記憶をなくした豊前の話――ぜってえに忘れねえって約束したんだ。俺の守りたいモンは...。
朝の畑当番を終えて身支度を整えていると、遠征に行く予定の豊前が部屋に入ってきた。
「松うう」
「おはよう、豊前。どうしたの?もうすぐ遠征に出る時間だろう」
「今回はちと長えからさ、充電しに来た」
「充電って...」
そう言うなり、豊前は僕を背中から抱き締める。豊前の前髪が少しだけ首に触れてくすぐったい。いつもより強く抱き締められているからなのか、豊前の香りが強く香る。
今日の香りはいつも違う。何て言うか、リキュールとナッツを効かせたバニラような...... 甘さと香ばしさに少しの苦味を忍ばせた大人の男の香りがしてクラクラした。
「豊前、おまじないするから目を閉じてほしい」
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