君を思ってただ泣いた暗くなっている方に進めばいいと言われても、そこを一人で行くことに納得したわけではない。あの空間に母親を残してくることに、どれだけの思いをしただろうか。
長い間の願いだった。
あそこを、烏森を封印する事は。
けれど、こんな形を望んでいたわけでなない。
ではどんなふうにしたかったのだ、と問われても答えなどなかった。烏森は憎くて愛しくて悲しい土地だったから。
暗い中を歩きながら、自分が作って宙心丸に渡してきた世界を思う。
あれでいいのだと思おうと、思いこもうとして脚が止まった。
「…」
最後の我儘で「彼」を作った。烏森で出会った同じ年の、もう年下になってしまう「彼」を。
最後の我儘だったけれど、心の奥底に隠した本当の願いはアレだったのかもしれない。
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