アルマとクロスのお話なんだか懐かしい夢を見た気がする…。
これは…確か、最後にアルマお姉ちゃんに会った時の…。
……結局見つけ出せなかったな。やっぱり気持ちは早く伝えないといけないんだなと、つくづく思うよ。いつも優柔不断でなかなか前に進めなくて、嫌だなぁ。
…。
頭がふわふわしていて何も考えられないな。それに、今なんだかとても心地良い気分。目を開けるには少し惜しいかも…。
もう少し、このまま…。
「………!…………ス!」
…?誰かが何かを叫んでる…?一体何を?
「……クロス!!」
俺は自分の名前を呼ばれ、はっと目が覚める。
ここは…?
「良かったわ!やっと目を覚ましたのね。」
……………………………え?
__アルマ、お姉…ちゃん?
目の前には心配そうな顔で俺を見つめる一人の少女。クセのある赤髪、青緑の綺麗な瞳、よく響く声。間違いなく、俺の初恋の"あの人"だ。
でも、どうして"あの頃と同じ姿"なの??
俺が8歳の時、俺や病院の皆にお別れを言いに来た、あの時と同じ…。
「…ア、アルマ、お姉ちゃん…」
「まあ!覚えててくれたのね!嬉しいわ!!もう10年間も会っていないから、忘れられちゃったかと思ってたわ!」
10年?……そう10年。俺はずっと、ずっとずっと、貴方を探していた。貴方に会えることを望んでいた。
そしてその間で幼く小さかった俺は、今では大人と呼ばれるくらいの年齢にまでなっていた。
口が、手が、足が。震えて上手く動けない。今ようやく、ここで再会できた。長年の俺の願いはここで果たされた。
__天国と呼ばれるこの場所で。
「ど、どうしてアルマお姉ちゃんがここにいるの…?どうして……??」
「どうして………う〜ん。さぁ、どうしてかしら?」
「はぐらかさないでちゃんと答えて」
「え〜〜〜〜!!!やだっ!!!!」
…イタズラに笑う顔も、太陽のような温かな雰囲気も、少し子供っぽいところも昔と何も変わらない。そのままのアルマお姉ちゃんだ。
でも____
「今ここで俺……僕たちがここで会えてるってことは、2人とも死んでるってことでしょ?それって_____」
「あ"ーーーーー!!やめやめ!やめにしましょそういうの!!!嫌なこと考えても何も解決しないわ!!あたしそういうのはパス!!」
首を激しく振りながら彼女はそう言う。
「今は再会できた喜びを分かち合うために時間を費やしましょ?あたし、クロスの楽しかった思い出とか沢山聞きたいわ。昔みたいにね。」
「…………。」
どう反応すればいいのか分からない。この状況を飲み込むにはどうすればいいのか、必死に思考回路を働かせる。
だめだ混乱して…頭が痛い。とにかく一旦落ち着かないと__
「…クロス」
優しい声で呼び掛けられたと同時に、彼女が包み込むように俺の体を抱き締める。
「大きくなったわね。あたしよりも小さくて泣き虫で、頼りなかったあなたがいつの間にか背も伸びて、前よりも凛々しくなっちゃって…びっくりしちゃった。」
…あたたかい。彼女から伝わる温もりが心を落ち着かせてくれる。
「それに、あたしよりも長生きしたのね。凄いわクロス、よく頑張ったわね。」
小さな手が俺の頭を撫でる。
きっと俺は、この時をずっと待ち焦がれていたのだろう。緊張や混乱で張り詰めた糸が、プツッと切れる感覚がした。それと同時に涙が、言葉が、感情が溢れてくる。
「……っ………ずっと、ずっとずっと貴方に会いたかった……もう一度抱きしめてもらいたかった…………声を聞きたかった……。」
「……………貴方が好きだと伝えたかった。」
泣き顔を見られたくないと思いながらも、涙はとめどなく零れ落ちる。嗚咽混じりの声で、必死に今までの気持ちを伝えることで精一杯だった。
「………そう、やっぱりね。あなたも"恋"を知ってしまっていたのね。」
彼女は少し悲しげな声色でそう呟いた。
「クロスがあたしに抱いていた好意が"恋愛感情"だと気づいてはいたの。…でも、それに応えれるほどあたしはできた人間ではないから。だから、ちゃんとクロスから気持ちを聞くまでは、何も知らないフリをしようって決めてた。」
「でもそのせいであたしへの想いが10年もの間、ずっとあなたの足枷になっていたのね。……本当にごめんなさい。」
……違う。俺はそんな言葉が聞きたかったわけじゃない。ただ、聞いてくれるだけで良かったのに。見返りを求めたかったわけじゃないのに。
「__でもね」
「あたし、今とっても嬉しいわ。ちゃんとあなたの口からその言葉が聞けて。気持ちに応えられないことが心残りだけれど、」
「あたしもその気持ち、よく分かるわ。あたしも"恋"が何かを知っているから…。知ってしまったから。ほろ苦くて、それでいて甘くて。胸を締め付けられるほどつらくて、なのにそれが少し心地よくて。」
「あたしたちって、なんだか似たもの同士よね。お互い恋に囚われているところとか。……なんて、一緒にされたくないか。あははっ。」
「嫌、じゃない、よ。アルマお姉ちゃんと共通点があるって思うと、なんだか嬉しい。」
「クロスってば本当に変わらないわね!そうやって相手を気遣ってくれる優しいところとか。何を食べたらそんなに素直で真っ直ぐに育つのかしら…?」
冗談半分に彼女は笑う。
その顔を見て、つい俺も笑みがこぼれる。
「…ねぇクロス。あたしたち、まだやり直せると思う?新しい恋に出会えるかしら?」
「きっと出会える、と思う。いや、出会えるよ。俺は信じてる。その時は隣で応援できる存在になりたいな。…だから__」
「来世で"また"会おうね、アルマお姉ちゃん。約束。」
「 …!えぇ、もちろんよ!約束!」
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10年前のある日__病院にて
「………本当に伝えなくていいんですか。2人にとって、とても重大なことなんじゃ…」
「いいえ、いいんです。知らない方が幸せなこともありますから。」
「そうですか…。では、こちらからも下手に口に出さないようにします。それでよろしいですね?」
「…バレンタイン夫人。」
「はい。それで構いません。ありがとうございます。」
私はクロス、あなたにある秘密を隠しているの。それにアルマちゃんにもね。
それは、あなた達が血縁関係、"いとこ同士"の関係にあること。
どうして隠すのかって?
…今の2人の関係に水を差してしまうのはいけないと思うから。
…特にクロス、あなたはあの子に恋をしているでしょう?私によく似たあの子に。
初めて2人が一緒にいるところを見かけた時、人と関わることが苦手だったあなたが恋をしてると知って、お母さんは本当に嬉しかったわ。
短い人生かもしれないけれど、今だけは幸せに生きて欲しいわ。…お母さんのささやかな願い。
どうか、その想いを離さないでね。