず息を止めてしまう。
     濃い夜明け色の髪と私は表現したのだっけ。目の前で見るその色はより深い紫で、美しい。
     と彼女はこちらに手を振ってみせた。えっ、と思えば彼女はそのまま近づいて来て──ラムブルースさんと会話を始めた。
     ──そう。私の事を知っているはずないもの。
     どうしてか落胆していた。私の憧れは私を知らない。
     それでいいと思っていたのに、勝手に期待して落ち込むなんて。
     邪魔してはいけないと足早に離れようとした時だった。
    「あ、待って」
     明るい声がこちらに向かって掛けられた。
     ──勘違いかもしれないじゃない。
     そう思い込もうとした時、
    「エルニアさん?」
     名前を呼ばれた。思わず振り返れば、彼女は一瞬驚いてそれから笑みを向けてきた。戦場での表情と違う、年相応の柔らかい笑みにどきっとする。
    「やっぱり、そうなのね。よかったあ……すぐに見つかって」
     少し待ってて、と私を制して彼女はラムブルースさんとまた言葉を交わした。私は言葉に従って彼女を待ちながら、心臓の鼓動を必死に抑えていた。

    「えっと……ごめんね、急に話しかけたりして」
    「い、いえ……! 英雄様から話しかけられるなんて……」
    「私のことはリゼでいいよ。エルニアさん」
     モードゥナのバー、セブンスヘヴンに私は彼女と居た。少し話をしてもいいかな、という言葉に私は震えながら頷くと、じゃあセブンスヘヴンでとなった。
     店に入った所で音に気付いた店内の冒険者たちは私達に目を向けた。それから彼女を見つけると、持っていたジョッキを少し上げてみせた。その後はそれぞれの会話に戻っていく。
     ──凄い。誰もが彼女を知っている。何より自然に彼女は馴染んでいた。
     ──誰かにとっての特別でありながらも、彼女はやっぱり一人の冒険者なのだ。
     そんな彼女と何の縁も無いはず私が一緒にいることをまだ信じられずにいた。
    「前お兄ちゃんに会った人達を探してて。確かエルニアさんはブロンズレイクのキャンプで話をしたって聞いたから」
    「あ、はいそうです。お兄様は──ウィルさんはお元気ですか?」
    「うん」
     そう返事してから、彼女は少し俯いてみせた。眉根が下がっているのを見て、尋ねてしまった。
    「何か、あったのですか」
    「……ちょっとね。大丈夫、本人は元気にしてるから」
    「そうですか……」
     たった少し彼らを知っただけの私に色々話してほしいというのが無理な話だ。分かってはいたけれど。
    「ごめんね、エルニアさんが信用できないとかじゃないの。複雑な問題だし、本人達にしか解決できないから。心配してくれてありがとう」
     私が少し落ち込んで見せたのが分かってしまったのか、彼女は庇うように続けた。優しい人だ。
     優しい人達には幸せであって欲しい。私にはそれ以上願えそうになかった。
    「いいえ、ありがとうございます。リゼさん。それで私に話というのは?」
    「そう! あのね、お願いがあって……」



    「本当にありがとう。唐突に押しかけた私なんかのお願いを聞いてくれて」
     苦笑する彼女から差し出される右手に一瞬迷いながらも、私は手を取って握った。今の彼女は英雄ではなく、兄の為に私に会いに来た妹だ。私も彼の友人として接すると決めた。ゆっくり頭を横に振る。
    「いいえ。素敵な依頼をありがとうございます。……きっと、きっと良いものにしますから……!」
    「お兄ちゃんが凄く良い詩を作る人だって言ってたから、間違いないよ。──楽しみにしてます」
     柔らかな笑顔につられて、私も笑いかけた。
    「じゃあ、また連絡するね! ありがとうエルニアさん!」
     ゆっくりしたかったけれど、次の用事もあって、と彼女は足早にテレポして行ってしまった。
     それでも彼女と顔を合わせて話すことが出来たなんて、とても幸せな時間を過ごせた。そして、彼は今も私を覚えていてくれたのも。幸せになって欲しい。あの日思った事をもう一度思った。
     彼らが幸せになってくれるのなら、私はこの依頼をこなしてみせよう。
     ──彼らに優しいはなむけを。
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