ケープ姉が死んで師匠であるハルに拾われていくらかの月日がたった。ロキの背は少し伸び、今ではハルを背負って旅をしている。__どうやらハルはロキのことを操縦機か何かだと思っているようだが。
「今日はいっぱい移動したから明日はゆっくりしようか」ということで、ロキは旅で汚れたケープを洗っていた。
「…げ」
最悪だ、と言わんばかりの顔をしているロキの視線の先には裾が大きく破けたケープがあった。
「まぁあれだけ師匠乗せて走り回ってたらボロボロになるよなあ…」
と、ロキは操縦機代わりにあちこち走り回らされている日常に思いを馳せた。
破れたところを縫い合わせれば元通りには戻るが、これまでの活動を鑑みるにやはり多少補強しておくべきではないだろうか、とロキは考えた。このケープは姉との思い出が詰まったものなのでもとより買い換えるという選択肢は無かった。
そうと決まれば彼の行動は早かった。ロキは隙間時間にちくちくとケープを補強しはじめたのだ。
それからしばらく経ったある日、ハルはロキの様子がいつもと違うことに気づく。
「…あれぇ?ロキケープ変えたんだ?」
「…ん」
照れくさそうに返事をする彼の背中には紺色を綺麗な金で縁どった花弁のようなケープがあった。
「誰かさんのせいで破れたから手直ししたんだよ」
ロキはハルをじっと見つめると、ハルはバツの悪そうにごめんねぇと笑った。
「…それにしても」
なんだか大人っぽくなったね、とハルは言う。
「夜な夜な明かりのそばでコソコソしてると思ったけどこんなことしてたんだねぇ。ロキも最近『俺』なんか言い出したから…思春期特有のアレなのかなって」
ロキを見ながらモジモジするハルに「なんでだよ」とつっこむ。
「なんにせよまあ、すごく大人っぽくなったね。ロキ。」
ハルはロキの頭を優しく撫でる。
ロキは照れくさそうにしているが満更でもないようだ。
「師匠が教えてくれたから…こういう芸は自分の大切なものを守るために役立つんだよって」
ロキがハルと出会ってまだ日が浅い頃、ハルはロキに裁縫や文字の読み方などの術を教えた。
『こういうものはいつか自分の身を守るために必要だからねぇ。僕の先生の受け売りだよ。』
まぁ一緒に習ったヨルは裁縫なんてからきしなんだけどね、とケラケラ笑っていた。
その時はハルの言った意味がよく分からなかったが、今になればよくわかる。この芸のお陰で大切なケープを失わずに済んだのだ。
実はこのケープは死んだ姉のケープから糸を取って縁どりしている。いつか俺も、姉のように誰かを照らせる人になれるのかな、そんなことを思いながらロキはケープを翻した。