Cross's story"20歳までしか生きられない"
お医者様にそう言われたのは、確か4歳の時だった。
僕は生まれつき身体が弱くて、非常に疲れやすくストレスを感じやすい体質だった。おまけに中等症持続型喘息を患っていたこともあり、ベッドから動いたことなど殆どなかった。
幾度となく起こる発作、治まらない吐き気と目眩、激しい動悸。毎日が地獄のようだった。
生きるというのはこんなにも苦しくてつらくて怖いことなんだと、当時の僕はそう思っていた。
日々窓から見える外の景色が、とてもきらきらと輝いて見えた。もしも僕が健康で元気な体だったら…などという、くだらない妄想も沢山していた。もしこうだったら、きっとあぁだったら。そんなどうしようもないことばかり考えていた。
でも神様は僕に味方してはくれなかった。。
ある日、急に身体の状態が悪化した。すぐに病院に運ばれたこともあって、一命は取り留めた。でも、もう僕の体はボロボロだった。
余命宣告を受けた時、母はただ僕を抱きしめて泣いていた。「ごめん…ごめんね…」と頭を優しく撫で、ひたすら僕に謝る母の姿は、幼い僕にとって何よりもつらいものを感じさせた。
父は医者だった。昔から僕の病気の改善の為に全力を尽くしてくれた。入院してからはほぼ顔を合わせるようになった。家ではほとんど会うことがなかったのもあって、僕はとても嬉しかった。
僕は仕事をこなす父の姿が大好きだった。憧れだった。目標だった。いつか自分もあんな風に誰かを救える人間に…なんて妄想を膨らませたこともあった。
でも、どれだけ夢や希望を抱いても無意味なことは理解していた。病態は日に日に悪化する一方で、僕の日常は影が差すばかり。普通の人みたいに大人になれず、いつか暗闇の中に取り残されて生涯を終える。自分にはそれしかない、そう思っていた。
……いつの日だったかな。光が差したんだ。とても温かくて優しいお日様みたいな光。
"その少女"が僕の前に現れてから、人生が変わったんだ。
初めて会ったのは僕の病室。僕はストレス体質が理由で、他人が干渉しないよう個室になっていた。だからいつも通り、一人寂しい時間を過ごしていた。そうしたら突然ドアが開いて、女の子が慌てる様子で入ってきた。そして周りを警戒しながらドアの近くにしゃがんだ。恐らくその女の子は、他の患者の子供たちと隠れんぼをしていたみたいだった。
僕は突然のことに驚いた。それから少しして、勇気を出して話しかけてみた。
「…あ、あの…。」
「わぁ!!!!びっくりしたわ!!!」
そう言って綺麗な青緑色の瞳を大きく開き、
「あ、えと、ご、ごめんなさい…なんか、じゃましちゃって…」
「いいのよ、こちらこそ居ると思わなくて…ノックもなしに入り込んでしまってごめんなさい。」
その子がぺこりと頭を下げ、直ぐに別の場所に行こうと扉に手を掛けた
「あ、まって__」
「え?」
「あ、あの………もし、きみがよかったらだけど……その、じかんがあるときは、あそびにきてくれたり……とか……その……」
今までナディア以外の子とは話したことがなかったから、初対面の相手との会話はこれが精一杯だった。挙動不審で気味悪がられたかもしれない。
でも___
「…!また、ここに来てもいいの…??じゃあ、喜んで伺わせて頂くわね!また今度会いましょ!じゃあね!」
手を振り太陽のような笑顔で去っていくその子を見て、僕は____
心を奪われてしまったんだ。
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これがアルマお姉ちゃんとの出会い。
ここから俺の全てが変わっていった。
大事な大事な思い出。
でもそれは、ほんの小さな出来事。
何気ない、1人の男の子の初恋の記憶。