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    東間の保管庫

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    東間の保管庫

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    結界師完結おめでとうございます。本当に好きなマンガです。
    pixivからお引越し。

    #結界師
    illusionist
    #限良
    goodQuality

    君を思ってただ泣いた暗くなっている方に進めばいいと言われても、そこを一人で行くことに納得したわけではない。あの空間に母親を残してくることに、どれだけの思いをしただろうか。
    長い間の願いだった。
    あそこを、烏森を封印する事は。
    けれど、こんな形を望んでいたわけでなない。
    ではどんなふうにしたかったのだ、と問われても答えなどなかった。烏森は憎くて愛しくて悲しい土地だったから。


    暗い中を歩きながら、自分が作って宙心丸に渡してきた世界を思う。
    あれでいいのだと思おうと、思いこもうとして脚が止まった。
    「…」
    最後の我儘で「彼」を作った。烏森で出会った同じ年の、もう年下になってしまう「彼」を。
    最後の我儘だったけれど、心の奥底に隠した本当の願いはアレだったのかもしれない。
    一緒にいられる日々を望んでいた。
    いや、今だって望んでいる。
    喧嘩ばかりで、よく時音に怒られた。斑尾にも呆れられた。それでも喧嘩を止めることはできなくて、殴り合いにまで発展したこともある。
    そうでもしなければ、こっちを向いてくれなかったのだ。
    何かにつけて任務、任務と繰り返すから、やけになっていた。夜行の仕事なんてどうでもいいからこっちをむけよ、と小さい子供のような癇癪だったかもしれない。
    けれど、だんだんと。本当にだんだんと近づいて行けたのに。たった一晩で、それは全て失われてしまった。

    伝えたいことはたくさんあった。喧嘩ばかりをしたかったんじゃない。もっと話したかったんだ。
    暗い道なき道を歩きながら視界が揺らいで、何回目かの涙を黒い装束で拭った。
    話したかった。最初は冷たい視線をしてくれなかったのが、面倒臭そうにでも相槌を打ってくれるようになって、それからちゃんと顔を見て返事をしてくれるようになって。一緒に歩いていても、どんどん先に行ってしまったのが、いつからか速さを同じにしてくれた。
    斑尾は「無愛想な餓鬼だねぇ」と言っていたけれど、本当は優しいのも知っている。
    怪我をしたりするのは平気なくせに、誰かが悲しい思いをするのには酷く敏感だった。
    溢れる涙で前が見えなくなる。
    一瞬だけ、あの世界になら閉じ込められてもいいかもしれないと思ってしまった。
    宙心丸が寂しくないように作ったモノたちのなかで、彼と一緒に失くした日々を過ごすのを夢見てしまった。たとえまやかしでも。自分が作ったものだとしても、確かにあの一瞬、交わした声は「彼」の声だった。
    そんな事をしたら、怒鳴られて殴られて喧嘩になって追い出されるのは解っている。そんな弱い良守を許してくれるほど不抜けてはいないはずだ。
    だから泣きながら歩く。
    母親を置いてきた世界を、「彼」を作ってしまった世界を思いながら。
    ごしごしと袖で目を擦ると、じんわりと熱くなった。
    一回だけ振り向いて、良守は拳を握る。
    言いたかった言葉は、全て嗚咽になってしまった。掌で口を覆うと涙しか流れない。
    「志々雄…」
    音は暗闇に反響することもなく消えていく。
    せめて、一言だけでも言いたかったのに、伝えたかったのに。それすらもできないような暗闇を睨んで、息をついた。
    「なぁ…」
    睨みつけたまま、涙が頬を流れて行く。
    喧嘩ばかりしてゴメン、殴ってゴメン、酷いことも言ったし、嫌な態度も取ってしまった。
    「俺、お前の事…ほんとは嫌いじゃなかったんだぞ…」



    最後に交わした言葉は、あの時も、今も笑顔だった。
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